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時空(じくう)の旅人  作者: 抹茶
第二章 その異世界へ
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第八十四話 剣客 シャドウ

「……来たぞ。さっさとあんたの目的を話してくれ」


 俺の隣で一緒に歩いていた剣士は、丘に着くと俺の前へと歩み出た。

 爽やかな風が吹き、丘の草木が波打つ。

 相対した剣士は、徐に口を開いた。


「先ずは、名乗らせてもらうで御座る。拙者の名はシャドウ。武を修めるために各地を旅している者で御座る」

「……高崎正真だ。まあ、あんたは既に知っているみたいだが」


 シャドウと名乗った目の前の剣士は俺から目を離さない。

 緊迫した空気が俺達二人の間に流れている。 

 少しでも動いてしまえば、即座にこの剣士に切り捨てられてしまう。そんな予感があった。

 そして俺の方も額の汗を拭うのを忘れる程にシャドウの動きを注視していた。


「それで……目的で御座ったな」

「ああ。出来れば手短に、そして分かりやすく頼むよ」

「と、言うと……?」

「あんたが俺の敵か、そうじゃないか。まずそこをハッキリとさせてほしい」


 緊張は高まる一方だった。

 限界ギリギリの綱渡りをしている気分。間違いなく、この男は並みの相手ではない。

 俺は、相手にバレないようにスッと体を半身だけ向けた。

 戦いが始まったとき……少しでも動けるようにするために。


「答えてくれ、シャドウ」

「ふむ。そうで御座るな。拙者は……」


 唾をゴクリと飲みこみ、体全体に魔力を込めた。

 答え次第では――戦わなければならないのだから。


「お主の――”敵”で御座る」


 風が強く吹き、俺の髪を右へ左へ揺らした。

 先程まで雲一つなかったのに、いつの間にか積乱雲が太陽を覆い隠していた。

 

「敵、か……」

「左様。拙者は、お主と戦いに来たので御座る」

「何で俺なんだ? 別に他の奴でも……」

「……お主に恨みがある訳ではないが、ともかく拙者と一戦交えてほしいで御座る」


 どうやら、理由を話す気はないらしい。だが今の言葉には、どことなく焦りが見えていたような気がした。


「ッ……!?」


 シャドウは体をスッと引き、腰を屈めた。

 まずい、あの体勢に入ってしまったら、いつ剣を抜くか分からない。

 今こいつと戦ってしまったら、間違いなく一瞬で距離を詰められてしまう。

 俺の魔法は至近距離ではその効果が十全に発揮できない。せめて後数メートル、こいつから距離をとる必要があった。

 

「ま、待て!」

「何で御座る? さっさと始めたいので御座るが……」

「あんたさっき、俺の事を強者とか言ってたよな? 俺はまだ駆け出しの冒険者だぜ? そんな奴を強者というなんて、ちょっとばかし、目が曇ってんじゃねーの?」


 シャドウは後数秒程で動き出しそうだったから、俺は慌てて話しかけた。

 俺は質問しながら体を逆側に捻る――フリをして、少しだけ後ろへと下がった。

 あまりに露骨に距離をとってはいけない。流石にそんな事をすればこの剣士は見逃さないだろう。

 そして、まだ俺の魔法はバレてはいないだろうから、その射程距離は悟られてはいけなかった。

 だから今は、なんとか話を繋いで時間を稼ぐことにした。


「そんな新米を相手にして、大丈夫か? あんた」

「成程。確かにお主は冒険者としては新人だと聞いているで御座る。しかし……こうやって実際に会った結果、拙者はお主から何か()()()を感じたので御座る」

「は……? 可能性……?」

「いくつかの修羅場を潜り抜けてきた、それも、死と隣り合わせの場所で戦っていた……そんなニオイをお主はしているで御座る。拙者は数多の強者達と戦い……生き残ってきた。同じものをお主から感じるで御座る」

「おいおい……買いかぶりすぎだろう? 第一、俺がそんな風に見えるか? 自分で言うのも何だが、強者特有のオーラ……みたいなのは俺からは出て無いだろ?」


 また体を捻る。さっきよりも、少しだけシャドウは遠くなった。

 

「ふむ。確かに、一見しただけではお主を強者と判断することは出来ないで御座る。しかし、お主は先の拙者の”圧”に耐えきった。それだけで、一戦交える価値はあるで御座る」


 シャドウはまだ気付いていないのか、話を続けている。

 いや違う。恐らく、気付いていながらわざと見逃している。

 明らかに、さっきと会話している距離が違うんだ。俺が離れていってることくらい、シャドウはとっくに気付いているだろう。

 だが、それでも動かないという事は、多分こいつは見定めているんだろう。

 強者と認定した俺がどういう風に戦うのかを。


「じゃあ……最後の質問なんだけどさ、あんた、俺の事を誰に聞いたんだ? さっきから聞いてると、あんた自身が俺を見つけた訳じゃなさそうだけど」

 

 だが、例え気付かれているとしてもある程度距離を稼がなければ俺に勝ち目はない。

 明らかに、会話を続けるには不自然な間隔が俺達の間に出来てしまっているが、それでもシャドウは動く素振りを見せなかった。


「そうで御座るな。お主の事はある人物から聞いたので御座る」

「……ある人物?」

「名は言えぬ。まあ……一応拙者も冒険者として登録しているで御座るから、その仕事で出会った人物に強者としてお主を紹介されたので御座る」


 シャドウは、その誰かから俺の情報を聞いただけ。

 なら……本当に俺を狙っていたのは、そいつになる訳か。

 だがいくら聞いても、多分シャドウは話さないだろう。

 そんなことよりも……もう、限界だな。流石にこれだけ離れてしまうと――


「――それで、時間稼ぎは十分で御座るか? タカサキ・ショーマ殿」

「ああ。あんたのおかげで、目標の距離はとることが出来たよ。……何故見逃した?」

「ふふ……。お主も今日は何か別の目的で動いていたので御座ろう? それを拙者は不躾に訪ね、邪魔してしまった故に……戦いは、お主に有利になる様に配慮したので御座る」

「へえ……。結構、優しいのか……それとも、余程の自身があるのかい?」

「無論、負けるつもりはないで御座る」


 シャドウはもう完全に腰元の刀に手をかけている。

 だが、まだ動いていない。最初の一発すら、こちらに譲る気のようだ。


「……そうか。面白い人だな、あんた」

「さあ、始めるで御座る。拙者、もう我慢の限界で御座るよ」


 シャドウの言葉より数秒ほど、沈黙の時間が訪れた。

 耳に入る音は、自然が俺達を擦っていく音のみ。そして俺達の目は……相手を見据えているだけ。

 そして大きな風が吹いたのと同時に――戦闘は始まった。


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