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時空(じくう)の旅人  作者: 抹茶
第一章 始まりの空間
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第四十七話 激震

『む!?』


 突然、自分の足元を支えていた畳が崩れ落ちたことに【黒】は動揺したようだ。

 激しく音を立てて床下が崩れだしたことで、巨体の【黒】もバランスを崩す。


『これは!? そなた……』

「がふっ……! 東悟ッ……! 急いでこの部屋を出るぞ!!」


 敵は更に動揺したようだ。当然だ。まさか床下にそれほど大きな落とし穴があるとは思わなかっただろう。背中から派手に落下して、まだ立ち上がれていない。

 時間がそれほどなかったからか、流石に【黒】の全身が埋まる程には掘れなかったみたいだが、それでも下半身ぐらいまでの深さには出来たようだ。所々、小さな氷の結晶が見えて、氷藤の努力が伺えた。

 俺はまだジンジンと痛む腹を抑え、東悟の元に駆け寄る。

 だが、本番はここからだ。俺達は、早くこの部屋を離れなくてはならない。


「ぐ……正真……」

「行くぞ! 掴まれ!」

『……! 逃がさん!」

「くそっ!! 氷藤!! 江藤さん!!」


 俺は急いで東悟を肩で担いで連れ出そうとするが、敵も素早い。

 動揺しながらも上体を起こした敵は出ていこうとする俺達を見て、刀に手をかけて走り出そうとしていた。

 まずい。あの穴から抜け出させる訳にはいかない。俺は必死で二人の名を叫んだ。





――ドン!!






 その直後、そんな破裂音のような音と共に、今度は天井が落下し、無数の金属の槍が【黒】に降り注いだ。

 槍は何本かは敵に襲い掛かる様に落下する。【黒】は当然、それに気付いて弾き飛ばすが、残念ながら俺達の本命は、そっちじゃない。お前が今いる穴の周りを囲むように落下しているそっちの方だ。


『!! 囲まれ……』

「いけ! 野田!」

「……ああ!! ロックブレイク!!」


 これで仕上げだ。今まで襖の奥でじっと息をひそめていた野田が、最大魔法を唱える。

 今まで以上に巨大な岩石が俺達の前に現れ、【黒】へと飛ばされる。

 逃げ場はない。流石のアイツでもこの岩石は躱せない。


『どういうことだ。人数が……合わん。縁側の先に……!!』

「今頃気付いたか? やっぱり鈍っていたようだな!」

『彫刻……!? そなた等……!?』


 そう、これも氷藤の作戦。

 敵の鋭い察知能力は、気配を感じるとか小さな物音も見逃さないとか、そういう【黒】の類まれな洞察力に起因するものだと氷藤は踏んでいた。

 だったら、こっちは逆にそれを利用すればいい。あえて敵の前に姿を見せるように、影を見せるように江藤さんの作った。人型の彫刻を配置する。

 これにより、敵は俺達の人数を誤認する。【黒】ならば向こうで家来達が襲われている事にも気付くはず。そうすることで、俺達の総数を一人見誤らせる。その浮いた一人が、床下に落とし穴を作り、敵を落とす。


『く……』


 だが、これはかなり分の悪い賭けだった。

 【黒】が俺達と戦っている最中にそれに気づいて、床下へと注意を向けた可能性もあった。そうなれば必然、俺達の策は破綻していた。

 そういう意味では、こいつが数百年間、戦闘から離れていたことは行幸だった。俺達の策に、嵌ってくれたのだから。

 

「いけっ! いけ! いけ!」

「やれ、野田! あの野郎をぶっ殺せ!」

「ああ!! 絶対に決める!!」


 野田を後押しする。

 こいつの魔法が、この作戦最後の鍵だ。

 敵を完全に閉じ込めた。もう避けることは出来ない。


『……見事』


 その最後の呟きは、岩石の衝突音にかき消された。



「……やったかい?」

「……! 氷藤! ああ、やったぞ!」


 顔も制服も土まみれになった氷藤が、床下から這い上がってきた。

 俺は氷藤に手を伸ばし、引き上げる。手はひんやりとしていて驚いたが、同時に、爪の中にまで土が入り込んでいるのが見えた。

 きっと、必死で土を掘り進めてくれたんだろう。

 

「お前のおかげだよ、ありがとうな。氷藤」

「……まだ、分からないじゃないか。江藤さん!!」

「お……終わった?」

「それは分からない。それより、鉄槍をもう少し締められるか? ほら、あそこ」


 床下から出て立ち上がった氷藤は屋根の上に居る江藤さんの名前を呼び、落とし穴の周りに突き刺さった鉄槍の内一つを指さした。

 その一本は、出鱈目な方向に刺さってしまっていた。


「岩石を固定しよう。僕は今魔力がほとんど無くなってしまったから、君の魔法で動かしてくれ」

「わ、分かった……きゃあっ!!」

「お、おい? 大丈夫か?」

「いてて……ちょっと!? 見ないでよ!?」


 ゆっくりと屋根から飛び降りようとしていた江藤さんだったが、天井の一部が崩れて一緒に落下してしまった。幸い、怪我は無かったみたいだが、衝撃でスカートが捲れてしまっていた。

江藤さんは慌てて手で押さえたが……緑色?


「いや、見てねぇ。さっさと頼む」

「……私の目を見て言って? ねえ?」

「江藤さん、今は、あっちを……」

「高崎君? アンタは絶対に見てたよね?」


 江藤さんは文句を言いつつも、ゆっくりと鉄槍に近付いていく。

 まあ、これで大丈夫だろう、今回は全員――







――シュッ







 最初は、軽い音だった。何かが剥がれるような、そんな音。

 だが、次第にそれは大きくなっていった。

 まるで、何かを切り刻むような……


「「!?」」

『全く以て……見事。やはり、強敵よ』


 突如岩が裂け、囲んでいた鉄槍の全てが上下に切断された。

 その中から、今までとは比べ物にならないくらいの殺意を宿した【黒】が再び、俺達の前に姿を現した。そして――


『――故に、我も全力を以て戦おう。……《激震》』


 その時、大地が左右に割れた。

 

 

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