第四十六話 強敵
東悟と【黒】が動き出したのは同時だった。
互いに一瞬で自分の獲物を抜く。東悟は大剣を振り下ろし、【黒】は刀でそれを迎え撃つ形で、戦いが始まった。
――ガキィ!!
互いの武器が重なり合い、激しい音が鳴る。
その音が広間に伝播するよりも、さらに早く。まさしく呼吸を置く間もなく、彼らは二撃目、三撃目と打ち合い、互いの実力を把握する。
『成程……流石に【白】、【青】、【赤】を超えてきただけの実力はあるか』
「ッ……! お褒めいただき、光栄だなッ……!」
だが、均衡もそれまで。
二人の力の差は覆しようがない。隔絶する程に、【黒】は剣技で東悟を上回っていた。
最初は攻めていた東悟だが、互いに打ち合う度、徐々に後手に回ってしまっていた。
『口惜しいな。……さらばだ』
【黒】は刀身で東悟の攻撃を打ち払うと、そのまま斜めに東悟の命を絶たんと刀を振り下ろした。
「ぐっ……正真ァァ!!」
「バレット・セカンド!」
『む……ハァッ!!』
迫りくる刃の中を見て、東悟は俺の名を叫んだ。
襖から飛び出し、頭部めがけて狙った俺の攻撃に【黒】は即座に反応し、切り落した。まるで紙切れのように。
「東悟!」
「すまねえ……!!。助かったぜ」
『隠れておるのは分かっていたが……この程度か? 小僧』
「……へえ。バレバレだったのか」
『そこに影も見えておるではないか』
【黒】は切っ先を縁側の外に向ける。外は星々の光に照らされていて、意外と明るい。その光を受けて、縁側の先に潜む人物の影が見えてしまっていた。
『それに、屋根に一人、襖の奥にもう一人。後は……三人程、我が家来達の相手をしておるな』
……こいつ、全て言い当てやがった。
やはり、こいつの気配察知能力は侮れない。
だが、俺達も負けるわけにはいかない。もう一度構えて、魔法を撃つ。
「バレット・セカンド!」
『……話にならん。これでは、我を超えて先へは進めぬぞ』
またしても、簡単にかき消される俺の魔法。
だが、そんな事はとっくに分かっている。
今は東悟と協力して、なんとか時間を稼ぐしかない。
「東悟! 分かれるぞ!」
「おう! おい! もう一度戦いやがれ!」
冷たい風がまたしても室内に吹き、俺達の頬をかすめた。
俺達は左右に走り出し。それぞれ攻撃を仕掛ける。
「バレット・セカンド!!」
「〈武装〉! おらあっ! 今度は一味違ぇぞ!!」
『……ほう。面白い』
【黒】と東悟は再び、刀と大剣を交わらせる。
〈武装〉で強化された東悟はさっきよりも強い力で【黒】を押している。
俺も、その打ち合いの隙をついて何発もバレット・セカンドを打ち込む。
『まだまだだな』
「ぐ……くそっ!!」
しかし、それでも敵には届かない。
俺の放った魔法は、どれも【黒】が東悟と鍔迫り合いをしている時に放ったものの筈だった。
それを【黒】は着弾するより一瞬先に東悟を弾き飛ばし、魔法をかき消すことで回避していた。
そして、最悪な事にその精度は向上していく。
一瞬先が、一秒先に、二秒先に……俺達と戦う度に敵の動きは最適化され、洗練され、俺達を追い詰めていく。
『退屈だ。あまりにも、退屈。数百年ぶりの戦闘が、これほど心躍らないとは』
「ハァ……ハァ……! 東悟! まだやれるか!?」
「くっ……ああ……! 勿論だ! いけるぞ!!」
『無茶はせぬ方が良い。安心せよ。痛みは、感じるより早く死なせてやる』
退屈。息切れ一つ起こさず、そう言い放つ【黒】。
しかも、これが数百年ぶりの戦闘。
ブランクのある状態で、これか。
再び動き出した俺達。だが、敵の方がさらに早い。
急激に東悟と距離を縮めた敵は、刀を一文字に振るい、東悟を壁に吹き飛ばす。
「がはっ……!!」
「東悟!!」
『ほう……咄嗟に大剣で防いだか』
「くっ……バレット・セカンド!」
まだか、まだなのか!?
もう限界だ。この敵を相手に、もう時間は稼げない。
東悟は壁に打ち付けられて、動けなくなっている。
俺一人では、これ以上……
「ぐほッ!?!?」
すると、俺の魔法を軽々と切り裂いた【黒】が刀では無く、拳で俺の腹を殴ってきた。あまりの威力に、俺の体も壁まで飛ばされ、肺の空気が一気に流れ出す。
「が……な……ぜ……」
『少し、聞きたいことがある。心配するな。じき殺す』
切っ先を向けて、【黒】は俺の前に立った。
全身に受けた衝撃が強く、立ち上がれそうにない。ただ敵を睨みつけるだけで精いっぱいだった。
少し動くだけで【黒】は俺の命など簡単に奪えるだろう。いや、そもそも殴る必要すら無かった。
あの時、刀を振れば、それで終わっていたのだから。
それなのに、わざわざ質問。一体、何だ。
『何故、他の面々は現れぬ。ずっと隠れたままなのだ? 答えてもらおう』
「……」
『答えぬならば、それも結構』
「……いや」
そういって、フッと笑う。
【黒】から見れば、それは俺が死を受け入れたための諦めの笑みに見えただろう。
だが、本当はそうじゃない。
氷のように冷たい風が、音を立てて室内を通り抜けた。
『……む?』
「ところで、【黒】よ……」
合図が来た。ようやくだ。まったく、本当に遅すぎる。
「少し、寒くないか?」




