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時空(じくう)の旅人  作者: 抹茶
第一章 始まりの空間
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第四十二話 もてなし

『名を申していなかったな。我が名は【黒】だ。』


 【黒】と名乗った敵に俺達は建物内――こいつは『堂』と呼んでいた――を案内されている。

 全員、警戒しながらその後を付いて行く。

 建物の中は、神社仏閣を想起させる外観とは少し異なり、日本的な家屋のような作りをしていた。障子が部屋を区切り、歩む度にキイィと木材を張り付けたような床が鳴る。

 縁側の先に見えた庭の盆栽はよく手入れがなされてあり、鹿威しとそれに流れる水の音が小気味よい音を響かせていた。


『ここが寝室だ。もう一部屋あるから、狭ければそちらに移れ』


 黒が障子を開けて、寝室だと言う部屋を見せる。

 八畳程の、横長の部屋。箪笥が一つ、端に置いてあり、その上にはこけしのようなものが並べられている。

 俺達全員が入るにはかなり手狭な部屋だ。だが、もう一部屋あるというのならば、男女で分ければ全員、畳に寝ることが出来るだろう。

 もう一つの寝室へと案内するつもりなのか、敵は俺達に背を向けて廊下を進んでゆく。


「高崎君」

「……ああ」


 今なら、いける。氷藤の声で構える。

 完全に隙だらけだった。敵は背中を見せ、俺達の方を見ていない。

 目で皆に合図を送る。

 一斉に魔法を放てば、やれる。


『……どうした? 付いて来ぬのか?』


 だが、唱えようとした、その一瞬先に敵が振り返ってしまった。

 敵の顔の大部分は面具で覆われて表情を伺うことは出来ない。

 だがしかし、動かない俺達を不審に思っているようだった。


「ッ……! あ、ああ、すまない。今行く」


 急いで構えを解き、平静を装う。

 俺が応えると、敵は再び俺達に背を向け、廊下を歩き出した。

 

「「……」」


 その後も全員で攻撃の機会を探していた。

 だが、俺達が仕掛けようとするとどういうわけかこの敵はそちらに振り返り、結果として何も出来なかった。まるで、俺達の動きを察知していたかのように。

 考えてみれば、最初からこの敵は俺達の接近に気付いていた。

 気配を殺し、扉の前まで近づいてきた俺達に気付き、姿を見せた。

 ただ強いだけじゃない。圧倒的な気配察知能力。それを、この敵は有している。


『さて……、そろそろ、腹が減ったな』


 建物内を一通り案内された俺達は、この敵に全員が入るくらいの大部屋へと連れられた。

 敵は部屋に入ると俺達に並んで座る様に指示を出した。渋々それに従い、俺達は向かい合うように指示通り二列で座る。敵に一番近い位置には、白川さんと東悟が座った。

 畳が敷き詰められたこの大部屋からは庭も見えるようだが、今は縁側を挟んだ先は簾が降ろされ、障子も締め切られている。どのような景色が見えるのか、少し気になった。

 そんな風に考えていた俺達を前にして、敵は急に「腹が減った」と口にした。流石の白川さんも困惑していたようだった。


「……どういう事かしら? ……腹が減った?」

『そなた等も、食うていけ。遠慮することはない』


 その言葉と同時、大部屋の襖が開かれ、そこから数人の、武士のような恰好をした連中が現れた。

 全員、黒塗りの甲冑で身を包んでいる。


「「!」」

『案ずるな。我の家来達だ。食事の配膳を頼んである』


 新たな敵の出現に驚いたが、よく手元を見ると、その連中は背の高い盆を両手抱えるようにで持っていた。

 続いて、連中はその盆を座っている俺達の前に無言で置いて行った。盆の上には料理が並べられていた。出来立てだろう、それらから立ち上ってくるほのかな匂い混じりの蒸気が顔にあたり、鼻腔を刺激した。

 料理は、俺達が知っている、白米、みそ汁、そして魚の切り身にいくつかの漬物を合わせたもの……みたいなんだけど、えっと……。


「ね、ねえ、コレ……」

「うむ……」

「いや、ちょっとこれは……」

「おい、なんで米が黒いんだよ!?」

「ひっ!? う、動いてない!?」

「虫が入ってんぞ! 取り替えてくれ!」


 見た瞬間、阿鼻叫喚の嵐。

 米は白ではなく、真っ黒。みそ汁の具材にはわかめや玉ねぎに見えるものは入っていたが、バッタのような虫が入っていた。魚の切り身は、どういうわけか小刻みに跳ねている。


「……具材じゃなくて、具罪だね。なんでこんな料理が出てくるんだ?」


 氷藤が何か変な事を呟いた。

 犯罪的とでも言いたいのだろう、それほどこの料理のビジュアルの破壊力は凄まじかった。

 

『さあ、腹がすいたであろう、客人達よ。遠慮せず食うがよい』

「おい、何だこの料理!? ヘンなのばっかじゃねーか!!」

『何を云うておる。普通の料理ではないか』

「どこが普通だ!? 何で米が黒かったり、虫が入ってるんだよ!?」


 東悟と浅尾が声を荒げて敵に文句を言う。

 それに対し、敵は料理を口にしながら諭すような口調で語り出した。


『そなた等がどんな食事をとってきたかは知らぬが、ここで手に入る食材は皆一様にこうだ。それを食ろうて、我等も生きている。それを否定するは、我等の否定と同義ぞ』

「…ッ! いや、けど……」

「それに、色が違う、自分は食べぬからなどと云うて食事を拒否していては成長につながらん。例えば、この黒い米は、大地の魔素を吸収しておるから、食らえば魔力の回復に役立つ。その虫は体内の働きを活性化すると伝えられておる。見た目に惑わされていては、かような事にも気付けん」

「……あれ? じゃあこの切り身が動いているのは……?」

『知らん。それだけは分からん』


 最後に謎を残したが、少し、納得する話だった。

 確かにそうだ。見た目がアレな料理でも、意外な栄養素を含んでいることがあるとよく聞く。

 興味を持たなければ、そう言う事にも気付ない、か……。


「だが……」


 教えられた。見た目で判断してはいけない、と。

 この料理も、きっと体の働きを助けてくれるのだろう。

 しかし、この料理、それでも食べるわけにはいかなかった。


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