第四十話 黒い扉
「へえ。何か皆、それらしい顔つきになってきたじゃないか」
翌日、扉の前で準備運動をしていた俺達の元にセントラルが近づいてきた。
昨日は、よく眠れた。今までよりも、ずっと。
昨日皆と交わした約束。リーダーを務める約束。
重圧だと思っていたが、不思議と昨日は意識せずに眠ることが出来た。
「……まあ、何人帰ってこれるか、楽しみにしているよ」
「お前こそ、帰ってきてからとぼけるんじゃねえぞ」
「分かってるよ。ちゃんと教えるって。……君達を帰せるかを、さ」
キッっと東悟がセントラルを睨みつけた。
だが、相変わらずセントラルはそれに動じず、淡々と応える。
「皆。そろそろ時間だ」
「ええ」
「ああ」
「うん」
「分かった」
「いけるぞ」
「よし!」
「オーケー」
全員が、戦意に満ちた返事をする。
今回の扉を開く役目は、俺が引き受けた。初めて、試練に挑む前の扉に手をかける。
黒色の扉。それは思ったより強い力でなくては押すことが出来なかった。
低い音を立てて開かれた扉は、口を開けて俺達を中へと招く。
大丈夫。生きて帰る。そう決意して、俺達はその先へと足を踏み入れる。
「……さて、残る試練も、あと二つ。それが終われば……ようやく、だね」
そう呟かれた声は、俺達の耳には届かなかった。
――四つ目の試練、それはこうして始まった。
「ここは……」
「山頂……か……?」
扉を抜けた先で、俺達はいきなり強風に煽られた。
敵の攻撃だと感じ、皆警戒を強めたが、どうやらこの場所のせいで吹き降ろされた風であったらしい。
そこは、周囲を山々で囲まれた場所。
覗き込むように下を見たところ、かなりの標高の場所に居ることが分かった。
「……浅尾、周囲に敵は?」
「いや、今のところいないけど、前みたいなこともあるからな……」
浅尾が鼻を動かす。
敵はまだ分からない。今度も、浅尾の鼻が利かない相手かもしれない。
皆がそう考えて辺りを見回していると、矢島さんが声を上げて前方を指さした。
「見て! 階段があるよ!」
その方向を見ると、石段がさらに山の上へと、何段も続いていた。
また強い風が、ビュウっと音を立てて俺達に吹いた。
「……この上に、敵がいるのかしら?」
「さあ……。でも、登ってみよう」
皆その言葉に頷いてくれた。
それを確認した俺達は、東悟と白川さん、そして野田を先頭に、石段を一歩ずつ踏みしめて上る。
地面に沿うように石段が置かれていたため、段差は無く、俺達は楽にその場所へと続く行程を進むことが出来た。
「……すげえ、なんだ、ここ……」
その場所は、山の上にそびえる城というよりは、どこか神社仏閣のような印象を受けた。
日本史の教科書で見た、平安だか鎌倉時代だかに、修験僧が籠るような秘境。そんな印象だった。
俺達がその幻想的な場所に見惚れていると、浅尾が、鼻をヒクヒクと鳴らし始めた。
「……ここだ。この中に、敵がいる」
そう言って眉を顰める浅尾。
それを聞いた俺達にも、一気に緊張が走った。
「気を付けろ……一人じゃない。いくつかの匂いがする。……けど、ドデカいのが、一体、あの扉の先に居る」
浅尾の視線は、鳥居のようなものの先にある、格子状の扉の先に向けられていた。
あの扉を開けば、敵が、それも複数、いる。
「分かったわ。皆、行きましょう」
「……何か、作戦はあるのか?」
「ええ。私と久木原君で、扉を開ける。そうしたら野田君と高崎君、氷藤君で敵めがけて……一気に魔法を放って」
「了解だ。先手必勝だな」
「分かった。それで行こう」
「そうだね。それがいいかもしれない」
作戦を確認した俺達は、陣形を整えて扉へと進む。
だが、俺達は警戒しながら、一歩一歩、足音を立てないように慎重に進まなければならない。
浅尾が言うには、この敵は扉を開けたその先に居る。
何か一つでも物音を立ててしまうと、警戒されて奇襲に失敗してしまうかもしれないからだ。
「皆、息を殺して」
腰を屈めて、そう指示を出す白川さん。
呼吸一つでも、気付かれてはならない。俺達はその時事に従い、姿勢を低くして扉へと近付く。
門を超えた。あと数十メートルで扉まで辿り着ける。
俺はジェスチャーで矢島さん、浅尾、江藤さんをその場に留める。
奇襲が失敗したときの為に、三人にはその場で待機してもらう。矢島さんと江藤さんは目で頷き、静かに構える。
風が吹く音だけが、俺達に聞こえていた。
扉まであと少し。誰も音は立てていない。もう少しで、辿りつける。
『……何奴? そこに居るは』
そのはずだった。
俺達が門へと迫るまで、あと数メートル程。
その時、突然扉が左右に開かれた。
腰に刀を差し、黒色の甲冑で身を包んだ巨大な敵が、扉の先から姿を現した。




