第三十四話 この場所は
館を出た俺達は、光に包まれてあの空間へと戻ってきた。
「……ああ、なんとか、クリアできたみてーだな」
東悟が周りを見回してそう言った。
だが、その顔に達成感のようなものは無い。今度は、三人。俺達の仲間が死んでしまったのだから。
俺は、抱えていた矢島さんを床にそっと降ろした。
「明人……」
野田が、堀口の名前を呟く。
俺の知る限り、こいつと堀口は常に一緒に行動していた。部活でも、同じポジションの親友だった。その堀口が死んだ野田の悲しみは、俺達よりも深いだろう。
「あはは。両手で数えられるくらいに減っちゃったね」
空気を読まない声が耳に入る。セントラルだ。
「残る試練はあと二つ。この調子で、残りもクリアしてきてよ」
「……その前に、話すべきことがあるんじゃないか?」
いつものように、試練の後の俺達を嘲笑うかのように話すセントラルを無視して、氷藤が口を開いた。
その表情は、いつもの冷静さだけじゃなく、怒りも含まれているように見えた。
「……なんの事かな?」
「忘れたとは言わせない。此処が何処なのか、それを教えてもらうぞ」
とぼけるセントラルを前にして、氷藤は淡々とした態度で詰め寄る。
その気迫に、セントラルも押されるように顔が引きつっていた。
「ハァ……。しょうがないなあ……。でも、氷藤君。君はもう気付いているんじゃないかな? この場所が、一体どこであるかをさ」
セントラルは仕方ないとため息をついたが、そう言って氷藤を見た。
「氷藤、そうなのか?」
「ある程度は、だけどね。でも、自分でも馬鹿らしい結論だよ」
「……教えて。氷藤君」
俺と白川さんも氷藤を見て尋ねる。
俺は、第三の試練に挑むといった時の氷藤の様子を思い出した。あの時、此処が何処かを教える、とセントラルが発言した後、急にこいつは賛成側に回った。
もしかしたら、氷藤はその前からこの場所の事について何らかの確信を持っていたのかもしれない。だからセントラルの条件が提示された時、試練に挑む決断をしたのだろう。
「セントラル、この場所は……地球じゃないな?」
「……え?」
「ハハ。どうしてそう思うんだい?」
「きっかけは……いくつかあった。魔法が使えたり、龍が出てきたり、変な場所に飛ばされたり。……でも、君の口からあの時出てきた言葉を考えると、そう考えるしかなかった」
氷藤は、セントラルをじっと見て話している。
……何を、行っている? 地球じゃない? じゃあ、此処は……?
そんな理解の追いついていない俺達を置き去りにして、氷藤とセントラルとの会話は続く。
「あの時の言葉?」
「僕たちが、魔法を使えないと分かったとき、お前は『そういう世界もあるのか』と言ったな? よく考えれば、おかしい。同じ世界にいるのなら、『世界』なんて使わず、例えば『場所』や『人』って言うだろう? 僕たちを見て驚いていたなら、なおさらだ」
「へえ……よく見てるもんだねぇ」
「だから……ここは、地球ではない、別の星……いや、『異世界』と言った方がいいかな? ……どうだ? セントラル」
俺達は、セントラルに注目する。
そんな事が、あり得るのか? 俺達の考えは、その一点に集約されていた。
確かに、俺達は魔法を使い、現実ではありえない敵と戦ってきた。それでも、異世界という言葉を簡単に受け入れることは出来ない。
此処を出れば、家に帰ることが出来る。外に出れば、ようやく解放される。そう信じて戦ってきた。それなのに、外は俺達が見たこともない世界が広がっている。それを認めてしまえば、今までの努力を否定することになっしまう。
違ってくれ。そう願い、セントラルの言葉を待った。
「――ハハハ。正解。此処は、君達の住んでいた世界とは、全く違う場所だよ」
だが、現実は非常にも、俺達の願いを笑い飛ばした。
「おい、てめえ……! マジで言ってんのか!?」
「そうだよ。君達は、別の世界から僕が呼び出したんだ」
「じゃ……じゃあ……外に出ても……」
「うん。君達の知らない世界だね」
此処は、異世界。それを信じることが出来ず、俺達はセントラルに詰め寄る。
だが、どんなに捲し立てても、返ってくるのは、その言葉だけ。
仲間が死んでゆきながらも繋いでくれた希望が、音を立てて崩れてゆく。〈試練〉を乗り越えても、俺達は家に帰れない。心が、折れる音が聞こえた気がした。
「……いや、セントラル。君なら、僕たちを元居た世界に帰せるんじゃないか?」
だが、氷藤のその言葉で、絶望して下を向いていた俺達の顔が上がる。
「君は、僕達を呼び出した。なら、送り返すこともできるんじゃないか?」
腕を組み、淡々とセントラルにそういう氷藤。
確かに、そうだ。セントラルが異世界に俺達を呼べるのなら、その逆、俺達を、異世界から元の世界に帰すこともできるかもしれない。
「……そうだ! セントラル! どうなんだ!? お前は、俺達を元の世界に帰せるのか!?」
「教えて。 あなたなら、出来るの?」
「おい! 黙るな! 答えろ!」
全員、その考えに辿り着いたようだ。
俺達は一斉に、セントラルに向かって、出来るのかを問い詰め始めた。
だが、セントラルの答えは……
「〈四つ目の試練〉。……それに生き残れたら、答えてあげるよ」
ただその一言だった。




