第二十九話 正体不明の敵
「クソッ! 開かねえ!」
扉を蹴り、声を荒げる東悟。
野田と堀口も協力して扉を押すが、ピクリとも動かない。
「ねえ、閉じ込められたってこと……?」
「ああ、僕らを逃がすつもりはないみたいだね。……この敵は」
江藤さんが怯えている。
俺達は、氷藤の言葉で最悪の状況にあることを再認識した。
浅尾の鼻に反応しなかった、今回の敵。今その敵は、俺達をこの館に閉じ込めた。
だが俺達は、その正体を未だつかめていなかった。
「お、おい……そしたら、どうすれば……」
「皆。二階へ行こう」
皆が、俺を見た。
拳を固く握る。皆を巻き込めるかは分からない。けど、『単純』に考えた結論は一つしかなかった。
「敵を探りに行こう。ここに居ても、どうせ死ぬだけだ。だったら、今は急いで敵の正体を見破りに行った方がいい」
「高崎……だが……」
「怖いのは……分かってる。俺も、怖い。でも、何も出来ずに死ぬよりかは、行動して生き残る道を掴む方がいいと思うんだ」
頬を汗が伝る。皆に伝わっただろうか。
恐怖と緊張で足が震えてしまう。
「……分かった。確かに、そうだね」
「高崎君。私も行くよ」
氷藤と矢島さんが最初に賛同してくれた。
「まあ、正真が言ったんだ。やってやるよ」
東悟も乗ってくれたようだ。続き、野田、堀口、江藤さん、浅尾、三原も賛成してくれた。
「後は……白川さん」
「ええ……高崎君、勿論賛成よ。……話し合いの時とは、全く逆ね」
昨日、白川さんが試練に挑もうと言った時と、奇しくも逆のシチュエーション。
意図せず意趣返しが出来たことに少しスッキリしつつ、俺達は二階へ戻る。
「!? おい、西田さんは、何処だ!?」
だが、廊下に倒れていた筈の西田さんの姿が消え、血溜りだけが絨毯の上に残っていた。
「消えた……?
「どういうことだ……!?」
「高崎君、向こうを見てくれ」
氷藤に言われ、俺はその先を見る。すると、血を踏んだ足跡が、さらに奥へと続いていた。
「生きてたってのか!? 西田さんが!?」
「……分からない。皆、気を付けよう」
灯の無い廊下を進む。目の前がよく見えないまま、足跡を追って俺達は歩く。足跡は、血溜りから少し進んだ……二階の、二つ目の部屋に続いていた。
「……ここだな。おい、白川」
「ええ。久木原君。……大丈夫よ」
東悟と白川さんを前にして、部屋の中へと入る。薄暗くて、部屋の様子はよく分からない。だが、一つ目の部屋と、それほど大差のないように感じた。
「! 西田さん!」
その部屋のベッドの上、西田さんの体が、手を胸の前に組んだ状態で横たわっていた。
白川さんが急いで部屋の中に入り、西田さんの体を揺らす。
「矢島さん! 急いで回復を……」
「……ケケ」
矢島さんを呼ぶ白川さん。だが、その隣で、不気味な声をあげながら
――西田さんが、起き上がった。
「西田さん! 良かった! 生きて……」
「ケケケッケケケッ!!!!!!」
「!? 西田さん!? 何を!?」
暗くて、表情は分からない。だが、突然西田さんは奇声をあげながら、手に持っていたナイフで白川さんに襲い掛かった。
「ケケケケケ!!!!」
「くっ……やめてっ……!!」
白川さんは、なんとか西田さんの腕を振り払う。バランスを崩してベッドから落ちた西田さんの体が棚にあたり、上に置いてあったものが床に散乱する。
西田さんは顔を上げ、俺達の方を見た。
「ケ……ケケケッ!! ケケケケケ!!!!!」
「おい、止めろ!」
「西田さん! どうしたの!?」
呼びかけても、西田さんは止まらない。普段の彼女からは考えられないほどのスピードで、俺達に襲い掛かってきた。
「クソッ!! 逃げろ! 皆!」
俺は皆にそう叫ぶ。廊下を駆け抜け、一階へと降りる。
だが、それでも西田さんは俺達を追いかけてきた。
「がっ……助けてっ……」
その時、三原が躓いて転んだ。俺は急いで戻り、三原を助けようとするが、その前に西田さんが三原に馬乗りになり――ナイフを突き立てた。
「ケケケケケケケケケケケケケ!!!!」
「がああああああああああああ!!!!」
何度も何度も、ナイフを三原に刺し続ける西田さん。三原の絶叫と、彼女の不気味な笑い声が、館中に響き渡る。
「くっ……止めろおお!! バレット!」
「西田ッ! 止めやがれ! サンダーボルト!」
俺と堀口は、威力を抑えて魔法を放つ。
俺達の魔法は西田さんに直撃し、彼女の体は三原から離れた。
「か……はぁ……」
「三原! 大丈夫か!?」
「今助ける! 待って……」
――ブワッ
直後、西田さんの体から、何かが噴き出した。血ではない。何か煙のようなものが、彼女の体から溢れ……三原の体に移った。
「!? ああああああああああああ!?!?!?!?」
すると、三原は叫び声をあげ、西田さんの時と同じく、全身をかきむしる様に苦しみだした。
「あああ!? や……いやだっ……やめろおおおおおお!!!」
それが、三原の最期の言葉だった。
血を廊下中にまき散らした三原は、もう動かなかった。




