第二十八話 不穏な館
「行くぞ。お前ら」
作戦を立てた俺達は、話し合い通りに扉の前に並ぶ。
白川さんと東悟が扉の前に立ち、東悟が扉に手をかける。
――ゴゴオォ……
重苦しい音と共に東悟が扉を開き、俺達は館に足を踏み入れる。
「トーチ!」
館の中も薄暗く、よく見えなかったが、西田さんが魔法を唱えたことで光が宿り、館内を照らす。壁には絵画が飾り付けられ、棚には調度品が並んでいる。中央にある長机には純白のテーブルクロスが敷かれ、皿やフォーク、ナイフが並べられていた。
だが、窓があると思われる部分には、木の板が何重にも貼り付けられてあり、外の様子は分からなかった。
「……貴族の家って感じだな」
堀口がそう呟く。確かに、見る者すべてが一級品という印象を与えるが、同時にそれはこの寂れた森とのちぐはぐさによる不気味さも見せていた。
俺達は周囲に気を付けながら、一階を探索した。
そこには玄関から見えた広間以外にもいくつか部屋があり、警戒しながらもそれらを隈なく調査したが、結局、何も見つからなかった。
「じゃあ、二階か?」
俺は、広間の先にある階段を見る。外観では、この建物は二階建てだった。つまり、そこに何もなければ、この館に敵はいないということになる。
そう考えて階段に向かおうとした時、
――急に、笑い声のようなものが聞こえた気がした。
「ッ……!?」
驚いて俺は周囲を見回す。俺達じゃない。俺の知らない笑い声。俺達を嘲笑うかのような君の悪い声が、聞こえた気がした。
「どうした? 高崎?」
「浅尾……敵のニオイがするか?」
「え? ……いや、まあ、ホコリ臭くはあるけど、とくに感じないな」
浅尾の鼻には何の反応もないらしい。俺は、ちらりと開けっぱなしの扉を見る。
木々が揺れる音が、扉を通ってここまで聞こえている。……きっと、それと聞き間違えたのだろう。そう考えて、俺は大きく息を吐く。
「いや、何でもない。気のせいだったみたいだ」
「そっか。まあ、なんかここ、嫌な感じがするからな」
そう。この館に入ってから、ずっと不気味な空気が漂っている。
まるで、誰かに見られているような。そんな感覚をずっと感じる。
「……それじゃあ、皆、二階へ行きましょう」
白川さんの言葉で俺達は階段を上る。
一歩一歩階段を踏みしめるたびに、俺達は一階よりも濃い、悪意のようなものに近付いていくような気がした。
「まずは、この部屋か……」
二回には、一階のような広間は無く、ただ部屋が廊下に並んでいた。東悟は、一番手前にある部屋のドアノブに手をかけ、中に入る。
「……普通の部屋って感じだな」
「来客用の寝室だったのかしら?」
部屋の中には、ベッドと机、本棚などが一通り揃っている。簡素な部屋だったが、それでもホテルで提供されるような、そんな上等な部屋に見えた。
「西田さん、そしたら、私と一緒にこの部屋に……」
「う……っ……」
突然、火の玉を掲げていた西田さんが苦しみだし、その場にうずくまった。体をかきむしりながら、彼女の体は小刻みに揺れる。
「お、おい! どうした!? 西田!?」
「西田さん!? 何かあったの!?」
「が……い……や……死に……くない……いやああああッッッ!!!!」
俺達は西田さんに傍に行き、背中をさすって、彼女に尋ねる。
だが、彼女は叫びながらその手を払い、暴れ始める。
「落ち着け! どうしたんだ!? 西田さん!?」
「嫌っ……!! やめて……!! ああああああああああっっっ!!」
「ちょ……、西田さん!?」
突然、彼女は廊下を走り出した。体をさらに激しくかきむしり、声をあげながら走る彼女は――直後、全身から血を噴き出し、その場に倒れた。
「……は?」
「に……西田……さん?」
彼女を追いかけた足が止まる。今……何が起こった?
倒れた西田さんはもう動いていない。彼女からあふれ出す生臭い液体が、絨毯の上に広がっていく。
思考が追いつかない。いや、一体どうして、西田さんが――
「ぐ……浅尾っ!! 敵は何処だ! 言え!」
「た、高崎……そ、それが……全くしないんだ! 敵のニオイなんか、全く感じられないんだ!」
「じゃあ、あれは何だ!? どうして西田さんが……」
「分からねえよ! 俺だって、頑張って嗅いでいるけど、それでも敵を感じ取れないんだよ!!」
俺は浅尾に怒鳴る。西田さんを見下ろして、歯を噛み締める。
敵のニオイは無い。浅尾のその言葉に、俺は納得がいかなかった。そんな訳がない。明らかに、西田さんは敵の攻撃を受けた。どうしようもない怒りが、沸々と込み上げてくる
「……中止よ。一旦、外に出ましょう」
その時、冷静に白川さんが口を開いた。
「高崎君。西田さんの事は悔しいわ。でも、こうなった以上、長くこの場所に留まるのは危険よ」
「……だがっ!!」
「待つんだ、高崎君。白川さんの言う通りだ。まず外に出てから、原因を考えよう。……今回の敵は、非常に危険だ」
白川さんと氷藤に諭され、俺は外に出ることを決める。他の奴らも、西田さんの死にショックを受けつつも、この館からひとまず立ち去りたかったようだった。
ああ、仕方ない。確かに、この敵は、浅尾の鼻にも感知されずに西田さんを殺したようだ。その正体が分からい以上、先に進むのは自殺行為だ。
俺達は再び薄暗くなった館の階段を降り、外へと続く扉へと歩くと
――扉は、硬く閉ざされていた




