第十八話 甘さ
周囲の風景は、平原から薄暗い部屋へと変わった。
戻ってきた。二つ目の試練を超え、生きて帰ってきた。
しかし、その代わり俺達は大事な仲間を再び失ってしまった。俺は右手を固く握りしめ、唇を噛み締める。
「お疲れ。また減ったね」
セントラルは、俺達を見送った場所に変わらず立っていた。両腕を組み、俺達を憐れむような目で見ている。
「氷藤君! え!? なんで!?」
突然、部屋中に矢島さんの焦った声が響く。見ると、彼女は横たわった氷藤に手を当てていた。
「どうしたの!? 矢島さん」
「氷藤君の回復がまだ終わってなかったから、回復しようとしたんだけど……、でも、魔法が使えないの!」
「……ああ、この空間じゃ君達は魔法を使えないよ。回復するんなら、外でやってよね」
この空間では、魔法を使えない。その事実に俺は驚くが、今は氷藤の治療が先だ。
白川さんと協力して、俺は氷藤を白い扉の先にある森の中に連れ出した。
――その後、森の中で矢島さんが氷藤に回復魔法をかける。今度は問題なく発動したようで、氷藤の深い傷は次第に塞がっていった。
数分ほど、全員それを黙って見ているだけだったが、それに耐えきれなくなったのか、野田が口を開いた。
「……俺の……せい、だ……」
野田の目元はひどく落ち込み、口元はわなわなと震えていた。
「俺が……調子に乗ったから……、米原や、近藤が、皆が……」
「それ以上言ったら、本気で刺すわよ。野田君」
吐き出される野田の感情。
だが、それは白川さんによって切り捨てられた。しかも、本気の殺意を持って。
「し、白川さん!?」
思わず、江藤さんが言葉を漏らす。江藤さんだけじゃない。この場にいる全員が彼女の言葉を聞いて驚愕していた。
当然だ。これほど苛烈な言葉が彼女の口から出てくるなんて、誰も想像してなかったから。
俺達の反応は無視して、白川さんは次の言葉を続けた。
「……確かに、あなたが皆の事を無視して敵に挑もうとしたのは、あなたの責任よ。けれど、彼らを死なせたのは……力不足が原因よ。いいえ、それだけじゃないわ。最初から、私達は甘かった。こんな力を得たことで、楽に勝てると思ってしまっていた」
彼女はそう言って腰元のレイピアに目をやる。
確かに彼女の言う通りだった。俺達は何も知らないで、与えられた力の大きさに舞い上がってしまった。こんな後付けの力で一体何故、強くなったと勘違いしてしまったんだ。俺達は、何も変わっていない。中身は、戦闘を知らないただのガキじゃないか。そのズレが、この結果なんじゃないのか。
「……白川。けど、やっぱり俺が……」
「やめて。聞きたくない。もう変えられないことじゃない。だから、自分だけのせいだなんて言うのはやめて」
そういって、白川さんは再び口を閉じた。野田も、不服そうな顔はしていたがその後は何も言わなくなった。
沈黙がしばらく続く。皆の顔は沈み切っていた。
その時、氷藤の目が開いた。
「う……ん……?」
「! 氷藤! 気が付いたか!」
「あれ? 皆……。 ! 龍は! 何処に!?」
俺は、氷藤に状況を説明した。まだ戦闘が終わっていないと思って興奮していた氷藤だったが、既に倒されたと知ると、いつもの冷静さを取り戻していた。
「……あと、ありがとな。お前に助けられなかったら、今頃俺も東悟も消し飛んでた」
「助かった。氷藤」
「別に……君たちが残った方が、今後の敵を倒せると思っただけだ」
氷藤はそう言って俺達から目を逸らす。
今の台詞に若干の違和感を覚えたが、俺と東悟はそこで話を切り上げた。
――そして日が暮れる頃、森の中で俺と東悟は火を囲んでいた。




