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かわいそうな旦那様‥  作者: みるみる
26/33

26、ベラとモルガンが捕まって‥



静まり返った森の中に、テオの嗚咽の声だけが響きました。


ベラはそんなテオを無視して、自身の持ってきた大きな籠を手にし、花畑へと向かいました。そして、そこに群生している珍しい花々を摘み始めました。


テオはそんなベラに対して、何か一言言ってやりたくなりました。


「‥ベラ!リリアを殺しておきながら、よくもそんな泥棒みたいな真似をできるな!」


「‥あら、だってそもそもここに来たのは、この花を摘むのが目的だったんだもの。」


ベラは悪びれる様子もなく、そう言ってのけました。


「‥ああ、僕はリリアを裏切って、こんな女の事を追いかけていたのか‥‥。リリア、本当にごめん‥。ごめん。」


テオはまた泣き出してしまいました。ベラはそんなテオの姿を一瞥すると鼻で笑い、またひたすら花を摘みとりました。


ベラが花を摘み始めてしばらくすると、籠の中は花でいっぱいになっていました。


「‥ふう。これだけ摘めば結構なお金になるわね。」


ベラがそう言って、花畑から出て行こうとすると‥‥



「おいてけ~。おいてけ~。」



花畑から誰かの声がしました。テオの声でもない、地の底から響くような不気味な声でした。


「‥なっ、何よ。誰なの?」


ベラは気味が悪くなり、早く森から出ようと思いました。‥ところが、急に目が染みて前が見えなくなったのです。辺りにはミントの香りが漂っていました。


「あーっ、目が、目が、痛い!」


目を押さえて暴れるベラに、薔薇の蔓のようなものが巻きついてきました。


「あーっ!トゲが痛い痛いっ!」


そして‥‥そんなベラの背後では、食肉植物が大きな口を開けて、今にもベラを食べようとしていました。と、その時‥‥


「‥キュリオス公爵夫人!リリア・フェンネル侯爵令嬢の殺人容疑で逮捕する!」


森の湖の茂みの中から数人の警備隊が出てきて、ベラを取り囲んでしまいました。‥‥そしてその後ろを、ベラのことを食べ損ねてがっかりした様子の食肉植物の妖精チッチが、歩いて去って行きました。


警備隊に取り囲まれたベラは、それでも抵抗する姿を見せました。


「‥なっ、何を言ってるの?‥どいて!今から帰るんだから!」


ベラはそう言って、花の入った籠を両手で持ちあげると、森から出る一本道の方へ歩き始めました。


「とぼけるな!我々はお前の事をずっと張り込んでいたんだ。」


警備隊は再びベラを取り囲むと、今度は縄で縛ってしまいました。


「‥‥!」



こうしてベラは、リリアの殺人の容疑で、王様の私設警備隊に捕まったのです。


そして、王室の取り調べ官の取り調べをじっくりと受ける為、しばらくは王宮の地下牢へ繋がれる事となりました。


一方、夜会の際に一度逮捕されたモルガンですが、被害者であるリリアの証言に基づき、誘拐の容疑に、殺人未遂の容疑が加わりました。


その為モルガンは再逮捕されて、ベラと同じくじっくりと取り調べを受ける為に、地下牢へ繋がれる事になりました。



警備隊が縄で縛られたベラを連行していく中、テオはまだ湖を見ながらぼーっとしていました。


警備隊の一人が、テオに声をかけて強引に森から出さなければ、テオは朝になるまで‥‥いえ、一日中だって湖を見ていそうな様子でした。


それからもしばらくテオは、ぼーっとする様になり、かと思うと急に泣き出すようになりました。


心配した執事は、テオの為に公爵家お抱えの医師を呼びました。


ですが、医師の診断はあっさりしたものでした。


「‥何かよほど精神的なショックを受けたようですね。まあ、そのうち良くなると思います。特に仕事も休む必要はありません。むしろ、気晴らしになって良いかもしれません。」


「‥‥そうですか。」


執事は、医師を屋敷の入り口まで見送るとすぐに屋敷へ戻り、誰にも見られないようにそっと泣きました。


リリアが実は実家のフェンネル侯爵領で生きていた事がようやく分かったと思ったら‥、ベラに殺されたというのですから‥。


執事はリリアがかわいそうで、涙が止まらなくなってしまったのです。


それは屋敷の従業員達も皆同じでした。


公爵邸は、これまでにないほどの悲しみに包まれていました。



やがて、リリアが実は実家のフェンネル侯爵領で生きていたが、ベラによって殺されたというニュースは、国中に広がっていきました。



そして、ベラとモルガンの取り調べが進められる中、王様と王妃様は息抜きにお茶会をしていました。


「‥はぁ、これでやっとベラとモルガンをまともに裁けるんだな。」


王様はそう言うと、お茶を手に取り飲みながら、深いため息をつきました。


「‥リリアちゃんの言った通りになったわね。ベラにリリアちゃんが生きてると思わせて、ベラがリリアちゃんを殺害しようとするところを警備隊に現行犯で逮捕させる‥。


おまけに、モルガンの誘拐事件についても、あれは殺人未遂だ!って警備隊の前で、リリアちゃん自身が証言したのでしょう。‥これで二人共死刑か終身刑は確定ね。」


「‥でも、リリアは生きてるんだろう?殺人の容疑は‥。」


「あら?リリアちゃんは、妖精王と口づけをして加護を頂いているから、水の中でも普通に生活できますけど、普通の人なら深い湖に落ちたら死んでてもおかしくないのよ。」


「‥テオやテオの執事が相当落ち込んでいるらしいが‥。」


「リリアちゃんが執事さんにだけは、ベラ達の刑が執行されて、リリアちゃんのお葬式が終わったら‥こっそり真実を教えてあげるらしいわ。」


「はぁ、国中を騙すわけか‥。」


「あら、あなただって言ってたじゃない。リリアちゃんが本当にベラに殺されて死んだ事にしてしまえば、ベラに重い刑罰を与えられるし、リリアちゃんも貴族社会から解放されて森で妖精王と静かに暮らせるから、一石二鳥だって‥。」


「ああ、言ったな。」


「‥‥それに、リリアちゃんのベラとテオへの復讐にも協力したいって‥。」


「‥それも言ったな。」



「‥テオがああなるのは予想外でしたけどね。


リリアちゃんは、ベラが捕まって刑を受ける事で、テオにベラの本性を教えてがっかりさせたかっただけなのに。」


「‥テオはベラさえいなければ、リリアと幸せな家庭を築けたのかもな。」


「ええ、本当に。それに、あなたの可愛い甥っ子のテオとリリアちゃんの結婚は、私達と公爵夫妻と、侯爵夫妻皆んなが望んだ結婚でしたからね。」


「‥テオは馬鹿だけど、戦争や有事の際は、これまでにも沢山の功績を残してきてるし、部下達の信頼も厚いんだ。‥本当に優秀な男なんだよ。」


「‥まだ若いですし、これから良い出会いだってありますわよ。なんなら、私の知ってる令嬢をテオに紹介しても良いですよ。」


「‥ああ、それはいいな。テオはなんだかんだで女好きだからな‥。新しい令嬢と出会ってすぐに立ち直ってくれるといいんだが‥‥。」


「‥フフフ。彼女なら、テオがすぐに立ち直るようにしてくれますわ。甘ったれたテオには、本当にぴったりの令嬢なのよ。彼女もテオみたいな男が好みらしいし。‥‥テオのこれからが楽しみだわ。」


王妃はそう言うと、とても満足そうに笑いました。



‥‥いつの間にかテオの知らないところで、思わぬお見合い話が出てきてしまいました。


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