23、リリアを追って‥
テオの部屋を急いで出てきたベラは、手に持ったワイングラスをワナワナと震わせながら、廊下を早歩きで歩いていきました。
ベラが廊下を勢いよく歩いてくるものですから、侍女達はそれを避けようとして、持っていた洗濯物や掃除道具を落としてしまいました。頭にきた侍女は、ベラに文句を言ってやりました。
「‥ちょっと、危ないじゃない!気を付けてよ!」
するとベラが立ち止まり、文句を言った侍女の足もとへ、持っていたワイングラスを投げつけてきました。
「キャーッ!」
侍女が床に落とした洗濯物や侍女のお仕着せには、グラスについていた微かな赤い液体が細かく飛び散り、割れたグラスの破片も床に散乱しました。
ベラは、グラスを投げつけられてショックを受けて震えている侍女の様子を、一瞥するだけで去って行きました。ベラは無性に苛々していたのです。
ベラは、どこへ行くというあてもありませんでしたが、玄関を出て庭まで来ていました。
庭をウロウロとしていると、医師が玄関にやって来ました。ベラはとっさに庭の奥の茂みへと隠れ、医師が帰るのを待ちました。
と、その時ベラの耳に侍女達の話し声が聞こえてきました。どうやら侍女達が洗濯物を干しながら、無駄話をしているようです。
ベラは「仕事に集中しなさい!」と文句の一つでも言ってやろうと思い、茂みから立ち上がろうとしましたが‥、侍女達の口から「リリア」の名が出た為、再び茂みに隠れました。侍女達の話を盗み聞きする為です。
「ねぇ、リリア様を見たっていう人がいるらしいわよ。」
「えっ、本当?じゃあやっぱり生きてらしたのね。‥それでその人はリリア様をどこで見たの?」
「黒いフード付きのマントで身を隠し、街の花屋さんにお花を納品してたんだって。」
「‥花屋さんに納品?‥じゃあきっと、リリア様じゃないわね。」
「でも、フードから銀色の長い髪が見えたんだって。」
「それなら間違いなく、リリア様だわ!‥それで、リリア様はその後どこに行ったの?」
「‥そこまでは分からないみたい。‥でも、リリア様のご実家のある、フェンネル侯爵領の方角へ進んで行った気もするって言ってたわ。」
「‥やっぱり生きてらしたのね。もうこの公爵家へは戻って来られないでしょうけど、どこかでまたお会いしたいわ。」
「‥私もよ。」
侍女達は洗濯物を全て干し終えたのか、まだ話をしながらも、次の作業場へと移動して行きました。
「‥リリアが生きてるですって?」
ベラはリリアが生きてるのかどうか、この目で確かめたくなりました。すると、居ても立っても居られなくなり、すぐさま街へと向かいました。
「‥街の花屋さん‥。」
ベラは花屋という花屋を回って、黒いフード付きのマントを着た人物を探しました。何件も花屋を回り、諦めかけたその時‥‥
黒いフード付きのマントで身を隠した人物が、目の前の花屋に入っていくのを見つけました。
店の窓を外から少し開けて、花屋の中をそっと覗いてみました。
お店の中では、店長と黒マントの人物が立ったまま話をしていました。
「いらっしゃいませ‥‥、あっオーナーでしたか。」
「ご苦労様。お客様の反応はどう?」
「どの花もとても人気ですよ。生花だけでなく、花の種苗も人気です。」
「そうなのね。」
「‥今日はオーナー自らお店回りですか?」
「‥ええ、最近は従業員の営業や納品にも時々付いて来てるのよ。」
「‥何か問題でもあったんですか?」
「‥ううん、そうじゃないの。街の様子が知りたくて‥。それにフード付きのマントで身を隠してたら、私ってバレないかな‥と思ったの。」
「いやいや、オーナーの顔や髪色がチラッと見えてますから‥。もうやめた方がいいですよ。‥まさか、お一人じゃないですよね?護衛の方もいますよね?」
「勿論よ。お父様が護衛を二人付けてくれてるの。」
「‥なら良いですけどね。気をつけて下さいよ。」
「‥分かった。ありがとう。」
リリアが店長に別れを告げて花屋を出ると、お店の近くの道路や路地にいた護衛も出てきました。
そして三人は侍女達の話していた通り、フェンネル侯爵領の森の中へと入って行きました。
森の中は、意外にも明るく道も整備されており、とても開放的でした。
ところが、道は湖が見えたところで行き止まりとなっており、いつの間にかリリアらしき人物達も消えていました。
ベラは、辺りを見回しました。やはり人影は全くありませんでしたが、湖のまわりに色とりどりのお花畑があるのを見つけました。そこには、王都で人気のラベンダーやミントや、珍しい外国の花々も群生していました。
「‥凄い。あれを売ればお金儲けができるじゃない!」
ベラはそう呟くと、来た道を公爵邸へと急いで戻って行きました。
一方リリアは、街から湖の中へ帰ってくるなり、妖精王に抱きついて甘えていました。
リリアに付いてた護衛の二人はというと‥‥森のカタバミとスミレの花畑に戻って行きました。二人はカタバミとスミレの妖精だったのです。
妖精王は、可愛く甘えてくるリリアをそっと抱きしめ返し、優しく語りかけました。
「リリアは相変わらず甘えん坊だな。‥で、釣れたのか?」
「フフフ。ええ、本命が釣れたわ。近いうちに例の計画が実行できそうよ。」
「‥それが終われば、やっと盛大に結婚式が挙げられるな。」
「ええ。お待たせして申し訳ありません。」
リリアはある計画の為に、わざと街へ出向いていたようです。そして、それは近いうちに決行されるのかもしれません。




