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料理講習と厄介事

 セアラは上機嫌で鼻歌を口ずさむ。

 ギーオ達リザードマンが手に入れてくれた一角牛でチーズ、バター、生クリームなど作ることが出来たからである。

 これで、料理の幅も更に広がった。日本に生まれたセアラとしては、作物の種類も増え食料不足の心配はなくなったとはいえ、食べたいものが食べられない状況はストレスである。特に甘みが足りなかった。

 これでケーキが作れるとセアラの心は浮かれっぱなしである。

 早速、食事係の住民を集め、パン作りの時と同じように手伝ってもらうことにする。


「国主様、また新たな美味しいものをお作りになるのですか?」

 キラキラと瞳を期待に輝かせ、女性は口を開く。


「うん、今回はとびっきりに美味しいものだから期待して。」

 セアラの自信ありげな様子に女性陣の目はますます輝く。


 セアラの作るものは美味しいと住民皆が身をもって知っている。

 住民達の過去の状況を顧みれば仕方ないことだが、彼らは料理知識も技術もお粗末だ。

 肉は塩をつけて焼くかスープに入れるかの2択である。

 揚げる、蒸すなどといった方法はもちろんない。

 だからセアラは色々なレシピを住民と一緒に料理を作ることで覚えてもらい、食の発展を現実世界に少しでも近づけるよう奮闘している。

 その甲斐あって住民達はセアラの作り出した料理に虜となり、教えられた料理を完璧に再現できるようになり味の研究も進んでするようになった。


「今から『ピザ』と『ケーキ』を作るよ。私が見本となって作るから真似してみて」

 

 そう言ってセアラは小麦粉に水、砂糖、塩、植物油を混ぜねりねりと捏ねる。

 まずはピザから作る。ケーキはデザートなのでその後だ。

 皆が真剣な顔でセアラの手元を見ながら、分量に気をつけ真似る。

 女性陣内の1人は手順や分量を紙にメモしている。

 セアラは特別料理が上手だという訳ではない。

 だけど母親によって夕飯の支度やお菓子作りをよく手伝わされたので同世代の少女達よりは料理が出来、レパートリーも豊富であるという自覚はあった。

 “将来の為に女の子は料理が出来なくては”という母親の考えによって嫌々手伝っていたが、こんな状況になった今は感謝している。

 ピザも母親と作ったので覚えている。随分と簡単に作れることに驚いたものだった。

  

「今度は生地をこんな風に薄く延ばして。そうそう、その調子。後はトマトソースを生地に塗って、好きな具材を上にのっけて最後に一角牛のチーズをたっぷりとかけたら、後は焼くだけよ」


 セアラが選んだのはレッドラビットの肉にアスパラとコーンである。

 それぞれが思い思いに好きな具材をのっけている。やはり人気なのは肉である。

 なかにはセアラが選んだ具材と全く同じという者も何人かいた。

 石窯に入れるとあっという間に焼きあがる。

 ナイフで切り分け、手に取るとチーズがびよーんと伸びる。


「熱っ! でも美味しい~! 皆も早く食べてみて」


 セアラの声に促され、皆がピザに手を伸ばす。


「なにこれ! 美味しい、焼いたチーズってこんなになるの!?」


 ターシャが羽をパタパタ動かして感激の声を上げる。

 セアラの護衛達はアクアポリスの中にいるから危険はないと言っても必ず2人以上がついている。

 今回のようにセアラが新しい料理を作る日は全員が自分が護衛すると言ってきかない。お目当てはもちろんセアラの料理である。

 その為、住民の嫉妬の嵐に晒されている。


 どうやらピザは住民達の口にあったようだ。皆の口からは漏れるのは美味しいという喜びの声ばかりだ。

 セアラが選んだトッピングと同じくらい評判が良かったが、ロロナという女性が作っトマトとバジルとチーズの組み合わせのピザだ。

 セアラは驚いた。ピザの定番のトッピング具材の組み合わせを偶然にも選んだことに。

 このロロナと言う女性は料理のセンスがあるのではないかと思った。

 なかにはセアラ的にはアウトの味の組み合わせのピザもあったが、住民達は美味しいと言いながら食べていた。

 謎である。セアラの舌が肥えているのかピザというのはこういうものだという先入観がある為だろうか。

 

 皆が食べ終えると、次はケーキ作りだ。

 小麦粉、卵、牛乳、砂糖、バターを使う。 

 ケーキ作りは家族の誕生日やクリスマスに作るのは必須でそれ以外の日にも何回も作るのを手伝わされたので分量は覚えている。

 なのでサクサク作ることが出来る。


 バターやチーズ、生クリームは実は錬金術で創れる。流石のセアラもこれらを手作り方法は知らなかったので助かった。

 他にも錬金術で創れる食べ物は意外に多い。つくづく職業が錬金術師でよかったと感じた。

 泡だて器もドゴンに頼んで作ってもらっている。

 卵白を泡立てるのは力仕事である。護衛として立っているシミル、バード、アルダスに任せることにする。

 せっかく側にいるのだから使わない手はない。

 シミルとアルダスは快く引き受けてくれたが、バードだけは「しょうがないなあ」と一言多い。

 力が強いだけあって角が立つまであっという間だった。

 セアラが出したのは口だけだ。ついでに生クリームも適度な硬さになるまで混ぜるように指示をする。

 

「ケーキを作るのは結構力仕事だからこの部分だけは力の強い男性陣に手伝ってもらった方がいいかも」


 ドランに作ってもらった円形の型にすべての材料を混ぜ合わせた生地を流し込み、石窯へと入れる。時々焼け具合を確認し、きつね色になりしっかり中まで焼けているのを視認した後に取り出す。

 甘い匂いが辺りに広がる。これだけでも美味しそうだ。

 

(ケーキといったらやっぱりイチゴのショートケーキだよね!)


 セアラは趣向を凝らしたものよりもシンプルなショートケーキが1番好きである。

 次点でチーズケーキだ。

 出来上がったスポンジ生地を横に半分に切り、断面に生クリームを塗る。そして半分に切ったイチゴを上に乗せる。

 スポンジを元の位置に戻し、生クリームを上側と横側に満遍なく塗っていく。そうして半分に切ってないイチゴを内側に隙間のないように乗せ、余ったクリームは円形の生地外側を囲むように塗る。


「よし、これで完成!」


 セアラはケーキを切り分け、皆に食べるように促す。

 

「美味しい、久々の甘みだ~。幸せ~」


 うっとりとした様子で呟く。

 舌で丹念に味わいながらも、食べるスピードは速い。

 食べ終わったら満足げにふうっと息を吐いた。

 

(あれ、やけに静かだな? もしかして口に合わないのかな?)


 セアラが顔を上げ周囲を見回すと、茫然として固まっている住民の姿が目に入る。

 今まではすぐに美味しいという賞賛の声が上がっていたので心に不安が湧き上がる。


「ごめん、もしかしてみんなの口に合わなかった? 無理に食べなくても大丈夫だよ」


 セアラの言葉に住民達はハッとした様子で我に返る。


「違うよ、国主様。みんな驚いて声が声が出なかっただけ。こんなに甘くて美味しいものが存在するなんてほんとビックリだよ」


 バードの言葉に皆がその通りだと頷く。


「口に合わないなんてとんでもないです。これほど美味しいものが存在するなんて夢を見ているようです」

「甘くて、ふわふわしてて。いくらでも食べられそうです」


 どうやら、セアラが想像する以上に住民達にとっては衝撃的だったようだった。

 セアラはショートケーキが住民達の口に合わないなんて事態にならなくてほっと胸を撫で下ろした。

 今までの料理とは異なり、食べる速度が異常に遅い。

 貴重なものを食べるように少しずつ口に入れじっくり味わっているようだ。

 全部食べ終わったものは哀愁漂う雰囲気で未練がましく空になった皿を眺めている。

 でかい図体をしたシミルまでも耳としっぽをしょぼんと垂れているのがセアラの笑いを誘った。


 そんな中で「移住希望者がやって来ました」と言う声が頭に響く。

 

「移住希望者が来たみたい。ちょっと見に行ってくるね」

 

 そう言って小走りに移住希望者の元へ向かう。もちろん護衛達もついてくる。

 なにやら、揉めているようだ。

 住民達が移住希望者に向けて「帰れ」「お前の来る場所じゃない」など言っている声が聞こえてくる。

 まるで移住希望者のことを住民達が知っているような様子がうかがえる。

 セアラはムムムとした顔で騒ぎの方へと近づくと、セアラの接近に気付いた者達は罰の悪そうな顔をした。

 移住希望者が誰なのか目を向けて驚いた。忘れもしないルブラン国の門番であるエイハブとエドガーであった。


「国主様、どうか我らもアクアポリスの住民にして下さい。ルブラン国を追い出されたのです。どうかお慈悲を」


 そう言って土下座した。


 どうしよう、これ。また厄介な問題を持ち込んで。

 いい加減にしろよと怒鳴りたい。

 だいたいあなた達ステータス欄にルブラン国の住民って表示されているし、特記事項にアクアポリスに放たれたルブラン国からのスパイって書いてあるんだけど。


 セアラは大きくため息を吐いた。



 


 

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