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『鬼灯堂奇譚』呪月の巻  作者: あべせつ
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〈十六夜・朝 巳の刻 鬼灯堂〉

〈十六夜・朝 巳の刻 鬼灯堂〉

《営業時間 逢魔が時より丑三つ時まで》と書かれた立て板の前で、洋子は途方に暮れていた。

「逢魔が時って、何時からなのよ」


ここに来る前、昨夜青炎と出逢ったトンネルにも寄ってきたが、そこに占い師の姿はなかった。しかたなくうろ覚えの道順をたどり、ようやくここまで来たものの店の格子戸は固く閉ざされている。家には居たたまれず、折れたろうそくだけを手に飛び出して来てしまった。まだしばらくは帰りたくないし、かといって財布もない。行き場に困り、どうしたものかと思いながら、そっと格子戸をたたいてみた。


「ごめんください」

中で人の動く気配がして、格子戸が開いた。昨夜と同じ紺色の作務衣を来た輝夜が姿を現した。

「朝、早くからすみません。あの、これ」

 洋子は折れたろうそくを見せた。

「ああ、少しお待ちください」

  

輝夜は洋子を招き入れることなく入口に立たせたまま、奥へと引っ込んだ。

開け放たれた格子戸から見える店内は、朝の光に満ちて昨夜の幻想的な雰囲気はなく、どこにでもあるような工房の様を呈していた。ほどなく輝夜は新しいろうそくを手に戻ってきた。

「あの、申し訳ないのですが今、持ち合わせがなくて。昨夜のもまだお支払してないんですけど」

「それは、またいつでも」

「あ、ありがとうございます。それで、あの今朝・・・・・・」

  

洋子はろうそくが折れたいきさつを話した。

「お義母さんが、わたしの買ったろうそくなんか見たくもないと。それに火が怖くて寝付けないと言われて。でもわたしが火を消しに行ったときは、ぐっすり眠られてたのですけれど。もうどうしていいか、わからなくて」


「ご心配なく。お義母さんは今夜もろうそくを灯すようにおっしゃいますよ。あのろうそくには、そうした常習性があるのです。そのかわり即効性はありません。仕込んである薬は毎日少しずつ灯すことで効き目を表します。一時に大量に灯せばいいというものではないのです。だから次の満月までと申し上げました。お義母さんの心配を取り除くためには寝付くまで、あなたもそばにいればいい。不自然にならぬよう話をするとかマッサージをするとか、そうすればお義母さんも安心してろうそくを灯すようにおっしゃるはずです」

「ええっ、でもそんなことをしたら、わたしまで毒を吸い込むことになるのではないのですか」


「人一人を殺めようというのです。あなたもそれなりの犠牲をはらわなければなりません。自らの命をかける覚悟がないのなら、もうここでお止めなさい」

 輝夜は声をひそめてそういうと、格子戸をぴしゃりと閉めてしまった。


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