《十六夜 宵の口 ・洋子宅》
《十六夜 宵の口 ・洋子宅》
「お義母さん、今夜もろうそくを立てましょうか。夕べはよくお休みになれたのでしょう」
洋子はさも改心したかのように優しく声をかけた。外面如菩薩内面如夜叉とはこのことかと自分で思った。
「そうねえ。でも」
洋子はみなまで言わさずろうそくに火を付けた。
「お義母さんが寝付かれるまで、おそばにいますから安心してください。あ、そうだ、よく眠れるようにマッサージでもして差し上げましょうか」
そういうなり、有無を言わさず洋子は布団の中に手を入れ、幸代の全身をマッサージし始めた 。何日も風呂に入らない幸代の身体からは異臭がはなち、ぬるりと粘つく肌の感触に、思わず洋子の全身が総毛立ち手を引っ込めたくなった。
しかし、ここは我慢のしどころと何とか自分を励ましマッサージを続けた。最初は触られることに少し抵抗を示していた幸代だったが、やはり気持ちがよいのだろう。十分もするとろうそくの効果もあってか、軽いいびきを立て始めた。
洋子はろうそくの火を消し、起こさないように静かに部屋を出ると、着ていたものを全部洗濯機に放り込み風呂場に駆け込んだ。熱いシャワーを頭からざあざあとかけ、うがいを何度もし、全身をゴシゴシ洗った。いつまでも体にまとわりつくようなろうそくの毒と幸代の異臭をこそげ落としたかった。
(これを毎日やるんだわ)
洋子ののどに何か苦いものがこみあげてきた。




