あっちでもこっちでも
その後、シリルの死が報じられ、王国内に激震が走る。
死因は病死とされ、国王自ら手を下した事実は隠匿された。
国民の反応は、あからさまには示さないまでも喜んでいることは見て取れて、皆の顔も明るかった。
そして、こちらは国民には知らされることもなかったが、サルマンは宮廷魔法使い長の職から降ろされ、結界を張った地下牢に投獄されることになった。
そして、代わりに長となったシェマンは、それまでの宮廷魔法使いの悪評を払拭すべく、制度に様々な改正を加えていった。
ダーラスの治世は、予想通りと言おうか、当たり障りのない無難なもので、疲弊しきった国を立て直すほどのことは出来なかったものの、これまで以上の混乱を招くこともなく、緩やかに収束していくには理想的だったかもしれない。
それでも、彼の性根がすぐさま真っ直ぐになる訳もなく、後で聞いた話によると、たまに「レナライアに会いたい」などと言い出すこともあったらしい。
すると、その度にシェマンが「殺されたいのですか?」と脅しをかけたとかなんとか。
そんな王宮でのあれこれは、シェマンが時折寄こす手紙に認められていたのだが。
アユールたちにとって重大なある知らせがシェマンから送られてくるのは、あともう少し先のことで。
それまでの間、再び訪れた平和な日常を、彼らはマハナイムにて謳歌するのであった。
「・・・だからさ、俺の姓もサリタスな訳だよ。紛らわしいからさ、叔父貴のことサリタスって呼ぶの止めて欲しいんだよなぁ」
頭をがしがし掻きながら、憮然とした表情でアユールが呟く。
「それもそうよね。ごめんなさいね、アユールさん。王宮にいた時の癖がつい出てしまって・・・。頑張って直すようにするわ。ええと、カーマイン、さん?」
「呼び捨てで構いませんよ、レナ・・・レーナ」
たかが名前を呼ぶだけだというのに、この二人はどうにもこうにもぎごちない。
横で見ているクルテルやサイラスが、つい、くすくすと笑んでしまう。
「お前らなぁ、振る舞いとか態度とかは思いっきり熱々バカップルぶりを炸裂してるくせに、名前を呼ぶくらいで赤面してんじゃねえよ。あー、馬鹿馬鹿しい」
「熱々バカップルとはなんだ、アユール。レナライアさまを貶めるようなことを言うのではない。そもそも、私如きにそのようなお気持ちを持たれる筈がなかろう」
「もう、レナライアじゃなくてレーナだってば」
むうっと膨れたレーナが、カーマインのほっぺたをつまんで抗議する。
「いい加減、直してよね。私もちゃんと名前を呼べるように気をつけるから。ええと、カ、カーマ、イン」
「・・・レー、ナ・・・」
「・・・うん」
二人の間に沈黙が落ち、再び見つめ合う。
「なんだよ、この熱々の空気は。ったく、誰だよ? しかめっ面して、『私如きにそのようなお気持ちを持たれる筈がなかろう』なんて言いやがった奴は」
「そうよね、失礼よね。カー・・・カーマインったら。なんで私がそういう気持ちを持つ筈がないなんて言うの?」
「貴女さまの仰るとおりです。持つ筈がありませ・・・。申し訳ありません。今、何と?」
「私がそういう気持ちを持つ筈がないって、どうして思うの?って」
「・・・」
カーマインは完全に固まった。
何故か当事者でもないサーヤが頬を赤らめ、興味津々でその場の展開を見守っている。
「カー、マイン?」
レーナが首を傾げる。
「私のこと・・・嫌い?」
「っ! そんな筈が・・・!」
「じゃあ、どうして?」
「そ、それは・・・その・・・」
しどろもどろになったカーマインは、最後には押し黙る。
そして、そんなカーマインに、レーナはむくれるのだ。
なかなか主従関係の名残がぬぐえない二人(というか、カーマインだけだが)は、最近、こんなやり取りばかりしている。
周りは当てられっぱなしで迷惑なので、さっさと認めやがれ、というのが本音だ。
アユールはすっと背を屈めると、目をキラキラさせながら聞き耳を立てているサーヤにそっと囁いた。
「すごいな、レーナ。ぐいぐい攻めてるよ」
サーヤがこくこくと頷く。
意地の悪そうな笑みを浮かべたアユールは、更にサーヤに顏を寄せ、その耳元に唇が触れんばかりの距離にまで近づくと、少し低めの声で言葉を継いだ。
「・・・お前も、もっとぐいぐい来ていいんだぜ?」
「・・・!」
吐息を耳に注ぎ込まれ、瞬間、サーヤの方がぴくりと撥ねる。
余裕の笑みを浮かべながらサーヤの顔を覗き込むと、その頬は朱に染まっていて。
その反応に満足したのか、アユールは手を伸ばしてサーヤの後れ毛を掬い、耳にかけてやる。
アユールの指が耳に軽く振れ、サーヤの身体は再び小さく震えた。
「・・・意識しすぎ」
揶揄うような声が頭上から落とされ、サーヤは思わず上目遣いで睨みつける。
少し涙目になっているのがまた可愛くて、アユールは、くく、と嬉しそうに笑った。
「・・・あっちでもこっちでも・・・。全くいい加減にしてほしいですよね・・・」
遠い目をして愚痴るクルテルに、サイラスは、まあまあ、と背中を叩く。
「仲がいいに越したことはないですよ」
「・・・本気で言ってます?」
「え?」
「いえ、なんでもないです」
きょとんとして聞き返したサイラスに、クルテルはもう一度質問を繰り返そうとはせず、やれやれといった風に溜息を吐いた。
「・・・サイラスさんは人が好いですからね」
ぼそっと呟いた言葉は、勿論サイラスに届くことはなかった。
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