再会
「それでは一度、旦那さまにご報告に上がらせていただきます・・・」
少し動揺した様子のマキオスは、そう言ってカーマインの屋敷を辞した。
結婚に反対とかそういう事ではなく、どんな風に報告しようかと悩んでいるらしい。
「さあて、後は準備ね。ふふ、楽しみ」
うきうきと楽しそうなレーナの様子に、自然と皆のやる気も上がる。
「ダーラスに見せつけてやるんだもんな。叔父貴もしっかり役目を果たせよ」
「・・・分かっている。あの馬鹿に己の身の程を思い知らせてやるつもりだ」
少しばかり男気が上がったカーマインの言葉を聞いて、レーナは嬉しそうに微笑んだ。
ダーラスには、式についてまだ知らせてもいないのだが、なぜか出席確定という前提で話が進められていた。
何か余計な事を考えられると面倒だ、という訳で、直前にひっ捕まえて連れて来るという、相手を王族とも思っていないような招待の仕方をする予定でいる。
レーナの父、シャルファイラ公爵からも出席するとの返事をもらった。
それにレーナの母と弟、そして執事のマキオスも来るらしい。
サーヤは、クルテルとランドルフに相談しながら花嫁衣裳をデザイン中だ。
お金ならいくらでも出すから好きなものを、とカーマインは言ったのだが、レーナは別に豪勢じゃなくていいと答えた。
カーマインの奥さんになれるだけで幸せだ、と。
そんな台詞を聞かされてしまった日には、カーマインが一日中使い物にならなかった事は言うまでもない。
別にたくさん人を招待するつもりもない。
だから、マハナイムの屋敷の裏庭でガーデンパーティ形式で花嫁姿をお披露目しようという事になって。
カーマインとアユールは、結婚式前に仕上げてくれ、と、アレクフィードにいくつかの魔道具の調整を頼んだ。
念のために、当日はサーヤとレーナに装着させたいらしい。
サーヤとクルテルとランドルフの三人が心を込めてウエディングドレスを縫いあげて。
アレクフィードは注文通りに、式の日の前日に魔道具を全て修理してくれて。
そうして、結婚式の日はやってきた。
「母さん、綺麗」
真っ白のドレスを身に纏ったレーナの後ろで、サーヤは思わず、といった風に感嘆の声が零れた。
「ありがとう。こんな素敵なドレスを縫ってもらえるなんて、私は幸せ者ね」
鏡の中のレーナが微笑む。
式場となる裏庭にも、人がちらほらと集まり始めていた。
噂を聞き付けた町の人たちも来てくれている。
彼らは皆、お買い物とかでよくサービスしてくれた商店街の人たちだった。
式が始まるまで、あと一刻ほどだ。
あとはダーラスを連れてくるだけ。
ちなみにシェマンには連絡済みだ。
一応、譲位前という事で、彼はまだ国王でもあるわけで。
宮廷魔法使い長のシェマンが一緒に来れば、拉致監禁だのなんだのと後で文句も言えないだろう、という考えだ。
「じゃあ、そろそろ拉致ってくるか」
アユールはそう言い残して、王宮へと「飛んで」いった。
笑顔で落ち着き払っているレーナに対し、カーマインはさっきからずっと、そわそわしていて落ち着きがない。
レーナのウエディングドレス姿もそうなのだが、カーマインが真っ白の正装服に身を包む姿も初めて目にするもので、なかなか新鮮な光景だ。
「レーナさま。そしてサーヤさまも。こちらをお願いします」
アンドルフが、アレクフィードに細工を施してもらった保護用の魔道具を、サーヤとレーナにじゃらじゃらとくっつける。
まさかアユールとカーマインと、監視役のシェマンがいる目の前で何か仕掛けてくるとは考えにくいが、念には念を入れての事。
いざという時の連絡用に通心、身を隠すための透過、移動するための飛行、身を守るための障壁、などなど。
ピアス型や腕輪型、足輪型に指輪型・・・いかにも高級なアクセサリーにしか見えない代物だ。
結婚式で身につけてもおかしくないように、と、アレクフィードに頼んで豪華な細工を施してもらったから、それも当然と言えば当然なのだが。
流石は一流の細工師、アレクフィード。
その仕上がりは、それはそれは繊細で美しかった。
その出来栄えを間近で目にするサーヤたちは、見惚れてしまって感嘆の溜息を吐くしかない。
清楚で美しい花嫁と、同じく清楚で可愛らしい花嫁付添人の出来上がりだ。
「どうかしら? おかしくない?」
「・・・」
「カーマイン?」
「あ、ああ。・・・完璧です、レーナ。とても・・・美しい」
見惚れて暫く声も出なかったカーマインは、ようやく振り絞るように感想遠述べた。
「ありがとう。貴方の礼服姿も素敵よ」
「・・・レーナ」
「レーナさま、それ以上はもう。このままでは主が式まで保ちません」
「ふふ、ごめんなさい」
ランドルフの口添えに、レーナはくすくすと笑う。
その時、サイラスがやって来て、シャルファイラ公爵家の人たちの到着を告げた。
お忍びで来ているため、式の前に個人的に会いたい、との事だった。
「勿論よ。入ってもらって」
その言葉と共に扉が開けられ、公爵たちが顔を覗かせる。
服装はあまり派手にならないように気を付けてくれたらしく、上品だが飾り気のない、シンプルな礼服だった。
マキオスは会場に残ったらしく、公爵家の三人だけが入ってきた。
まずレーナを見て、それからその隣のサーヤ、そして少し離れたところに立つ礼服姿のカーマインへと視線を動かす。
「ああ、レナライア・・・!」
「姉上、よくぞご無事で」
嬉しさに声を震わせる家族の姿に、レーナは深く頭を下げる。
「ご心配をおかけしました、お父さま、お母さま、そしてレジオナルド」
それから、自分の後ろに立つカーマインを手で示した。
「ここにいるカーマインのお陰で、私とサーヤはこうして命を長らえる事が出来ました。いろいろと事情があったために、ずっと連絡を差し上げる事が出来なくて申し訳ありません」