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怪しいお客さん

サイラスは自分が新たに決めた目標についてカーマインたちに話し、アレクフィードにも師事する許可をもらった。


実のところ、魔道具師になりたいというサイラスの希望は、カーマインやアユールにとっても、とても望ましいことだったのだ。


細かな配慮ができ、手先の器用なサイラスならば、きっと凄い魔道具師になれるだろう、言ったのはカーマインで。


将来、魔法使いのクルテルと組むのも面白いかもな、と言ったのはアユールだった。


そんなこんなで、サイラスは週に一度、午後に休みをもらってアレクフィードの家に行き、細工師の技術を教わる事になった。

アレクフィードは頑なに辞退しようとしたが、月謝も受け取ってもらうことで決着して。

ただ、かなり金額は提示したものより減額された。


お土産はいつもマクリントプ。

食が細くなっていたフィルの母親アンナも、このマクリントプなら食べられるから不思議で。


そのおかげもあるのか、アンナは少しずつ回復していった。


元々、手先の器用だったサイラスは、アレクフィードに師事することで更に器用さに磨きがかかる。


使用人として、屋敷の修繕や備品の修理なども上手にこなし、皆から重宝されていた。


「ありがとうね、サイラス。助かるわ。前から器用だと思ってたけど、アレクさんのところに通うようになってから、出来ることが格段に増えたわよね」


てきぱきと修理をしてくれる姿に、レーナは弾む声でサイラスを褒めている。

そこへ、洗濯物を干していた筈のサーヤが現れた。


「ねえ、母さん、サイラスくん。ちょっと来てくれる? なんか外に変な人がいるの」


少し慌てた様子のサーヤを見て、レーナは勿論、サイラスも作業をしていた手を止める。


「変な人?」

「うん。洗濯物を干してて気がついたんだけど、ずっと家の周りをうろうろしてて、こっちを覗こうとしてるの」

「・・・僕、アユールさんを呼んできます」


サイラスが屋敷の中に入ろうとして、別の声に呼び止められる。


「必要ありませんよ。私がお呼びしてきましたから」


声の主はランドルフだった。

その言葉通り、隣にはアユールとカーマインが立っている。


「怪しい奴がいるって? どこだ?」

「あっちよ。男の人なんだけどね、なんか家の中を覗こうとしてるみたいで」


サーヤはアユールの背に隠れながら、手で方向を示す。


「なんだ? まさかダーラスの馬鹿じゃないだろうな」


顔を顰めるアユールを先頭に、ぞろぞろとサーヤの示す方角に向かうと、木や茂みの陰に隠れながら庭の向こうを覗いてみる。


「・・・ホントにいますね」

「ああ。なんか見るからに挙動が怪しいが・・・誰だありゃ?」


見れば、いい歳のおじさんが、家の中を覘こうと背伸びをしたり、木に登ろうとして落っこちかけたり、なんとも間抜けなことをやっている。


「ダーラスじゃなかったな。でも誰だ? 俺はあんな男は知らないぞ。叔父貴の知り合いか?」

「いや、私も知らない顔だ。・・・む? どうした、レーナ?」


カーマインが心配そうにレーナの顔を覗き込んだ。

驚いた表情で固まっていたからだ。


「え? レーナ?」


様子のおかしいレーナに、皆の視線が一斉に集まる。


やがてレーナは、はあ、と息を吐くと、口を開いた。


「・・・もしかして私の知ってる人かも」

「ええ?」

「あ、でも大丈夫よ。怪しい人ではないから」


多分それは本当なのだろう。

レーナの顔には、まったく緊張や恐れの色は見られない。


訝しむ周囲をよそに、レーナは隠れていた茂みから立ち上がり、庭の向こうにいるおじさんに手をひらひらと振った。


そのおじさんは、手を振るレーナの姿を認めると口をぱかんと開け、しばしそのままの状態で固まった。


状況が分からないアユールたちは、ただただ黙って成り行きを見守るだけだ。


レーナは何も言わず、じっとそのおじさんが再び動き出すのを辛抱強く待っていた。


やがて、そのおじさんは、ようやく開けたままだった口を閉じ、目をぱちぱちと瞬かせて。

そしてその瞳からは、ぽろぽろと涙が溢れ出す。


溢れる涙を拭おうともせず、そのおじさんは口を開いた。


「本当に・・・本当に生きてらっしゃったのですね」


涙と鼻水でぐしゃぐしゃのおじさんを前に、レーナは困ったような、そして少し照れたような笑みを浮かべる。


「久しぶりね、マキオス。元気だった?」

「はい。私めは元気でございますよ。レナライアさまこそ、よくぞご無事で・・・」

「・・・ごめんね、心配かけたわね」

「いいえ、いいえ、こうしてご無事な姿を見ることが出来たのですから・・・。ああ、旦那さまがお知りになったらきっと・・・」


マキオスというおじさんは、言葉に詰まって最後まで話すことが出来なかった。

ただ、庭先に立ったまま、おいおいと泣き続けた。

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