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マクリントプが繋ぐもの

カーマインが視力を取り戻し、サーヤが長い眠りからようやく覚めた後。


屋敷に元のような生活が戻りつつあったある日の事だ。


玄関から郵便物を手にしたレーナがやって来る。


「ねぇ、カーマインとアユールさんの二人にあてた手紙が来てるんだけど、どなたかしら。・・・シャイロスさんですって」

「シャイロス・・・? 誰だ、どこかで聞いたことがあるような・・・」


首を捻るアユールの横からクルテルが口を挟む。


「僕の苗字です。きっと家からじゃないですか」


少し強張った口調に、部屋の中が一気に緊張した。


アユールが受け取った手紙を開いて確認する。

かさ、と紙の擦れる音だけが室内に響く。


「・・・」


横からカーマインも覗き込む。


「ほう・・・」

「へえ・・・」


アユールたちが言葉を発するのを、その場にいる全員が心配そうに待っていた。

手紙から目を上げ、アユールが口を開く。


だがその口から出て来た言葉は、皆の予想とは全く違っていた。


「なんか、会いたいんだってさ。俺たちにきちんと礼が言いたいって」

「へ?」

「お礼?」


アユールの口から出た言葉はクルテルにとっても驚きだったようで、信じられないとばかりに目を大きく見開いて、ぱちぱちと数回瞬きをした。


「訪問するのに都合のいい日を教えてくれって」

「はい?」


これまでは、アユールたちの都合などお構いなしに、いつも急に押しかけては騒いでいたのだ。

予定を伺う手紙など貰ったのも初めてで。


ましてや、礼を言いたいなどと。


「・・・罠じゃないでしょうね」


クルテルは、ぼそっと物騒な事を口にする。


「いやあ、それはなさそうだぞ。なんか、やたらと丁寧な文章だし、お礼と・・・あと、あらたまって話したいこともあるんだとさ。・・・それに」

「それに?」

「親子三人で来たいって」

「はい?」


予想外の言葉の連続に、クルテルの声が裏返る。


これまでアデルたちが押しかけてくることはあっても、父親が顔を見せたことは一度もなかったのだ。


「まあ、万が一、お前が心配するような罠があったとしても、俺たちがいれば何も出来ないと思うんだがな」


そう言いながら、すいっと折りたたんだ便箋をクルテルに差し出す。


「お前が決めろ。会いたくなかったら断るし、会ってもいいと思うんだったらそう返事するから」

「・・・」


黙って手紙を受け取り、そこに書かれた言葉に視線を走らせる。


「・・・別に変なことも書いてありませんし、大丈夫ですよ」

「そうか。じゃあ、適当な日付を書いて返事しとくな」


まだ少し緊張の残るクルテルの頭を、アユールはわしゃわしゃと撫でた。


「大丈夫だ。ここにいる皆が、お前のことを大事に思ってるんだから、何も心配するな」

「・・・はい」


もう一度、宥めるように頭をぽんと軽く叩いてから、アユールは返事をしたためた。




◇◇◇




「この度はお時間を取っていただき感謝します。クルテルの父、ガルハム・シャイロスです」


今回、初の体面となるクルテルの父親は、存外に礼儀正しい人物だった。


すぐ後ろにはアデル、その横にはソフィが立っている。

応接間に案内したところで、アデルがそれまで手にしていた包みをすっと差しだした。


「これ・・・私が作ったものです。あの、マクリントプなんですけど」


レーナが驚いたような表情で包みを受け取ると、ガルハムはまだ緊張の残る表情で口を開いた。


「この間お土産にもらったマクリントプは、後で三人で食べました。とても美味しかった。昔に食べた懐かしい味でした」


そして、レーナの手にある包みにそっと視線を送る。


「よかったら、食べてみてください。アデルの作ったマクリントプも」

「あ、はい。じゃあ、今、お皿に乗せますね」


ランドルフが差しだした皿に、もらったばかりのマクリントプを乗せ、テーブルに出す。


ガルハムに勧められ、皆もマクリントプを手に取り、さく、とかじる。


「ホントだ・・・。クルテルくんのと同じ味だ」

「うん、美味しいわ」

「・・・ありがとうございます」


口々に褒められ、アデルが恥ずかしそうに俯いた。


「クルテルが作ったというマクリントプを食べた時、私はとても驚きました。もともとラエラとアデルは仲が良かった。だからマクリントプの作り方をアデルから聞いていても不思議ではなかったけれど・・・まさか私がラエラを捨てた後も、アデルの味を守ってくれているとは思ってもいなかったから」


そう言って、ガルハムは目の前のクルテルたちに向かって頭を下げた。


「罪悪感を拭おうとして、お前の気持ちも考えずに色々と勝手なことをした。どうかそのことを謝らせてくれ」

「・・・お父さま」

「そしてアユールさんたちにも謝罪したい。クルテルを手元に置いておきたい一心で、貴方たちのご厚意を無にするようなことを言った。本当に申し訳なかった」

「いや、そんな俺たちは別に気にしてないから」


慌てた様子でアユールは答える。

だがガルハムは真剣な表情で言葉を継いだ。


「カーマインさん・・・でしたか。貴方の奥さまからの言葉をアデルから聞きました。クルテルを大事に思う事と、こちらの思う通りに世話しようという事は別だと。・・・仰る通りです。私は、ただの自己満足で動いていました。本当にお恥ずかしい」

「・・・」


皆が真面目な表情でガルハムの言葉を聞いている中、カーマインだけが何故か頬を赤らめている。

口元に手を当て、少し俯いて。


「・・・叔父貴? どうしたんだ? 具合でも悪いのか?」

「い、いや。なんでもない。どうぞ話を続けてくれ」


ごほん、と咳払いをして、カーマインは話の続きを促した。


一瞬、呆気にとられたような顔をしたガルハムだったが、すぐに気を取り直して口を開いた。


「いい機会です。これまで私は、クルテルにラエラとアデルの話をするのを避けていました。もう少しお時間を取って聞いていただいてもよろしいでしょうか」

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