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王都へ  作者: 待宵月
73/73

73.霧の中の進軍。

ベルンシュタイン国王軍は精霊の国を通り、東の砦を目指す。

 ベルンシュタイン国王軍は精霊の国の中を静かに進んでいた。もちろん兵達には精霊の国を通っている事を知らせていない。そんな事をすれば大混乱を招き、進むどころではなくなるからだ。濃霧の中を進行するため、前にいる兵に遅れずについて行くようにだけ厳令していた。何かあれば笛で合図を送るように各隊長達に伝えているが、今のところ問題は起きていない。寄せ集めではなく訓練された兵はこのような非常事態でその強さを見せつける。

 リリアを乗せたクロウの馬の後を、シュティルは緊張した表情のまま馬を進めていたが、精霊の国にも関わらず、異形のものと出くわすことはなかった。ひたすら白い霧が満ちているだけだった。

 しかし、精霊の国に一歩足を踏み入れてからずっと霧の中から何かがじっとこちらを見ているような(まと)わりつくような視線を感じている。

 シュティルは前を行くクロウの背を見つめながらずっと不思議に思っている事があった。先頭を行くクロウは数歩先が見えない霧の中を、何の迷いもなく同じ速度で進んでいる。周りを見回してみるも、目印になるようなものなど何もない。この霧の中では目の前の背を追うだけで精一杯だ。同じところをぐるぐる回らされていたとしても気付かないだろう。


『今、目の前にいる者は、私が知っているリリティシアとクロウなのだろうか?』


 ふと頭を過った思考にシュティル頭を振った。


(……リリティシアだった。あの()の温もりは本物だ。幻覚や(まが)いものなどではない)


 シュティルの不安を払拭(ふっしょく)するかのように、明るく澄んだリリアの声が響いた。


「お義父(とう)様! もうすぐこの霧を抜けだせます! 私達が目印になりますので、このまま止まらずに進んでください!」


 クロウの前に座っているリリアが馬上から身を乗り出してこちらを見ていた。

 確かに、前方が明るくなっているのが分かった。クロウは道を譲るように端へ馬を避け馬首の向きをこちらに向けた。シュティルは言われるまま馬を進め、リリア達の前を通る。


「リリア。これから先は戦場だ。危険が伴う。隊の後方にいなさい」

「……はい。お義父(とう)様」


 シュティルはリリアの返答を聞くと、クロウへ視線を移した。


「クロウ、戦況によっては王都へリリアを連れて戻れ」


 クロウが僅かに首肯するのを見届けると、思い詰めたような表情を浮かべているリリアの前を、後ろ髪をひかれる思いでシュティルは通り過ぎた。本当はリリティシアから離れるべきでないと感じていた。

 だが、今の砦がどのような状態になっているか分からない上に、この霧から出てすぐに交戦になる可能性もある。この軍の指揮と取っているシュティルの側に置いておくわけにはいかない。

 思考を巡らすシュティルの耳が背後から聞こえてくるリリアの鈴を転がすような声を捉える。


「皆さん! 霧の中、不安だった事でしょう。もうまもなくこの霧から抜け出せます。眠り病が蔓延する中、東の砦を救いに駆けつけてくださり感謝しています!」


 リリアが兵達を激励していた。何も指示していないにも関わらず、上に立つ者の責務をしっかりと果たしている。


(リリアは良き女王となるだろう)


 シュティルは国が落ち着けば自ら退位し、王位をリリアへ譲るつもりでいた。


「王女様! ご無事で安心いたしました」

「姫様、お救いにあがりました!」

「王女様のお陰で家族が眠り病から救われました!」

 

 兵士達はリリアの前を通り過ぎる時に、各々の敬愛溢れる言葉を我先にとリリアに伝えていく。

 シュティルは確信する。この難関を乗り越え、ベルンシュタイン国はますます繁栄するだろうと。その為にも、まずボルドビア軍をこの国から排除せねばならなかった。

 強い意志に応えるように、突然目の前の霧が晴れた。視界が広がり、はっきりと東の砦を確認することができる。

 リリアが言っていたように半時ほどしか経っていなかった。どうやら本当に精霊の国を通って来たのだ。

読んでくださりありがとうございます。

楽しんでいただけましたか?

まだ続きます。

最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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