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私は性悪ミストレス  作者: 銀ねも
犬の章
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白い犬と醜い豚2

 ミストレス、だんだん、イライラするようになった。豚と会って帰って来たら、特に、イライラしてる。豚、ミストレス、怒らせる。


「なんだよ、シンクレアの奴……このバカ犬のことばっかり……私といるのに! なんで私だけを見てくれないの……」


 ミストレス、地団駄踏んで、悔しがる。綺麗に編んだ髪、掻き乱して、目を三角にしてる。怒ってるふり、してる。でも、スノーウィには、わかる。ミストレス、本当は悲しい。泣いてる。


 ミストレス、崩れ落ちるみたく、ベッドに腰掛ける。俯いて、肩、震わせてる。泣いてるの?


 ミストレス、悲しまないで。スノーウィがいる。スノーウィが傍にいるよ。


 スノーウィ、ミストレスの足元に寄り添った。本当は、伸びあがって、ミストレスの涙、舐め取りたい。でも、ミストレス嫌がる。弱いところ知られるの、嫌がる。だから、気付かないふり。甘えるふり。


「ああ、もう! 鬱陶しいんだよ、バカ犬! 来い、お前なんか、こうしてやる!」


 ミストレス、スノーウィを蹴る。でも、一発だけ。悲しい言葉で叱る。でも、追い払わない。ミストレス、元気になって、スノーウィを蹴り飛ばすまで、スノーウィ、ミストレスに寄り添ってる。


 ミストレス、苦しめる、豚。殺してやりたいのに、出来ない。スノーウィ、ミストレスの靴の爪先、噛んで、イライラ、おさめる。


 それからも豚は、ミストレス、苦しめ続けた。ミストレス、いつも張り詰めてる。よく笑ってくれてたのは、夢か幻だった?


 ミストレス、スノーウィに本、読んでくれる。遊んでくれる。スノーウィに人間の真似、させたがる。楽しそうじゃない。だってミストレス、人間の男、嫌い。

 あの豚が、余計なこといったみたい。スノーウィ、人間にしないと、嫌われる。ミストレス、焦ってる。


 ミストレス、喜ばせたい。でも、スノーウィ、ミストレスの犬。ミストレスの犬だから、出来ないこと、ある。


 スノーウィ、ミストレスに、少しでも、笑って欲しい。ミストレス、スノーウィを蹴ると、少しだけ、憂さ晴らし、なる。スノーウィ、ミストレスに圧し掛かった重いもの、受け止める。スノーウィだけが、出来る。


 ある日、ミストレス、机についてた。自分のものに、自分の印書く作業、してた。作業に飽きたミストレス、足元のスノーウィ、ひっくり返した。


「お前にぴったりの言葉を刻んであげる」


 ミストレス、尖った針で、スノーウィの腹に穴、あける。たくさんたくさん、あける。


 スノーウィ、耐えられる痛み。痛みのうちに入らない、些細な痛み。


 でも、じっとしてるの、難しい。ミストレスの針、スノーウィの体に食い込んでは、抜けて行く。不思議な感覚。ぞわぞわする。体が熱くなって、震える。熱が腹の下に溜まって行く。ミストレスの柔らかい掌、スノーウィの腹を押えてる。鼓動、高鳴る。


「私はバカ犬です……と。出来た。これは良い。よく似合う」


 完成した血の文字、ミストレス、スノーウィに見せてくれた。スノーウィ、字は読めない。けど、とても嬉しかった。


 これ、印だ。ミストレスの印。スノーウィ、ミストレスのもの。その印。


 スノーウィ、嬉しくて、ミストレスの顔、舐めた。ミストレス、怒ってスノーウィの手、刺した。これ、罰。スノーウィ、反省しなきゃいけない。でも、それも嬉しい。ミストレスにして貰えること、全部、ご褒美。


 スノーウィ、腹の印、舐めた。知りつくした自分の血の味。それなのに、びっくりするくらい、甘くとろける。ミストレスに貰った、印だからだ。


 大切にしよう。消えないように、絶対に消さないように、この印、死ぬまで大切にしよう。


 ミストレス、花の蕾みたいに可愛い唇、尖らせる。スノーウィ、見下ろして、せせら笑った。


「お前はいかれてる。これじゃ、罰にならないな。殴られても蹴られても、刺されても、食事を抜かれても、放置されても、平気そう。お前がされて嫌なことってなに?」


 スノーウィ、目、ぱちくりさせた。


 ミストレスにされて嫌なこと、ない。なにをされても、いい。


 スノーウィ、ミストレスに近づいて、ミストレスの足に額、擦りつけた。


 ミストレスは、何しても良い。スノーウィのこと、好きなように使ってくれたら良い。使い潰してくれたら良い。スノーウィは幸せ。ミストレスの傍にいられる。ミストレスが、スノーウィ、いらなくなって、殺す最期の瞬間まで、スノーウィは幸せ。


 あくる日、豚と会ってきたミストレス、ハミングしてる。スノーウィ、ほっとした。うまくいったみたいだ。


 ミストレス、上機嫌で、スノーウィのこと、ベッドに上げてくれた。スノーウィ、ミストレスの隣で、仰向けになる。


 腹のミストレスの印、薄くなってきた。もう一回、刻み直して欲しい。ミストレス、機嫌良いから、今ならやってくれるかも。


 ミストレス、印を刻み直してはくれなかった。そのかわり、スノーウィの頭、優しく撫でてくれた。


「不都合なことは、ひとのせいにすればいい。それが賢いやり方。バカなお前にはわからないだろうけど」


 ミストレスの柔らかい掌、スノーウィ、頭押しつけて、うっとりした。うっとりしながら、考えた。


 不都合なこと、ひとのせいにする。覚えておこう。不都合なこと、ひとのせいにしなきゃいけないこと、この先、あるかもしれない。ミストレス、守るため。ミストレスとスノーウィ、一緒にいるため。


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