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私は性悪ミストレス  作者: 銀ねも
ミストレスの章
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私の新生活

 スノーウィはこの五年間で、見違えるほどに強くなった。攻撃手段のバリエーションも増えた。噛みつきと引っ掻きしか出来なかったのが、パンチやキックを覚えていた。

 格闘技でもやっているのかもしれない。それも、素人技じゃないくらい、熟達している。

 もともと素質があったのだろう。バカ力だし、運動神経も良い。


 シンクレアが教えたのか。それとも習わせたのか。いずれにせよ、スノーウィに闘う術を身に着けさせた理由はきっと、私に関係している。


 シンクレアは私の報復を恐れているに違いない。スノーウィに追手が迫っても、護身できるようにという、親心なのだと思う。


 警察で簡単な事情聴取を受けながら、私は暗澹たる思いで、そんなことを考えていた。


 シンクレアのことを考えるのは、私の精神衛生上、良くない。だって、今でも一番好きなひとに、確実に嫌われていると再確認することになる。


 そんなことより、愉快なことを考えよう。


 オークウッド率いるバカカルテットは、スノーウィにけちょんけちょんにやられた。

 オークウッドは顔面が陥没する大怪我を負った。仲間たちも似たようなものだ。一番酷かったのはスノーウィの膝蹴りを腹に食らった奴で、折れたあばら骨が内臓に突き刺さったそうだ。


 ざまぁない。良い気味だ。汚らしいものを私に突きたてようとした罰だ。


 私は警察官に何を訊かれても、男子学生三人に重傷を負わせた白髪頭の男について、シラを切り通した。


「たぶんあの男は、私のストーカーだと思います。最近、私のマンションのバルコニーに、小動物の死骸を置かれていました。コンシェルジュに聞いて下さればわかります。あの男、オークウッド君たちに暴行した時も、ネズミの死骸みたいなものを握っていましたから。あんなことして、頭がおかしいんだと思います。

 ……知り合い? とんでもない。あんな男、知りません。初対面でした。嘘じゃありません。怖かったから、適当に話を合わせたんです。

 刑事さん。私実は、オークウッド君たちに無理やり車に押し込まれそうになっていたんです。ちょっとしたトラブルで、彼らを怒らせてしまって。でも、周りの皆は、そんなこと一言も言わなかったでしょう? 私、嫌われているの。彼らは、事実であれ虚実であれ、私にとって都合の悪いことしか言わないわ」


 結局、スノーウィは捕まらなかった。私が罪に問われることもなかった。親父が事件を握りつぶしたのだ。

 親父には全部お見通しのようだったが


「お前も魔性の女だな」

 

 と笑い飛ばしただけで、一切追求しなかった。


 ただ、唯一の代償として、私は学校にいられなくなり、遠方の進学校に編入した。


 前の高校生活で、私は学習し反省した。平穏無事に過ごしたいなら、誰にどう思われようが構わない、とは言っていられない。高校の中の私はただのミケイラ。親父の威はかりられない。


 と言うわけで、心を入れ替えて新生活に臨んだのだが、うまくいかなかった。

 最初のうちは、そうと知らずに反感を買うことも少なくなかった。そもそも私はこれまでの人生で、誰かのご機嫌伺いをしたことがない。私は常にされる側だった。誰にどう思われたって、構わなかったから。シンクレア以外には。


 そこでふと、私はシンクレアの教えを思い出した。


『小鳥をくびり殺した? お前を噛んだから? 何を寝惚けたこと言ってやがる。お前が悪いに決まってるだろうが!』

『お前だって、初対面の奴にいきなり抱きしめられたら、驚くだろ。小鳥だって驚くんだ。お前と同じように、いろんなことを感じて生きてるんだからな』

『お前がしたことは、自慢できることじゃねぇ。いいか、生き物を傷つけるのは、絶対にしちゃいけないことだ』

『お前の気に触ることをしたら、みんな、片っ端から殺すのか? そんなことをしていたら、お前の周りじゃ、誰も生きていけなくなっちまうぞ』

『ひとりぼっちになりたいのか、ミケイラ?』


 シンクレアが必死になって私にかけた言葉について、私は今の今まで、吟味しなかったことに気がついた。シンクレアの歓心を買おうとして、嘘をついて、物わかりのいいふりをしただけだった。 


 私は本当の意味では、私の言葉や態度を相手がどう受け取るのか、どんな気持ちになるか。真剣に考えたことがなかった。


 相手の気持ちになれとはよく言うが、他人の頭の中なんて、わかるはずがない。

 つまり、相手を自分に置き換えて考えるしかない。私の感性が世間一般的なものとずれている自覚はあるけれど、それ以外の物差しを私は持っていない。


 そんな簡単な心がけひとつで、驚いたことに、私はこれといったトラブルに見舞われることもなく、順調に高校生活を送ることが出来るようになった。


 授業の課題や単位についてだけではなく、他愛ないお喋りをする相手もいた。友達という奴かもしれない。

 下心しかない男が強引に言い寄って来ることや、私を妬んだ女が嫌がらせをしてくる事もあったけれど、友達がいるだけで、感じ方が全く違う。


 高校生活の集大成として、プロム・クイーンに選ばれた。拍手喝さいの中で壇上に立ち、スポットライトを浴びた。注目を浴びることが大嫌いだったのに、この時ばかりは、注目を称賛だと受け止めることが出来た。


 卒業式では、友達と抱き合って別れを惜しんだ。さすがに泣いたりしないけど、友達の涙をバカにする気にはならなかった。


 本当に不思議だ。この私がまるで普通の女の子みたいだ。これこそ、シンクレアの望みだったのだろう。

 シンクレアが私にかけた魔法が、今ごろになって効いてきたのだ。

 

 もしも、シンクレアが今の私を見たら、どう思うだろう。少しは私のことを、見直してくれるかな。……なんてね。

 

 その後、猛勉強の甲斐もあり、私は歴代の大統領を何人も輩出した、名門大学に入学することが出来た。入学するよりも卒業するのが大変なので、浮かれてはいられないが。とにかく、プラチナチケットは手に入れた。

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