第45話:合同演習(鬼教官誕生)
数日後。
認定探索者候補生である俺たちは、演習場の中央広場に集められていた。
今日のカリキュラムは「チーム戦演習」だ。
3人、または4人一組のチームを作り、疑似ダンジョン内での課題達成率を競うというものらしい。
「……はぁ。また面倒なことが始まったな」
欠伸を噛み殺しながら、掲示板に張り出されたチーム分けリストを眺める。
『認定探索者候補生・第1小隊』。
俺のチームのメンバーは、以下の3人だった。
結城 瞬。
星野 雫。
篠原 響。
「あの……七瀬さん。よろしくお願いします……」
おずおずと話しかけてきたのは、結城という名の男子生徒だ。
眼鏡をいじりながら、足が小刻みに震えている。
女子生徒の雫は、涙目でスマホの「遺書作成アプリ」をいじっていた。
最後の響にいたっては、体育座りで虚空を見つめ、「帰りたい……お腹痛い……」と呪文のように繰り返している。
ふと視線を上げると、遠くのエリアでは西園寺レオが取り巻きに囲まれて不敵に笑っていた。
そしてそのさらに奥。昨日の留学生、アリス・シルバーバーグが、冷淡な瞳でこちらを観察しているのが見えた。
(……田中さん、これはわざとか?)
遠くの観覧席でコーヒーを飲んでいるエージェントの田中に、内心で毒づく。
奴は優雅にカップを掲げてみせた。
確信犯だ。
エリート候補生たちは既にレオを中心に固まっている。
余り物。あるいは、「問題児」たちの掃き溜め。
それが俺の率いるチームだった。
◇
「う、うわあぁぁ! ゴブリンが! ゴブリンが来ます!!」
「嫌だ! 魔法が出ない! 怖いよお!!」
演習開始から5分。
疑似ダンジョンの市街地エリアで、チームは崩壊の危機に瀕していた。
現れたのは、訓練用の弱いゴブリン3体。
だが、実戦未経験の彼らにとっては、死神の軍勢に見えるらしい。
「……うるさい」
低く抑えた声が、パニックの中を突き抜けた。
背負っていたアサルトライフル、HK416を引き抜く。
セレクター(切り替えレバー)を「安全」から「単射」に切り替えた。
「え?」
結城たちが固まる。
返事を待つ必要はない。一気に距離を詰め、引き金を引いた。
パンッ。パンッ。パンッ。
最小限の魔力弾。
3体のゴブリンが、眉間を正確に撃ち抜かれてデータへと消える。
所要時間は1.5秒。
ライフルを肩に担ぎ直し、震える3人に向き直る。
JKの仮面は、もう脱ぎ捨てている。
今の俺の目は、数え切れない地獄を潜り抜けてきた傭兵のそれだ。
「泣くな。泣く暇があったらリロードしろ」
言葉の重みに、3人が呼吸を忘れたように固まった。
「怖いのは当たり前だ。生きている証拠だからな。だが、感情に支配された奴から死んでいく。……死にたくないなら、俺の指示に従え。返事は?」
「……は、はい!」
「聞こえない! 腹から声を出せ!」
「はいっ!!」
いい返事だ。
俺はニヤリと笑った。
「まずは魔法の使い方だ。……結城、お前はライト魔法が使えるな?」
「は、はい! でも、あんなの明かりを灯すくらいしか……」
「使いようだ。敵が近づいたら、最大出力で相手の『目』に叩き込め。それは魔法じゃない。――『閃光手榴弾』だ」
次に、震える雫を見る。
「雫、お前は土魔法か。大きな壁を作る必要はない。敵の『足元』だけを隆起させろ。バランスを崩せば、それは立派な『地雷』だ」
最後に、響。
「お前は風だな。攻撃しようとするな。敵の背後に風を送り込み、自分たちの『方向』へ音を反射させろ。――『囮』の完成だ」
俺が教えるのは、アカデミーの教範とは正反対のものだ。
美しくない。高潔でもない。
だが、泥臭く、確実に生き残るための「技術」だ。
「さあ、ブートキャンプの始まりだ。……今日中に、自分の足で歩けるようにしてやる」
◇
演習場を監視していたモニター室では、教官たちが絶句していた。
「な、なんだあの戦法は……。騎士道も魔道もあったもんじゃないぞ!?」
「泥遊びに、目眩まし……。だが、効率的だ。あの落ちこぼれたちが、一度も傷を負わずにエリア2を突破した……」
モニターの中で、鬼のような形相で檄を飛ばす銀髪の美少女。
それに必死に食らいつき、次第に「戦士の顔」になっていく3人のルーキーたち。
「……『新人JK』か。とんだ詐称ですね、ハルト大尉」
エージェントの田中は楽しげに呟き、次のエリアに配置する「イレギュラー」の設定を弄り始めた。
伝説の傭兵による、地獄の課外授業。
落ちこぼれたちの快進撃が、演習場全体を騒然とさせるのは、もうすぐのことだった。




