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Episode-0

 これは、昔の話。この星がまだ青かった時代。

 人々が日常を生き明日の平和を疑わなかった時代、突如としてそれは起こった。


 世界各所に幾つもの隕石が降り注いだ。何百、もしくはそれ以上かもしれない。



 それによって文明は、崩壊し人類の役半数が死に絶えた。しかし悲劇はそれだけでは終わらなかった。


 隕石から朱色の霧が発生した。瘴気(しょうき)だ。

 瘴気は触れた物質の形や性質そのものを変化させ醜く歪めてしまう。


 無機物は勿論、人やその他の生命も例外ではない。


 生き残った人々はネストと呼ばれる巨大なシェルターを造りそこに閉じ籠もった。


 これは、人類がいつかは来る()()に抗う物語。


 Episode‐0 【プロローグ】







「この周辺は瘴気の濃度が高い。いい遺物が見つかるかもしれないな」


 朱色の霧の中をフードを深く被った男は歩く、その背中には刃が歪に変化した槍のようなものが見えた。


 男は立ち止まり腕に着けた濃度計を確認すると男はガスマスク越しに大きく深呼吸をする。緊張のせいか体には自然と力が入る。


 槍の固定具を緩め周囲を見渡してみるが立ち込める瘴気によって視界はほぼないに等しい。その視界が男の恐怖と不安を増幅させ足を竦ませる。

「進もう」


 自分を鼓舞するように男は自分に言い聞かせ。そしてまた、歩き出した。


 暫く進むと目の前には広範囲に抉られた土地が見えた。

 破滅痕(はめつこん)、隕石の落下によってできた巨大なクレーター。瘴気の発生源だ。


 ふと、右を見ると奥に建物らしい影が見える。運良く爆発から逃れたのだろう。男はその建物に向かった。

 こういった建物の中には危険も多く潜んでいるが、貴重な遺物が落ちている事が多いからだ。


 慎重に近づきながら男は背中の槍を引き抜き構える。



 建物の中は真っ暗だった。男は腰から下げたバックからライトを取り出した。

 男は右から左へとゆっくりと照らし進めていく。


 内部は様々な機械やベルトコンベアが並んでいる無機質な空間。どうやらそこは小さな廃工場だった。


 内部全体を照らし終える時、キラリと何かが光を反射させた。


 男はライトを当てそこを注視すると、機械の影から棒状の何かが見えた。

 男が警戒しつつ近づく。そして半分程見えた頃、男はそれが何か分かった。


 刀だった。それも全体が金色となり歪に変化している。遺物の特徴だ

 男はすぐさま拾い上げその刀を見つめた。


「武器の遺物……それも金色に変色している。どんな特性かは分からないが、高値で売れるだろう」

 瞬間、近場から荒い息遣いが聞こえた。


 男は刀を腰に差してライトを消した。

 暗闇と息遣いだけが辺りを包む。




 暫くして暗闇に目が慣れてきた頃、数メートル先に何かが動いているのが見えた。やがてその輪郭が見えてくる。


 頭部には巨大な二本の角があった。その角には皮のような肉片とも取れる物が垂れ下がっている。


 男はそれによく似た生物を知っている。鹿という獣だ。しかし、あまりにも体躯が大きい。

 間違いなく瘴気に飲まれ()()()と化しているだろう。


 その獣は背中を向けていて、男にはまだ気づいていないようだ。


「なんとかして出口を目指さなければ」そう思い男が動いた瞬間、腰に差した刀の鞘が後方の瓦礫を弾く。


 カツンという乾いた音が響いた。

 数秒にも満たない沈黙の後、ゆっくりと視線を上げる。


 眼が合ってしまった。


 朱く光り大きく肥大化して斜めに曲がった眼、全身から血の気が引くのを感じた。


「クソッ!」

 悪寒と恐怖が貫いた瞬間、男は出口に走り出していた。

 背後からは人間の叫びに似た濁音の混じった恐ろしい叫びと障害物を力任せに押しのけて迫る轟々とした足音が聞こえてくる。


 出口まで残り数十歩の距離になった時、男は振り返った。

 獣は数歩の距離まで近づいていた。

 もう既に攻撃の動作に入っている。


 避けられない。


 瞬間、凄まじい衝撃と共に男は突き飛ばされ建物の壁に叩きつけられる。


 全身に激痛が走るが血は出ていない。


「案外大したことない」そんな言葉が出かけた時、身に着けていた腕輪の遺物が砕けている事に気付いた。


 その腕輪には『一度だけ致命傷を回避する』という特性があった。


 それを見た途端、男の鼓動は速まり自然と息も荒くなる。


「今……俺は死んだのか?」




 顔を上げると獣はこちらを凝視し蹄と地面を擦り合わせている。


 男は槍を手に持ちそれを支えに立ち上がる。

 極度の緊張か、恐怖のせいか顔は引きつった笑みを浮かべている。


「いいかよく聞け……俺には守るべきものが、帰るべき場所がある。だからまだ、死ぬ訳にはいかない」


 男は震える手を抑え槍を真っ直ぐに構える。


「害獣め。その首落として手土産にしてやる」








 あれかどれだけの時間が経っただろうか。あるいはそこまで経っていないのだろうか。周囲に響いていた轟音は今は聞こえない。


 建物から一人の男が出てくる。ガスマスクは壊れ、片腕を無くした男の横腹には拳大の穴が貫通している。


 男の背後には、体を槍で貫かれ頭部には刀が突き刺さった獣が地面に横たわっている。


 男は勝った。だが同時に負けていた。


 男は力が抜けたのか膝を付きその場に倒れてしまう。


 体が冷たくなっていくのを感じる。


「指一本動かせない………ここで終わりか……」

 そう呟いた男は涙を流し静かに目を閉じた。

 脳裏には妻とまだ幼い子供達との幸せな日々の光景が映画の様に映し出される。


「嗚呼、もう一度お前達を強く抱き締めてあげたかった.....すまない」


 男は静かに息を引き取った。

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