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第1章-第13話 魔王認定試験(中編)

「っ……!」

 

 ヴェラがバラムに向かって刀を振るった瞬間、バラムは振り向きざまに、手にした長剣で迎撃して弾き返す。


 ヴェラはその反動を逆手にとり、宙を舞って離れた地面に着地。その後、炎を纏わせた刀を脇に構えながらバラムへ突撃する。一方のバラムも蒼炎を剣に帯びさせて駆け出した。

 

「ほう。貴様、やりおったな」

「さて、何のことだかなっ!」


 剣戟の音が激しくぶつかり合う。合間にヴェラがバラムへ回し蹴りを入れるが、身を低くした彼に避けられてしまった。


 地面に着いた手を軸に体勢を立て直したバラムは、その拍子に横へ長剣を振るう。蒼炎の刃を仰け反るようにしてスレスレで避けたヴェラは、切り返して下から上に刀を振り上げて後ろへ下がった。


 直後、バラムも長剣を振って後退。炎と蒼炎の刃が衝突して轟音が響いた。


「にしても、あれを倒すか。これは思った以上に逸材のようじゃ」

「お褒めに預かり光栄だぜ。魔王様っ!」


 互いに剣を構え直したヴェラとバラムは地面を蹴り上げて接近した。

 

 試験開始から20分が経過したものの、両者引けを取らない戦いが続いていた。


 空に飛翔したバラムは、自らの周囲に無数の魔法陣を生じさせる。そして彼が手を横に振った瞬間、魔法陣から一斉に地上にいるヴェラへ向けて数十にも及ぶ闇の光柱が放射された。


 ヴェラは降り注ぐそれらを掻い潜るようにして走って避ける。

 

 言わずもがな空を覆う黒い光全てが上級魔術に相当する。当たったら致命傷は免れない。


「ったく、危ねぇもん放ちやがって……」


 地を駆けるヴェラは愚痴を溢しながら上空で高笑いするバラムを捉える。


「これぐらい避けれんようでは我の首は取れぬぞ!」


(調子に乗りやがってあの野郎……)


 この状況を楽しんでいるかのように笑うバラムに、腹が立ったヴェラは低空飛行に切り替えて、森林の木々を陰にしながら尚も襲ってくる黒い死線を猛スピードで潜り抜けていく。


 そうしてバラムの隙を伺っていると、魔法陣からの放射が止まった。ヴェラは一気に上昇し、自身の前方に赤い魔法陣を展開させた。


 と、バラムも同じくして黒の魔法陣を出現させる。

 

「『|咆哮せよ、黒き竜の焔嵐ドラグーン・アーテム』」

「『|深淵より来たれ、黒の流雨シュヴァルツ・レーゲン』」


 ほぼ同時に文言が唱えられたその時。


 赤の魔法陣からは炎の竜巻が、黒の魔法陣からは黒い雨を思わせる光線が、互いに向けて一斉に放たれた。


 直後、高密度の魔力が激突し合い、大規模な爆発が発生。ヴェラとバラムの周囲が黒煙に包まれた。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 ところ変わってメフィスの結界内部。


 ヴェラとバラムの放った魔術の影響で森林全土が揺れた。爆発の火の粉が降り注ぎ、木々が延焼していく様を見て、森の王・フリューゲルは頭を抱えていた。

 

「ぬああああ!? 我らの森がっ! いくら試験とはいえこれは許せぬ!」

 

 戦闘の余波で森林が破壊されていく光景にフリューゲルは半ば発狂するとともに怒りを覚える。今にも結界をぶち破って2人の元へ行きそうなフリューゲル。


 と、今回の審判を務めていたはずのファウストが結界内に降り立った。

 

「今、間に入ったら確実に焼き殺されますが、よろしいので?」

「え、遠慮しときます……」

 

 ファウストに告げられ、フリューゲルは青ざめる。


 その遥か前方ではヴェラとバラムによる赤と青の炎撃の応酬が繰り広げられていた。間に入るどころか近づいただけでも焼死しそうなほどの戦いにフリューゲルは固唾を飲む。

 

 すると、先刻のヴェラとの戦いで負傷していた魔族たちを治療し終えたメフィスがやってきた。彼女はファウストを見ると眉を顰めてこう言った。

 

「兄様、審判の方は大丈夫ですの?」

「この様子ではしばらく決着はつかないでしょう。バラム様が本気になることなど早々ありませんので、せっかくの機会ですから私もここで観戦しようかと」

 

「それに、あれに巻き込まれるのはごめんですから」とファウストは付け加えるようにして口にした。最早、行われているのが魔王認定試験だということを忘れていそうなぐらいには白熱している。

 

 この勝負どちらが勝つのだろうか。

 

 未だ予想のつかない戦いにファウストは珍しく目を輝かせて微笑むのだった。

 

 

 ◇◆◇◆

 

「避けてばかりとはつまらんな」


 宙に浮いたバラムは立て続けに蒼炎を帯びた長剣を振るう。


 ヴェラは降って来た複数の蒼炎の刃を跳躍して躱し、避けきれなかったものを刀で相殺して切り抜ける。

 

(何だよさっきは避けろとか言ったくせに……気分屋にも程があるっての)


 ヴェラは攻撃を受けないよう木々を陰にしつつ、木の枝を足場にある地点へと疾走していた。一向に滞空して降りてこないバラムにイラついていると、前の方に大木があるのを捉える。


 ヴェラは木の枝から跳躍し、その大木の幹を両腕で抱えて魔力を回す。


「そんなに攻撃してほしいのか? だったら、これでも喰らってさっさと墜ちてきやがれっ!」


 大木を根っこから抜いたヴェラは腰を落として地面を踏みしめると、それをバラムに向かって投擲する。かなりの重量のある大木は一直線にバラムへ襲い掛かって来た。


 バラムは蒼炎の剣で迫りくる大木を両断し、その合間を抜けて地上にいるヴェラへと斬りかかる。ヴェラも刀を振るって迎撃する。

 

「ふはははっ! よい! よいぞ! やはり戦いはこうでなくてはな!」

 

 バラムは満面の笑みを浮かべながら全身と剣に魔力を回し、押し切るようにして力を強める。

 

「チィッ……!」

 

 上からの圧力でヴェラが足場としていた地面が崩壊した。高密度の魔力が場を支配する中、炎を帯びた刀身も粉砕され、ヴェラは距離を取ろうと退く。


 が、地面に着地したバラムは、逃すまいと足に魔力を回して踏み込んだ。

 

(こいつまだギア上げる気かよ……!)


 破裂音が鳴り、追撃してきたバラムの攻撃が迫る。


 その寸前、驚愕と興奮が混じった笑みを浮かべたヴェラは魔術で脇差を生成。ステータスが上昇するのを感じつつ、左手に持った脇差で受けるが、成すすべなく木っ端微塵に砕け散った。


 バラムが回転斬りを仕掛けてくる。しかし、3振り目となる打刀も瞬時に折れてしまった。


 もう後がない。


 そう焦りを覚えそうになるが、これで良い。


 武器を失ったヴェラは笑みを絶やすことなく、右足に極限まで魔力を回す。そして剣を振った影響でガラ空きになったバラムの脇腹へ素早い蹴りを入れた。


 ガードする間もなく蹴りを受け、呻き声を漏らしたバラムは遠くへ吹っ飛ぶ。だが、宙空で体勢を立て直し、土煙を上げつつ着地した。


 と、その直後、ヴェラの口が開かれる。

 

「『起動せよ(セット)』」

 

 ヴェラが唱えた瞬間、バラムの周囲にある地面へ刻まれていた無数の文字が発光した。

 

「っ……!?」


 バラムが気づいた頃には遅く、設置された複数の刻型文字が起動し、中心にいるバラムを襲うようにして大規模な爆発が起こった。魔力濃度が高ければ高いほど爆発の威力が増す。

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