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第1章-第9話 初戦

 図体の大きな2体の猪と角を蓄えた1体の羊が真っ先にヴェラへ襲い掛かってきた。彼らは口を大きく開けて息を吸い込み、魔力砲を彼女に向けて放つ。

 

 ヴェラはそれを跳んで避け、着地と同時に魔物たちを捉えると、下段に構えた刀を横一線に振るった。


 直後、振りかぶられた刀身から素早い魔力波が放たれ、直撃を受けた魔物たちの身体が爆発する。

 

 魔物が消滅するのを横目に、ヴェラは空から発射された雷撃を走って躱す。そして、雷撃を放ってきた全長3メートルの怪鳥に向けて大きく刀を振り降ろした。


 と、炎の刃が出現。飛行していた怪鳥の胴体にヒットし、炎に包まれて消滅する。


 次の標的に向かうべく、地面を蹴り上げようとしたその時。近くにあった樹木から根が生え、ヴェラの右足首に絡みついた。

 

「チッ」


 舌打ちを溢したヴェラは即座に右足首へ魔力を回す。すると、根が炎に燃えて焼かれ、拘束が解ける。


 だが、根に着いた炎が樹木へと燃え広がってしまう。


「すまんファウスト! 消火頼んだ!」

 

 ヴェラは地面を駆けながら、上空で様子を見守っていたファウスに向けて声を飛ばす。

 

「かしこまりました」


 返事が聞こえたのと同じくして森林の中を疾走していたヴェラは、背後に複数の魔法陣を起動させ、次々と襲い来る魔物たちを炎で一掃する。


 生えていた木々が燃え、ファウストが水魔法で消火に当たっている間にも、ヴェラは向かってくる魔族たちを排除していく。


 その後、獣人が振るってきた戦斧を刀でいなし、胴を斬ったヴェラは刀を振って刀身に着いた血を払う。

 

 と、森の奥からひときわ大きな熊が出てきた。ヴェラがそいつへ顔を向けた瞬間、走って来た熊が跳躍し、前足に着いた鋭い爪を振りかぶった。


 ヴェラは身を翻して回避するが、風圧で頬と右腕の皮膚が切れる。


 「へぇ、やるじゃねぇか」

 

 ニヤリと笑ったヴェラ。直後、称号の効果が発動し、全身に力がみなぎるのを感じたヴェラは炎を纏わせた刀で熊の足を切断する。


 熊の足から血が飛び散るも、まだ倒れる様子がなく、三つ足で地面に着地したそいつは、ヴェラに向かって噛みつこうと強靭な牙を持った口を開く。

 

 と、大きく腕を後ろに引いたヴェラは口に向かって手のひらを前へ押し出す。


 次の瞬間、彼女の手のひらに炎の球が発生し、まっすぐ口腔に向かって放たれた。


 火の球を顔面に喰らった熊が反動で遠くに吹き飛ぶ中、ヴェラはすかさず足と刀身に風魔術を付与して突進する。

 

「だあああっ!」

 

 雄叫びを上げたヴェラは追い打ちをかけるようにして吹き飛んだ標的に接近し、風を纏った刀身で首を跳ねる。

 

 (これで粗方魔物と魔族は退治したか……)

 

 刀を持つ手を降ろして、周囲に残敵がいないか確認していると、今まで観戦していたフリューゲルが空から降りて来た。

 

「おや、もう倒されてしまいましたか。さては貴方かなりのやり手ですね?」

 

 地面に降り立ったフリューゲルはヴェラを讃えながら、身の丈程の羽根のついた上物の槍を手元に出現させる。

 

「そうか? これでも実戦は初めてなんだけどなっ!」


 活き活きとしたヴェラは地面を蹴り上げてフリューゲルへ突撃。刀身へ暴風を纏わせて斬りかかる。フリューゲルも雷風を纏った槍を振りかざす。


 両者が衝突した瞬間、辺りに高濃度の魔力波が吹き荒れ、風を受けた辺りの木々がへし折れそうになるほどしなった。


「はあっ!」

 

 激しい金属音が鳴る中、フリューゲルが柄を返してヴェラの刀を弾く。弾かれた反動でヴェラの身体が仰け反ると同時に刀身にヒビが入り、粉々に砕け散った。


 武器を失ったヴェラは宙返りをしてその場から後退する。だが、逃すまいとフリューゲルが追走してきた。


(早いっ……!)

 

 そう感じると同時に、ヴェラを眼前に捉えたフリューゲルの周囲に魔法陣が出現。そこから炎が噴射される。


 が、フリューゲルは魔力で雷風で降りかかる炎を吹き飛ばし、ヴェラへ突貫。瞬く間に彼女の胴に向かって数撃突きを撃ち込む。


「ぐっ……!」

 

 ヴェラは一、二撃目を回避するが、三撃目が脇腹を掠めた。そのまま四撃目も喰らうかと思いきや、ヴェラの手に長剣が現れ、槍の穂先をいなす。


「ふっ!」

 

 その勢いのままフリューゲルの胴を斬り、懐へ回し蹴りを入れる。


 直後、フリューゲルが天へと突き上げられた。ヴェラはフリューゲルを追うべく跳躍し、宙に舞った彼へ炎を纏った剣で斬りかかる。


 しかし、翼を広げて体勢を立て直したフリューゲルに避けられる。


(おいおい、斬撃喰らったはずなのにまだ動けるのかよ……)


 ヴェラが耐久力の高さに驚きつつも、戦いは空中戦へ移行。フリューゲルが槍を振りかざして雷撃を放ってくる。


 翼無しで飛行していたヴェラは対魔法用の防御障壁を展開してガードし、上空へ向かう。フリューゲルも後を追って上昇し、互いに刃を差し向ける。


 数度撃ち合い、距離を取ったヴェラが魔法陣から炎を照射するも、フリューゲルは雷風を纏った槍を振り回して防ぎきった。


 その後、雷と風を自らの足に付与したフリューゲルは疾風のごとき勢いでヴェラに迫り、刺突を繰り出す。それをヴェラは剣で弾いて躱し切り、炎の斬撃を放つ。


 フリューゲルが再度、身体の周囲から風を発生させて防ぐと同時に。彼の頭上に大小3つの魔法陣が現れた。

 

「『風よ、切り裂け(ワール・ウィンド)』」

「何っ!?」

 

 ヴェラが口にした瞬間、魔法陣から無数の風の矢が発射され、フリューゲルの左腕と腹部、そして足が射抜かれる。


 攻撃を受けたフリューゲルはそのまま地面に落下する中、ヴェラは宙を蹴って接近。地面に墜落したフリューゲルの首へ長剣を突きつけた。

 

「そこまでっ!」


 ファウストの声が森林に響き渡った。フリューゲルの首に突きつけていた剣を離したヴェラは、彼から退いて鞘へと仕舞う。


 起き上がったフリューゲルも手にしていた槍を消滅させた。


 その後、ヴェラが回復魔術で自分とフリューゲルの傷を癒やしていると、審判役を終えたファウストが降りてくる。

 

「お疲れ様です。早くも無詠唱で魔術を行使されるとは素晴らしい」

「なんか撃ってくる魔法全部強いなと思ったら、あれ魔術だったんですか!?」

「あぁ、そうだぞ」


 フリューゲルが目を見開きながら詰め寄ってくる。ヴェラは頷きつつ、何故今まで気付かなかったのかと口にする。


 彼によると、魔術と魔法の陣は見た目が似ているらしく、ヴェラが無詠唱で魔術を行使していたのもあって分からなかったらしい。


 無詠唱で魔術を行使するには、魔術適正がある者でも通常、10年はかかるようで、たった1週間でできてしまった自分って……と、内心驚く。


 だが、無詠唱でする以上は魔法同様、想像力が詠唱ありきの時よりもかなり重要になってくるので、可能になったのはそこが多少秀でているからなのかもしれないなと思い直した。

 

 そしてフリューゲルの治療を終えたヴェラは、彼へ視線を向けた。

 

「なああんた、途中まで本気出してなかっただろ?」

「いやはや、バレてしまいましたか。貴方の実力がどれほどのものか見極めていましてね。正直、初めてとは思えないほどに強かったです。おかげで我らのストレス発散にもなりましたよ」

 

 そう言ってフリューゲルは満足そうに微笑んだ。


 彼の話を聞いて自分との戦闘はストレス発散だったのかと不満を覚えるが、こちらとしても現状の力を試せたのでそこはツッコまないでおこう。

 

「どうだ? あたしはバラムに勝てそうか?」

「そういうことであれば、まだまだですね。あれはそう簡単に倒せる相手ではございませんし、私ですら遠く敵いません」

「まぁ、そうだよな……」


 刀もフリューゲル戦の序盤で破壊されてしまった以上、もっと丈夫なものを作らなければならない。


 フリューゲルの持つ槍はかなり頑丈なようで、あれだけ戦っていても刃こぼれがほとんどなかった。


 頑丈な武器に強力な魔法が加われば、大して鍛えてもいない刀が折れてしまうのは当然だろう。

 

「フリューゲルに聞きたいんだが、持ってた槍ってどこで手に入れたんだ?」

「あれは王都に鍛冶屋をやっている腕利きのドワーフに造っていただきました。また、この森の魔族たちが使う武器もその方に造っていただいていますが、それがどうかしたのですか?」

 

 ヴェラの唐突な質問にフリューゲルは眉を寄せて尋ねてきた。

 

「いや、魔術で刀を生成して振り回してたんだけど、お前と戦ってすぐに折れちまっただろ? だから折れない刀を打てるやつがいないかなと思ったんだよ」


 ヴェラが頭の中で思案していたことを話すと、フリューゲルは顎に手を当てて唸り始める。


「刀というと、極東のヒノワで使われている武器だと聞いたことがありますが、まさかヴェラ殿が使っているものだったとは。生で見たのは初めてです」

 

 フリューゲルは興味深そうに目を爛々とさせるので、ヴェラは金属生成魔術で刀を生成してフリューゲルに渡してやる。

 

(それにしてもヒノワってやけに日本っぽい国名だな。刀を使うってところからもますますそれっぽい)


 妙に既視感のある国名に小さく唸りつつ、刀が存在するのなら打てる人もいるのではないかと考える。

 

「それで刀を打てそうな人に心当たりはないか?」


 物珍しそうに渡した刀を眺めるフリューゲルに問う。

 

「それならば今言ったドワーフが最適かと。彼はかなりの武器収集マニアでしてね。至る所を訪れては武器を収集しているのですよ。確か前にヒノワにも行ったことがあると言っていましたので、ひょっとしたら打ってもらえるかもかもしれません」

「おぉ、マジか!」


 異世界で刀が手に入る可能性が高まり、ヴェラは興奮したように頬を上げる。


 いわゆる日本刀とよく言われている打刀を主力武器にするのはもちろん、護身用としての短刀、補助武器として脇差も打ってもらいたい。

 

 ヴェラの中で夢が膨らんでいき、早くフリューゲルの言うドワーフに会ってみたい欲が増大する。だが、ここで重要な問題があることに気づく。

 

「けど、頼んでる時間が惜しいんだよな。試験まで後、2週間しかないし」

「武器の鋳造は1週間ほどでできますが、鍛造となるとそうはいきませんからね」


 フリューゲルの言う通り、西洋武器を造る際に溶かした金属を型に流し込んで行われる鋳造と金属を何度も打って鍛える鍛造とでは制作時間が異なる。


 日本刀の制作は最低でも2週間は必要になり、武器が完成するのを待っていては試験が終わってしまうのだ。

 

 何でもかんでも魔術頼るというのは気に食わないが、こうなったら仕方ない。魔術で何とかできないかと魔術書を取り出してページを捲る。すると、物理強化魔術の欄を見つけた。

 

「でも、これで枠数1個埋めるのはもったいないしな……」

 

 系統の枠数に制限があり、残り1系統しか魔術が使えないとなると選択は慎重にすべきだ。その日ごとに系統魔術を入れ替えることも可能だが、やはり日々使って慣れていく方が良いだろう。


 そう思いながら次のページを開けると、1つの系統魔術が目についた。そこには刻型文字魔術と記載されており、魔動器に刻まれているのもこの文字だったことを思い出す。

 

(お、これならいけるかも)


 フリューゲルの持っている刀へ目を向けたヴェラは笑みを浮かべるのだった。

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