ホラーは苦手な件
なんの心構えもなく洞窟に入ったのを少し後悔している。
「ノエル……、さすがにゴーストが哀れだ」
「ではアルトさん、全てあなたが始末をつけてくださるの?私は良いのですよ?幽霊嫌いなので後ろに疾走しても」
そう言うと、アルトさんは「申し訳なかった!」と頭を下げた。私はホラーが苦手だって言ってんだろうが。
念入りに滅ぼしとかないと奴らは消えないんじゃないかという疑念が残る。そんなの耐えられない。私が。
よく考えると洞窟だってよくあるホラースポットだった。
こんなところに来させたやつ許さない。絶対にだ。ついでに旅をさせた王様も許せないし、召喚しやがった王子も許せないな。さらに私に苦労を強いるルイーゼさんも許せん。全員纏めて呪ってやる。
とりまハゲの呪いでいい?ハゲの呪い。自分で考えてなんだけどエグいこと考えてしまったな。帰るまで考慮欄に突っ込んどこう。いやでも死ぬわけじゃないからいいの…か…?
「どう考えてもノエルに従っておいた方がいいわよぅ。私だって嫌だわ、ゴーストと虫。……早く出たいわねぇ」
「旅してれば、自然と慣れはするがゾワっとするしな」
「セドが王子だって今ようやく思い出したわ、俺」
セドリックさんが虫について言及した時にアレンは感慨深そうに呟いた。
普段?普段どっちかというと騎士よりの行動取るからからこの王子。
今だって疲れたようにそう言いはしたが、蝙蝠の魔物がきた瞬間剣で真っ二つにしている。さすがだ。
「お待ちください」
「どうした?ノエル」
「瘴気が急に濃くなりました。何かがいます」
力を強く使って瘴気を払う。
すると、自らを傷付けながら卵に近づくなと必死のドラゴンがいた。瘴気はそこから発せられている。
「やっぱり、学説は一部は正しかったのね」
「荒唐無稽だ、と王家が鼻で笑って止めさせた研究の学説の正しさをこんな形で知ることになるとはな。『瘴気に囚われた生き物が魔物、魔族となる』。なるほど、ドラゴンほどの生物が凶暴性に抗えなくなっているところを見ると、あまりに残酷だな」
暗い顔でそう言ったセドリックさんが剣の柄に手をかけた。
「セド以外の王家ってろくな事しねぇな」
「瘴気に囚われた生き物が魔物や魔族となるのであれば、浄化の力を注げば元に戻ったりはしないのでしょうか?」
「それはわからないわ。ノエルほどの力を持った聖女は今までいなかったもの」
卵を守っているのであればあれは父、もしくは母だろう。それは、あまりにも悲しくはないのだろうか。
やってみたい気持ちはある…が、私と視線があった瞬間にドラゴンは正気を遂に失ったようで、がむしゃらに突進してきた。
的確に、私だけは殺すという意思を感じる。
「ノエル。さっきの案だけど、俺は素敵だと思う。だけどそれは…お前の命をかけてまでやる事じゃない」
アレンは私の前に出て、「加護をくれ」と聖剣を差し出した。
「……勇者アレン、あなたと聖なる剣に女神テティシアの加護を」
願うように剣に触れると、金色の光が漏れた。
立ち上がったアレンは外套を翻して、ドラゴンに向かって地を蹴った。
そっと、卵に結界を張る。
今から私たちは親を殺す。魔物化したとはいえ、まだ産まれていない子の。
ごめんね、と心の中で謝った。
新年あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します。
新年から暗いのばかり書いている気が…。気のせいか?




