束の間の休息を取ることにした件
勇者達の戦いの結果、魔物化したドラゴンは倒された。
その遺体は光の粒子になって消えていく。代わりに現れたのはやはり聖遺物と呼ばれるもので、今回は足枷のようにアンクレットとなった。
洞窟全体を浄化するけれど、主に瘴気が溜まっていたのはドラゴンの滞在していたこのエリアだけであるようだ。
卵を抱えて、それを収納魔法で仕舞う。アレンが何か言いたげな顔をしていたが、反対はしなかった。
別にアレン達の判断を間違えてるとは思わない。これはただの感傷かもしれない。
けど、やらない善よりやる偽善という言葉も聞いた事があるし、自分の心を軽くしたいから、私は彼、あるいは彼女の大事にしていたそれを育てると決めた。
とはいえ、実際に孵化してもらうのは旅が終わった後が好ましい。
幸いというか、卵の状態のこれは「物」という扱いになり、収納魔法で時間停止機能のついた枠に入れる事ができる。気に入った食料品などを放り込んでいる場所なのだが、そこに放り込めば差し当たっての問題はない。
……食料品とドラゴンの卵を同列で扱う事には異論があるだろうけれど。
ナージャさん曰く、どちらにしても卵を温め、孵化後の世話をする成竜がいなければ死んでしまうらしい。元々がそういう命なので、育てることを前提とすると間違った判断ではないはずだけど。
不安に思いながらも、私はすでに判断してしまったし、今更気にしたって仕方がない。
洞窟を浄化し終えると、私たちはそこから脱出した。
近くの町へ出ると、アルトさんが「そういえばここはロージア辺境伯領だったか」と呟いた。
「ああ、アレク爺の領だったな。壮健であればいいが」
「いやぁ、あの扱かれた日々を思い出しますね」
二人に剣の師であるらしいアレクセイ・ロージア辺境伯の領地であるらしく、懐かしげにしていた。
魔王城近くの土地であるが故に、屈強な兵士達が集まっている土地。そこを治める辺境伯も強い武人であるという。
「どちらにせよ、もう冬が来る。雪もチラついてるから俺たちも一度ここらで止まるべきじゃない?」
「……確かにな。食料品を狩りつつ、屋敷を訪ねるか」
「保存と持ち運びは私とノエルが頑張っちゃうわ」
まぁ、まだ入れられそうだからいいけどナージャさんも勝手に決めないでほしい。
まぁ、冬の厳しい土地で何もなく押しかけるの死ぬほど迷惑だっていう理解はあるので頷くけど。
……非常食もいくつかあるけど、薪とかも拾えたら持っていった方がいいのかしら。
幸いにも、時間停止機能をつけなければちょっと尋常ではない数を収納できる。異世界転移特典というやつかもしれない。基本的には魔物の落としていった魔石とかを回収していってるんだけれど。
魔石。そう呼ばれるものは魔物を倒したときに落とされる美しい石だ。
魔力を中に溜め込んだそれは、灯をつける道具や、大きな魔法を打つための媒介として使用される。
それを私が集める理由なんていうものは、私が大きな力を使うことになった時のための保険だ。
何重にも警戒を重ねないと死んじゃうような気がしてならない。
そんな風に資源を集め持ってロージア辺境伯に滞在の許可を得に向かった。
幸いにも、私の境遇への憐れみと、魔王討伐のために旅をする私たちを支援するために滞在はすぐに許可された。
洞窟の場所が辺鄙だったために誰も入らないような山奥を通ってきたのだが、そこで拾ってきた薪の材料や、狩った熊や鳥なども喜ばれた。
冬における蓄えとは正義なのである。
ついでに病がちだったお嬢様の身体も治しておいた。そうしたら、友人になってくれたので心穏やかである。
アニータ・ロージアは上にめちゃくちゃ強そうな兄を二人持つ、可憐なお嬢様である。
彼女が元気になったことに感動した辺境伯家の皆様は私の悪評を流していたらしいルイーゼさんが聖女だということを完全に否定するようになった。いや別に聖女云々はどうでもいいんだけど、私知らない間に悪評流されてるの流石に酷くない?
「旅をしている私がどうして彼女に悪意を持つと言われるのでしょうね……?」
心底不思議だったのでそう問うと、「どうしようもない人間から見たノエルはとても眩しくて……引き摺り下ろしたくなるのかもしれませんわ」とアニータは儚げに微笑んだ。
私が眩しかったらアニータは「光」なのでは?




