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第3話 通知が止まらない

 翌朝。

 俺は小鳥のさえずりではなく、空腹の腹の音で目を覚ました。


 時計を見ると、午前10時を回っている。

 出品してから約12時間が経過していた。


「……怖くて見れねぇ」


 俺は枕元のスマホを睨みつけた。

 もし『入札件数:0』のままだったら?

 あるいは、『違反報告』が大量に来ていたら?


 だが、現実は待ってくれない。

 俺は意を決して、画面をタップした。

 スリープが解除され、『D・マーケット』のアプリ画面が表示される。


====================

【商品名】

【真作】聖剣エクスカリバー(リペア済み・封印解除率15%)


【現在価格】

 500円


【入札件数】

 3件


「……ごひゃくえん」


 俺はガクリと膝をついた。

 いや、0円じゃないだけマシだ。マシだが……!


「サビ落としとたわし代で648円かかったんだぞ!? 赤字じゃねーか!」


 15億円の聖剣が、ワンコインランチ以下。

 これが現実だ。エクスカリバーの出品だなんて、誰も信じちゃいない。

 コメント欄を開くと、案の定、冷やかしの嵐だった。


『なんだこれw 聖剣(笑)』

『商品名に【真作】とかつける奴ほど詐欺』

『背景がボロい畳なのが芸術点高い』

『500円なら子供のお土産にいいかも。入札しとくわ』

『↑やめとけ、どうせプラスチック製の模造品だろ』


 胸が痛い。

 物理的な攻撃よりも、こういう言葉の暴力の方が心に来る。

 特に「畳がボロい」に対する反論ができないのが辛い。


「もういい。取り下げよう」


 俺は諦めかけた。

 このまま晒し者になるくらいなら、自分で使ったほうがマシだ。弱いなりに多少は探索者としてやっていけるかもしれない。

 出品キャンセルのボタンに指を伸ばす。


 その時だった。


 ピロン♪


 軽快な通知音が鳴った。

 新しいコメントがついたようだ。


『ID: Weapon_Maniac(評価:12500)』

『おい、お前ら画像を拡大してみろ。刀身のルーン文字、これただの掘り込みじゃないぞ』


 ……ん?

 なんだこいつ。評価数が1万超えの古参ユーザー?


『ID: Weapon_Maniac』

『そもそも普通のカメラで撮ってんのに、ここまでノイズが乗るのは異常だ。それに、この青い宝石……もしかしてオリハルコンじゃね?』


 そのコメントを皮切りに、流れが変わり始めた。


『マニアック氏が反応してるってことは、マジモン?』

『いやいや、ただの加工画像だろ』

『でも、加工にしては光源の反射がリアルすぎないか?』

『俺も鑑定してみた。「詳細不明」って出たぞ。ただの鉄なら「鉄」って出るはずだ』


 ざわざわとコメント欄が不気味に動き出す。


 俺が呆気にとられていると、再び通知音が鳴った。

 今度はコメントではない。

 入札通知だ。


 ブブッ。


====================

【現在価格】

 1,000円

 ブブッ。


====================

【現在価格】

 5,000円


「お、おぉ?」


 ブブブッ。


====================

【現在価格】

 10,000円

 入札額の桁が変わった。

 俺の手の中で、スマホが震えだす。

 最初は数分おきだった振動が、数秒おきになり、やがて――。


 ブブブブブブブブブブブッ!!!


 途切れることのない連続振動に変わった。

 まるでスマホが熱暴走を起こしたかのように、画面の数字が目まぐるしく回転し始める。


『現在価格:50,000円』

『現在価格:120,000円』

『現在価格:350,000円』


「ちょ、ええええええ!?」


 俺はスマホを取り落とした。

 畳の上で、スマホが生き物のように暴れまわっている。


 コメント欄は、もう読むことすらできない速度で流れていく。


『祭りキターーーー!』

『本物確定! ギルドの鑑定士にスマホ見せたら「測定不能」って言われた!』

『出品者何者だよ!?』

『100万出す! 俺に売れ! お前ら買うな!』


 通知の嵐。

 恐怖すら覚えるほどの熱狂。

 俺が呆然と見守る中、一際大きな通知ウィンドウが画面を覆い尽くした。


《高額入札者が現れました》


====================

【現在価格】

 5,000,000円

 入札者:Gold_Rush(大手買取店)


「ご……ごひゃく、まん……?」


 俺の家賃、おおよそ16年分。

 それが、たった数分で。


 喉がカラカラに乾く。

 心臓が破裂しそうだ。

 夢なら覚めてくれ。いや、覚めないでくれ!


 だが、祭りはこれで終わりではなかった。

 500万円という高値を、鼻で笑うような『本物』たちが、動き出したのだ。


 ブブッ――ピロリン!


 今までとは違う、特別仕様の派手な通知音が鳴り響く。

 画面に表示されたのは、一般ユーザーとは違う『金色の枠』で囲まれた入札者名だった。


====================

【現在価格】

 100,000,000円

 入札者:■■■■(Sランク探索者権限により匿名)


「い、一億ッ!?」


 思考が停止した。

 ボロアパートの六畳間で、俺は絶叫した。

 隣の住人が壁をドンドンと叩く音が聞こえたが、今の俺には、それが祝福のドラムにしか聞こえなかった。

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