↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
114/121

第109話 秘策

「提案……って、何かしら? ノア」


 凛が、壁に寄りかかりながらも鋭い視線をノアに向ける。


「改めてまとめると、お父様は、残る四つのプラントの出力を最大にして、ジュネーブ本社の魔力炉心へ直接魔力を送るつもり。それが完了すれば、お父様の『神化』は止められなくなる」


「やっぱり、時間との勝負になるね……。でも、残りのプラントは欧州各地に点在してるんだよ? 私でも移動するだけでも数日はかかるよ」


 セイラが『エクスカリバー・アヴァロン』を鞘に収め、焦りをにじませて言う。


「うん。普通に移動していては、間に合わない……だから、ここ、第一プラントの中枢システムを使う」


 ノアは、俺たちの顔を一人ずつ見つめながら、淡々と、しかし一歩も引かない決意を込めて語り続けた。


「第一プラントは、エデンの魔力吸引ネットワークの『主結節点』の一つ。ここから逆接続のシグナルを送り、地脈の通信回路を通じて、残り四つのプラントの安全弁を強制的に閉鎖、魔力を逆流させる」


「それって、ハッキングで残りのプラントも一括停止できるってこと?」


 凛が驚いたように身を乗り出す。だが、ノアは静かに首を横に振り、頭部の角を指した。


「システムを通しただけの正規アクセスでは、本社側のメインフレームに一瞬で検知され、遮断される……だから、私の脳内にある、旧魔力リンクのポートを『直接』中継アンテナにする」


「ノア……それ、どういうこと?」


 セイラが怪訝そうに眉をひそめる。


「私はクローンとして、常にお父様の精神波、そしてエデンの魔力ネットワークと微弱に同調するように造られた。角を介して、私の脳の魔力回路を第一プラントのメインフレームに接続すれば、探知されることなく、四つのプラントに『お父様自身の命令』として偽装した逆流シグナルを同時に送り込める……かも」


「……待て。その『かも』っていうのは、どういうことだ?」


 俺は一歩前に進み出ると、ノアの小さな肩を掴んで、その茜色の瞳を覗き込んだ。

 ノアは一瞬だけ驚いたように瞬きをしたが、すぐに視線を伏せた。


「……単純に難しいだけ。大した話じゃない」


「嘘言うな。お前、何か隠しているだろ」


「……」


 ノアは小さく唇を噛み、黙り込んでしまった。

 やはり、何か重大なリスクを隠している。

 俺は掴んでいた手の力を少しだけ緩め、右目に意識を集中させた。

 俺の固有スキル『真贋鑑定』が、ノアの脳内に描かれているその「計画」の真実を暴くために熱を帯びる。


 ――ブォン。


 視界が軽く歪み、ノアの頭部から伸びる魔力回路のシミュレーション図の上に、冷酷なシステムウィンドウが展開された。


 ====================

【対象】ノアの脳内魔力リンク接続計画

【詳細】

 四つのプラントから押し寄せる同期シグナルの負荷が、直接ノアの脳内魔力回路(角の基部)を通過するため、脳に非常に強い負荷がかかる。

 高確率で精神崩壊、あるいは永続的な脳死状態に至る恐れあり。

 ====================


「……精神崩壊、脳死の恐れあり、か」


 俺が鑑定結果をそのまま口にすると、制御室の空気が一瞬にして凍りついた。


「ダメ! 絶対にダメだよ、ノア!」


 セイラがノアの小さな身体を強引に抱き寄せ、その顔を覗き込んだ。その碧眼には、今にも零れ落ちそうな涙が浮かんでいる。


「やっと、お父様から自由になれたんだよ!? やっと私の妹になれたのに……なんでそんな死んじゃうかもしれないことするの!?」


「大丈夫だよ、お姉さま。死ぬつもりはないから……きっと、私なら耐えられる」


 ノアは痛々しいほどに力なく微笑み、セイラの涙をその小さな指先でそっと拭おうとした。

 だが、その指先はわずかに震えている。彼女自身、自分がやろうとしていることの恐ろしさを、誰よりも理解しているはずだった。


「耐えられるわけがないだろ」


 俺は二人の間に割って入るようにして、ノアの前に膝をついた。


「脳の魔力回路が焼き切れるなんて、そんなリスクを冒していい理由にはならない。ノア、お前はもう兵器でも人形でもないんだ。自分の命をそんな風に雑に扱うな」


「でも、お兄様……これくらいしか、お父様の計画は止める手段がない……出来ることをやらないと、私は……」


 ノアの消え入りそうな声が、冷たい制御室に寂しく響く。「役に立たねば存在価値がない」という呪縛が、まだ彼女の心を縛っているのだろうか。

 俺はふっと息を吐き、ノアの頭にそっと手を置いた。


「作戦を考えてくれただけで十分だよ。ありがとな」


 俺はそう言って優しく微笑み、左手の『アイテムボックス』から、ひび割れて静かに眠っている『神魔剣カリバーン』を取り出した。


「代わりに、こいつを使う。……こいつは魔力を完全に使い果たして休眠中だ。ノア、お前が接続する際、負荷となる余剰魔力をすべてこのカリバーンに吸わせるんだ」


「剣に、吸わせる……?」


 ノアが不思議そうに茜色の瞳を瞬かせる。


「カリバーンは魔力を吸収、放出する性質を持っている。正式な所有者じゃないノアが持てば、過剰な魔力を勝手に吸って、余った分は勝手に発散してくれるはずだ」


 さらに、休眠中のカリバーンに魔力を充填させることもできる。魔力を失った相棒を復活させ、ノアの安全も確保する。まさに一石二鳥の手段だった。

 俺はひび割れた黒と銀の刀身を、そっとノアの小さな手に握らせた。


「というわけで、ノア。これを持ってリンクに臨んでくれ。こいつを臨時の避雷針にする。これならお前の脳が焼き切れる心配もないし、ついでにコイツも復活だ」


 ノアは両手でカリバーンの柄を握りしめた。

 力を失い、冷たくなっていた黒と銀の刀身。だが、彼女が触れた瞬間、カリバーンはまるでおねだりをするかのように、微かに「チリッ……」と低い共鳴音を立てて震えた。

 その、刀身から伝わる微かな温もりに、彼女の表情から徐々に強張りが消えていく。


「……うん。お兄様がそう言ってくれるなら、私、やってみる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。