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俺たちは落ちこぼれ、でも二人でなら最高の魔法使い  作者: 広河恵/ぴろめぐ
第四章第五節:颯vsガロスヴォルド
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颯vsガロスヴォルド

「遅かったね」



「…………」



「やっぱり試作品じゃその程度だったようだ」



「……?」



「分からないって顔をしているね。それじゃあ戦う前に、少し話をしようか」



ずいぶん饒舌な奴だ。それは余裕の表れなのだろう。話したいのなら勝手にさせる。



「アレは一つの魔術を封じ込めた、俗な言い方をすれば魔道具の一つ。名前はまだないが、誰にでも魔術が扱えるようになる便利な品物さ」



そういうことか。だから信町が、全く情報がない力を使えていたのか。



魔術が一切使えない人に持たせるだけで、魔術師同様の力を得ることができる代物。確かに便利だという点は間違いないだろう。



ただ、それを使った奴の顛末を見た以上、素直に肯定はできない。アレは結局何だったのか。



「けれども、まだ試作品だから、精神状態の変容で簡単に言うことを聞かなくなる。大方信町も、精神状態を崩して自爆したんだろう? まぁ所詮はその程度だったってことだろう、ちょうどいい実験にはなったかな」



「…………」



それで信町は採取的に全身を切り刻まれたのか。MRBフィールドでの魔術は幻想状態だから本人は無事だろうが。



何よりも、人を実験扱いするなんてこと、許されるとでも思っているのか?



こいつはどこまで人を……。



「ところで、そろそろだんまりはやめてほしいんだけどな。それとも庶民は言葉も……」



「……うるせぇよ」



「なに……?」



「もう黙れ、虫唾が走る」



怒りでどうにかなってしまいそうだ。



「……いい加減、口の利き方を」



「黙れッッッ!!」



もう聞きたくもなかった。だから重統魔法を作り上げる。この一帯に矢の雨を降らせるために。

逃げ場などどこにもなく、逃げる隙すら与えることのない攻撃。



「馬鹿か?」



その言葉と共に割って入ってくるのは奴が操るゴーレム。そのゴーレムが右手を突き上げて、巨大な障壁を作り上げる。



「そんなものは効かないって、分かるだろうに」



そうだろう。事実障壁はすべての矢を受け止めて通すことはない。だが、そんなことは分かっている。



これだけの広範囲の障壁を展開しているということは、そこに相当の力を注いでいる。つまり、隙ができる。



だから矢の雨が降り終わる前に、次の一手のために駆ける。



「 Water Ball+Water Ball、Superimpose! Striking、Blisters Rupture」



弾ける水泡。それをゼロ距離でゴーレムの身体に叩き込む。



飛び散った水によって視界が悪くなる。だがその中で見えるのは、この魔法が効いている形跡がないということ。けれども、そんなこと分かってる。



「Wind Spear Fist!!」



広げていた手を握って、その身体に叩き込む。



「っ!?」



だがその結果を確認する前にその場から跳び下がる。何もいなくなった場所に巨大な何かがすれ違う。



「……これで効果がないのか」



視界が開けて見えるのは、傷一つないゴーレムの姿。



光属性を防御する火属性の障壁を破るための水属性。そしてそれから守るべく展開されたであろう土属性を穿つための風属性。その三段構えの攻撃を過たず加えたはずなのだが。



(それにしたっておかしい……)



旧約聖書に出てくる無敵のゴーレム。魔導士ラビが生み出し息吹ルーアハを受けた無敵の巨人。もし奴のゴーレムが本当にその無敵の巨人なら、おかしな点がいくつも存在する。


もしアレが本当の意味での無敵の巨人なら、こちらの攻撃の何一つも受け付けないはずだ。けれどもBlisters RuptureとWind Spear Fistを打ち込んだとき、防御されていたとはいえ手ごたえのようなものはあった。



それに、各属性に対してそれぞれ防御壁が存在するということがそもそもおかしい。本当に無敵の巨人なら、そんな回りくどいもの必要ないだろうに。



さらに、あの巨人は本当にスタンドアローンか疑問が残る部分が多い。普通一つの攻撃に一つの防御を選んでいたら、ある程度コマンドで決められているゴーレムの反応速度を超えて必ず遅延という名の綻びが出るはずだ。だからさっきの攻撃を試して、その反応速度を超えようとした。



だが、奴のゴーレムの判断速度はあまりにも早すぎる。つまり、



(……奴が完全に制御している)



ゴーレムの攻撃指示も防御指示もすべて、奴が出している。術者と傀儡、そこに一切の遅延が存在しないのは術者の技量故なのだろうが。



けれどもそれは勝機だ。アレが本当に無敵の巨人なら対処のしようがないが、そうでないなら対処法があるはずだ



「だったら」



やるべきことは一つ。ゴーレムの脳―――ガロスヴォルドを直接叩くということ。



術者とつながっていて初めて動けるのなら、その術者を潰してしまえばゴーレムもただの土と化すだろう。



作り出した剣を握り締め、再び瞬発風力で地を駆ける。今度は奴に向かって一直線に。



そんな動きをすれば当然、奴が操るゴーレムはその間に割り入ってくる。



「邪魔だ!! Fall down!」



巌の落下。積み上げるなんて工程は必要ない。ただ敵を圧し潰すためだけの落石。



そしてそれを防御するのは分かりきっている。だから巌はただのブラインド弾に過ぎない。本命はこっちだ。



「Triple Superimpose! Raining!!」



今までで出来なかった、六つの魔法陣の展開と重ね合わせ。けれども今の俺ならできる。



降り注ぎ方の細かい指定もしない、数での圧倒。一撃の重さで決まらないなら次は数で圧倒する。



(抜ける!)



岩石と矢の合間を縫って、ゴーレムの足元を突破する。そしてそのまま、ターゲットであるガロスヴォルドの元へ。



「食らいやがれッ!」



手にした剣を振りかざす。近衛騎士に教わったことの何一つないただの一撃。けれども間合いにまで来たのだから、間違いなく捉えられる。





()()()()()()





「なっ!?」



俺と奴の間に入ってきたのは手、いや腕だった。それによって作られているだろう防壁によって、剣は一ミリも先に進まない。



「腕一本ならば、お前の程度の速度は蝶にも等しい」



刹那、左から怖気を感じる。咄嗟に後ろに跳び下がると、そこに水が左右から襲いかかってきた。



続いて感じるのは、五つの気配。俺の周囲を取り囲むように飛翔する、五つのパーツたち。



「所詮お前は一人で戦うしかない。けれどもこちらは五体。お前に勝ち目があると思ったか?」



胴体、両腕両脚。その五つに分離したパーツが、独立して動く機能まで備わっているのか。



「っ!」



五つのパーツ。それがそれぞれ自由に動いて攻撃をしてくる。



(感じとるにしたって……!)



五感のすべてと、直感。あらゆるものを駆使して攻撃を躱すか剣で捌いていくか。逃げ惑いながら自身の安全を保ち続ける。



だがそれにも限界がある。連続で攻撃を受け続けている現状では、そう遠くない未来に必ず捌き切れなくなるだろう。



それに、奴との戦いにおいて守勢に回るのは愚の骨頂だ。今までの戦いがそうであったように、常に攻撃的でなければ奴らを倒すことなど不可能。だからいつまでもこうしていては魔力の無駄であると共に、勝機を失うことと同義だ。



「Striking!」



だから使い慣れた矢の魔法を、一撃必殺の形式で放つ。それに対して向こうは左腕のパーツが防壁を張るべく前に出てくる。矢と共に防壁が消えればその後ろから、風を司っているのだろう右足のパーツが魔術を打ち込んでくる。



(やっぱり、そうなのかもしれない)



奴の思考であいつらが動いているとして、五つものパーツを制御しつつ魔術まで使っていれば、いくらなんでも処理に限界が来る。脳が追いつくはずがない。



そしてあのゴーレムは、今まで一度に一つの魔術しか使用できていない。連続使用は可能だとしても、それはかならず前の魔術が消失してから。



要するにあの巨体を遅延なく動かす代わりに、攻撃と防御の多彩さに犠牲を強いているということ。



要するに、一度に二つの属性の攻撃を使えば、突破できる可能性があるということ。



(別に勿体ぶってたわけじゃないが……)



ロリ老女以外はまだ誰も知らないジョーカー。それを使うにしてもこの確証が必要だった。



しかしもう迷う必要はない。躊躇うことなく、今がそのカードを切るとき。



「Light Arrow+Blow Wind」



手にした新たな力を顕現させるために、新たな呪文(スペル)を紡ぎ始める。



「Superimpose、Striking」



星と菱形を象った二つの魔法陣。黄色と緑の魔法陣が重なり合って、黄緑の魔法陣が出来上がる。



「Spiral Light!」



風を纏った螺旋の矢。そう命名された一撃が一直線に奴目掛けて飛んでいく。



「風? 何だ? その程度……?」



光属性の防壁を展開するために右腕が飛んでくる。そう、それ即ちこちらの術中に嵌ったということ。



確かに奴の防壁は纏った風を打ち消すことはできる。だが、残った矢がゴーレムの手に突き刺さる。



「ヒビを入れた、だと……?」



「Blow Wind+Grand Mass!」



「!?」



まだ理解の追い付いていないガロスヴォルドに考える隙は与えない。



虚をつく、ペテンにかける、敵を混乱させる。それが俺の戦い方であり、同時に奴に対しては最も有効な戦い方だ。



ガロスヴォルドの理解を超える、すなわち脳のキャパシティを超えさせるように立ち回る。そうすればその混乱はゴーレムにも伝わって、限界がやってくるはず。



「All Range、Stone Storm」



砂嵐・砂塵嵐。塵や砂が強風によって巻き上げられ、空高く舞い上がる気象現象。砂漠地帯で起こるこれによって、最悪の場合は命を落とすこともありうる危険なもの。



だが今回巻き上げるのは砂ではなく、岩石。礫が風に乗って飛んで行く。



「チッ!」



砂煙によって奴らの姿は見えなくなる。だがそこで追撃の手を緩める気はない。跳び上がって次の一撃を用意する。



「Fire Bullet+Grand Mass、Superimpose! Raining、Stardust Impact!!」



赤と茶の魔法陣の二つで出来る、緋色の魔法陣。



炎をその身に纏った岩石が空から降り落ちてくる。隕石落とし、それがこの重統魔法の正体。



その一撃が、未だ砂煙の中にいる奴らの頭上から落ちて―――。

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