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俺たちは落ちこぼれ、でも二人でなら最高の魔法使い  作者: 広河恵/ぴろめぐ
第四章第五節:颯vsガロスヴォルド
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「試合開始!」



その言葉が響き渡るのと同時、大地が大きく揺れ動く。



「っ!?」



「なに!?」



立っていることさえもままならないその揺れに、俺もハルネも動揺を隠せない。



そして見えたのは、ガロスヴォルドの足元に広がる巨大な魔法陣。



「チッ!」



何とか体制を整えて瞬発風力で接近を試みる。奴に好き勝手させてはいけない―――。



「っ!」



感じたのは左からの寒気。ガロスヴォルドへの跳躍をとっさに右に方向転換する。



スパンッという音とともに、俺が進路転換を図ったすぐ前の地面に傷ができる。何かの魔術が作用した結果。もし気づかなかったらいきなりダメージを追っていた。



それは俺の行動を封じるための陽動であった。



「んなっ!」



フィールドを割いて、地の底から巨大な岩盤が空の向こうまで競り上がっていく。戦場を真っ二つに引き裂く巨大な岩盤。瞬発風力でも、弾地でも飛び越えることが難しい高度にまで達している。



そうしてようやく気付いた。



「……ハルネ?」



ハルネの姿が、岩盤のこちら側にないことに。さらに言えば、



「奴も……?」



ガロスヴォルドの姿も、岩盤の向こう側だということに。



「まさか……。ハルネ!!」



叫ぶが声は届かない。ハルネの声は聞こえない。



「やられた……!」



奴の作戦は、俺とハルネを引き剥がすことにあるのだと、瞬時に理解した。



(ハルネ!!)



交信魔法を使って、ハルネに呼びかける。



「くそッ!」



だが向こうからの反応はない。それどころか、そもそもこの交信がハルネに伝わったという感じもない。もしかしたらこの岩盤に何か細工を仕掛けているのかもしれない。



「だったらこんな岩盤」



重統魔法でぶっ壊してしまえば……。



「!!」



けれども、再び寒気を感じすぐにその場から離れる。その危険な予感は、再び地面に傷が入ったことによって証明される。



岩盤のこちら側に居るのは、俺とあともう一人。



「……信町剛也」



「向こう側に行きたいなら、俺を倒してから行けとでも言っておこうか」



そこにはガロスヴォルドのパートナーがいた。



信町剛也。見た目からいかにも不良野郎という印象を受ける人間。けれどもガロスヴォルドに敵うはずもなく、その命令に従うだけの存在。B組との戦いでも速攻でリタイアしていた。だから何一つこいつの存在を考慮していなかった。



そう、こいつが俺に対して攻撃を仕掛けてくるなんて事態は、完全に想定外。



「ガロスヴォルドにしか目が行ってないらしいが、俺のことは眼中にないってか?」



「うるせえよ、こちとらお前なんかに構ってる暇ねぇんだよ。とっととリタイアしてろよ」



「んだと?」



三度目の怖気。その場から離れると同時に何らかの魔術が行使される。



「……なるほど。俺とハルネを引き離すのがお前らの作戦か」



「引き剥がしてしまえばただの雑魚魔法使いの二人だと言っていた。テメェなんてガロスヴォルドが相手するに値しないとな」



「ハッ、お前みたいな雑魚に俺の相手が務まると思ってるなら、それこそバカの所業だって奴に言っておけよこの不良野郎」



口が悪いのは、ガロスヴォルドの策にまんまと引っかかって動揺と苛立ちを隠せなくなっているから。



「今からその雑魚にやられるんだよテメェは!!」



「悪いが瞬殺させてもらう!!」



俺にはこんなやつを相手にしている暇はないんだ。だから力推しで圧倒する。



容赦はない、即ち。



「Light Arrow×4、Double Superimpose。Raining、Wide-Area Carpet Shooting」



奴がどんな魔術を使っていようが、逃げ場など与えることのない一斉射。



「舐めるなよ! 穿て!」



たった一言。詠唱でもなければ鍵言でもないであろうその一言で、俺の矢が悉く真っ二つに断ち切られてしまう。



「なっ!?」



「ガロスヴォルドに貰った“裁断”。いい力だ」



そう言って見せてくる腕にあるのはブレスレットのようなもの。



「貰った……? どういうことだ?」



「これは奴の試作品。魔術を宿すことができる道具、これを保てばどんな人間でも強力な魔術を自由に扱うことができる、最高の品だ。この力でお前も叩き切ってやろう」



「そんな、紛い物の力!」



再び作り上げるのは二つの重統魔法。矢の雨が今度は一直線に奴だけを的確に狙った攻撃。



「無駄無駄ぁ!」



けれどもやはり、同じように一つ残らず切られてしまう。



「これで終わると思うなよ!」



「っ!!」



その悪意はこちらに向けられる。すぐに動いて攻撃を避ける。



(……指定した空間を斬り裂くという感じか?)



恐らくは視線の先に座標を選定できるというシステムか。けれどもそれならなぜ、俺の動きを予測して避ける先を指定してこない……?



「……まさか!」



「遅い!!」



全身に走る怖気。そしてそれは、360度全天周囲から―――。



「ッッッ!?」



逃げ場のない、全周からの切り裂き。実際に怪我はなくとも、斬られたという実感は残る。



全身にその感覚を受けて、地面に突っ伏す。



「誘導してやがったのか……」



「ざまぁないな洗馬颯。一時的な名声に溺れた報いだ」



「溺れた……? 俺が……?」



「そうだ、ガロスヴォルドは言っていたぜ。所詮は手に入れた力を見せびらかしたいだけの子供に過ぎないってな」



力を手に入れた。そしてその力に溺れた。確かにその指摘は正しい。そうして俺は一度倒れたのだから。だが、



「子供、子供ね……ふ、ふふ……ははははは……」



乾いた笑いが込みあがってくる。



「……何が可笑しい?」



信町の目元が鋭く変わる。こちらの笑いを、挑発とでもとらえたのだろう。



「だったらお前は俺よりも子供だな。それに……」



「あぁ……?」



「子供であることの、何がいけないんだ?」



力を使う術を手に入れても、なお子供であり続けたいと俺は思う。なぜならそうでなければ、重統魔法(重ね合わせ)は生み出せないのだから。



「とうとう頭までおかしく……」



信町はそう言いかけて、唐突な暗さに空を見上げる。



「なっ、なんだ……?」



「……Fall down & Fortification(落巌・築城)」



五角を中心に据えた茶色の魔法陣が二つ、重ね合わせることによって降り注ぐ巌が一分の隙間もなく組み合わさって積みあがる。



俺の四方を囲うように出来上がる石垣。



「何をした!?」



そんな声もだいぶん遠く聞こえるようになる。



「攻撃は最大の防御ね……」



言えて妙だと思う。



土属性魔法Grand Massを基にした重統魔法。岩石を降り積もらせて、堅塁を築城するこの魔法は本来敵の視界を塞いでその行動に制限をかけるというもの。だが今のように自身を囲んで防御とすることもできる、様々な用途に富んだ重統魔法と言える。



「そんな時間稼ぎで!」



しかして外からは岩石を削る音が聞こえてくる。確かに奴の言う通り、時間稼ぎにしかならないだろう。



だがその時間で、考えることはできる。



(奴が俺の動きを捉えられなかったのは、目で追いきれないからか魔術の発動が遅いからだろう……)



つまり瞬発風力を使いさえすれば俺を捉えられない。



そして、俺は裁断の発動位置を体感できる。らしい。



(もはや賭けだなこれは……)



だが、十分にする意味はある賭けだ。何の勝算もない賭けをする気はない。



(イメージしろ。さっきの戦い、この一か月の訓練を……)



そう、この一か月の間に俺はあいつの戦いを特等席で見続けたのだから。



「面倒な時間稼ぎをしやがって!!!」



石垣は崩れ去り、再び奴の姿が視界に入る。



「……あぁ、剣だ?」



奴の疑問を肯定するように、奴に対して切っ先を向ける。



「ハッ、何だよお前! さっきのエルとか何とか言う奴の真似でもする気か?」



「あぁ、そうさ」



「なに……?」



「ただ、直接指導を受けた剣だがっ!」



再び瞬発風力でフィールドを駆ける。ただ奴に向かって、一直線に。



「馬鹿か!」



左右への動きをつけなければ、当然奴にとって座標指定のしやすいことだろう。



(まずは左右……)



体感する寒気。それが裁断の発動場所を表している。だから、対処の方法も簡単。



右の奴は瞬発風力でよけながら、左からの攻撃は斬り捨てる。



「んなっ!?」



まさか自分の魔術の方が斬られるなんて思ってもみなかったのだろう。その焦りが手に取るようにわかる。



段々と雑になってゆく座標指定と発動。その全てを過たずに躱すか斬り捨てていく。



瞬発風力による速度での翻弄、かつ近衛騎士から教わった剣での対処。賭けの要素はあるが、それでも十二分に投じる価値のある賭け。



「このっ! こんのっ!!」



苛立ちと焦り。魔術が最も嫌うタイプの感情だ。それに呑まれ始めた奴が、俺のことを捉えることはあり得ない。



「なぜだ、なぜだ! なぜだぁ!!」



「自分で手に入れた力じゃなくて、誰かに貰ったなんて力が応えてくれるわけないだろ」



悩んで、苦しんで、また挑戦して。そんなプロセス一つ踏まずに楽して手に入れたものなんて、本物であるわけがない。



「もっと俺に力を寄こ……っっっ!?!?」



そんな時に、事態は一変した。



「な、なんだ……?」



こればかりは俺にもわからなかった。歩みを止めて、奴の動向に注目する。



「ガハッ!? カハッ!?!?」



裁断の発動。だがそれは俺に向けられ手のものではない。



それは、奴自身の身に降りかかっていた。



「なん、で……」



そんな断末魔を最後に、奴は倒れ込む。MRBフィールドの判定でも、奴はリタイア状態となる。



「なん、だったんだ……?」



呆気ない最後、というには些か疑問が多く残る決着であった。



力に溺れていたのはどちらだったのか。決して同情はしない。



そんなことを気にしている時間は、俺にはない。



「さて、この壁をぶっ壊すか……」



見上げるは高い高い壁。登ることができないなら、トンネルを開通させるほかない。手を挙げて、二つの魔法陣を作り上げる。



「One Point Double Shooting!」



二つの重統魔法の矢が、一点を目掛けて放たれる。轟音と共に砂煙が起こり、少しの間視界が悪くなる。



「……やっぱりか」



しかし巨大な壁は、ほんの少ししか削れていなかった。



「ただ地面から岩石を持ち上げただけのはずだが。流石に防御の術も付与してるか」



交信魔法を阻害を阻害する何かを付与しているのだ、多少の防御をかけているのは当然か。恐らくは土属性の防御障壁だろう。



ならば、属性相性で攻めればいい。



「Blow Wind+Blow Wind Superimpose。」



手に浮かべるは菱形を中心に据えた緑の魔法陣。同時に握りこぶしを作って、打ち込む構えを取る。



その立ち姿は、武並に直接指導を乞いたもの。



「Striking! Wind Spear Fist!!」



一撃を壁に打ち込む。さっきよりもはるかに手ごたえを感じる。



「もう一撃!!」



何度も何度も、連続で打ち込んでいく。ある種の土木作業に近い。



「これで!!」



壁の薄さが衝撃でわかる。この一撃で間違いなくトンネルは開通できる。



その予感は当たっていた。崩れた岩の向こうに日が差し込む。



「ハルネ!!」



すぐさまトンネルを抜けて、向こうに置いていってしまった人物の名前を叫ぶ。




「や、おかえり」



そこにいたのは、卑しい笑いをしたガロスヴォルドと。



「は……」











「ハルネっっっっっ!!!!!!!!」

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