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ガロスヴォルドたちの力

すみません、投稿ちょっと遅れました。

「「「「「……………………」」」」」



それを見た時、全員が言葉を失っていた。



B組から選出された5チーム。そのチームをたった一人で相手をして、かつ圧倒する戦い。



ガロスヴォルド・フォン・ヴァルモーデンさんとその仲間。実力は、本物。



「ガロスヴォルド一党にとっては、パートナーなんて制度はない様なものだね」



この沈黙の中で、贄川くんは淡々と説明を始める。



「……必要、無いんだろうな。二人を相手に圧倒できるんだから」



「その通り。そもそもガロスヴォルドたちはこのパートナー制度に対して批判的な立場にいるからね。そしてその制度を批判できうるだけの力を持っているんだから、当然と言えば当然だね」



自身の持つ力が絶対、その優劣によって全てが決すると考えている人たち。ガロスヴォルドさんたちの一党は、まさにその中核の一つ。


この世界を知らない人たちをわざわざこの場所に呼び込む必要はない、ましてやその面倒をなぜ強者が見なければならないのか。



そんな考えを持つ人たちにとっては、パートナー制度は疎ましいものでしかないのだろう。だから、B組との試合に出場したガロスヴォルドさんたちは、開幕パートナーをリザインさせるという行動に出たのだろう。



「今からその5人の話をしていくよ。まず一人目は、ジルケ・ド・セイファーティッツ。彼女の持つ魔術の名前は“Revenant”。日本語に翻訳すると“幻体”だ。実戦では、動画のように虚像を作り出して、その幻体が近接戦闘を仕掛けてくるんだ。倒しても倒しても復活する。その数に呑まれて、なす術なくやられたっていうのが一戦目」



倒しても倒しても復活してくる。そんな繰り返しをさせて、自身には一歩たりとも近づけさせない。そんな戦い方をするのがセイファーティッツさん。



「二人目はアンジェロ・ロッシ・フェネシュ。彼の力は、“Khimaira”。彼の家の表の顔は、善良な動物病院。だけど、その裏で動物の死体解剖や、実験を行なってる。実際に彼が使うのはその動物の死骸たちを改造した“キマイラ”。それを使役するっていうのが彼の持つ力」



「……生物たちと心を通わせながら力を借りるっていうのが、本来の使役魔術なんだ。でもこれは違う。血の通わない、意思すらも持っていない、既に命を全うしたはずの動物達を無理矢理……」



口調は優しくとも、表情は強張っている。木曽くんからしたら、認められない力なのだろう。



「三人目の名前は松川直也」



「日本人……?」



「そう、日本人。彼の家は昔からヴァルモーデン家と親交があったらしい。そして能力は”千本針”。針のような松の葉が無限に飛んでくる」



「洗馬の光の矢にそっくりじゃないか?」



「確かにその通り。颯ほどの柔軟性はないけど、颯と似たようなことはできる。最も颯と違うのは、その魔術で人を針の筵にして楽しんでるっていう感じだけど」



「性格悪いね、ほんと」



「全くだ。戦いの時も自分はほぼ傍観して相手が苦しんでるのを笑ってるだけだもんな」



他の人たちもそれに同意していく。確かにあの人たちの性格は、あまりいいとは言えない。



「それにしても、なんだかこいつらの魔術って、何かしらを操る力だっていうのが多いな」



「その通り。支配するってことは、彼らにとっては自分の思い通りに操るということなのかもしれない。……いいや、むしろ操っているものに戦わせて、自分は後方で安穏としている。そういうことなんだろうな。セイファーティッツ・フェネシュ・松川と、最後に説明するヴァルモーデンは確かに何かしらのを操っている。そういう意味で言えば、今から説明する四人目の人物はちょっとイレギュラーかもしれないね」



四人目の人物。ガロスヴォルドさんたち以外で、私が昔から知っている人物。そして……。



「四人目はアウグスタ・マリー・フォン・ヴァルモーデン」



「ヴァルモーデン?」



「彼女は……分かりにくいから名前で呼ぶけど、ガロスヴォルドの親戚って間柄なんだ。分家っていえばわかりやすいかな」



「なるほど」



「アウグスタの持つ魔術は“Inferno”。地獄の炎とでも呼べばいいかな。でもその名の取り火属性魔術に関して、僕らの世代では彼女が最高レベルだって言われてる。真紅の炎の操り手がアウグスタだ。そして……」



「エルが一度負けた相手……」



贄川くんからの視線に、続きを答える。



「は?」

「えっ?」

「うそっ!?」



驚きの目線が一人に集中する。



「……事実、です」



表情や声は一切変わっていない。でもその手や腕には強い力が籠っている。



「……三年前に一度だけ、模擬戦として一度彼女たちは対戦している。その結果は、今言った通り」



既に調べがついている贄川くんが、私たちの代わりに事実を述べる。



「でもエルさんの使う魔術は水属性。属性相性的に有利になるもんじゃないの?」



「魔力の扱いだったり、使用する魔術によってはそうもいかなくなるんだ。エルさんよりもアウグスタのほうが単純に魔力量は上で、破壊力も違う。だから勝てなかったんだ」



「……私の魔術が飲み込まれた時のことは、今でもよく覚えています。あの時以上の恐怖はありません。……ですが、次は負けません。そのために力を磨いてきたのですから」



エルの眼はいつになく真剣。



あの時のエルのことは、私もよく覚えている。あんなに悔しそうな顔をしていたエルは初めてだった。



「そしてその元締め、首魁。ガロスヴォルド・フォン・ヴァルモーデン。今回の試合まで、彼はすべての試合を防御だけで制していた。僕らの代で一番の魔力量を誇る彼だ。その莫大な魔力量で、ただひたすらに防御に徹して相手の魔力切れを待つ。その戦い方は、ハルネさんを真似てのものだ」



「……………………」



何も言えない。あの人がそんな戦い方をしていたのは、……私のため。



「公になっている戦いのすべてがそれしかないから、僕も分からなかった。あんな切り札を隠し持っているなんてね……」



「アレの詳細は?」



「……分からない。彼の家の魔術を頑張って遡ってみたんだけど、一切探れなかった。何一つの痕跡もね。徹底した情報隠蔽がなされてるみたいだ。分かるのは、火属性に対する圧倒的な防御力って点だけだね」



確かに平沢さんの攻撃は、一切あのゴーレムには効いていなかった。火属性に対する某業は完璧に等しい。



「そして一番の問題点は、あのゴーレムの身体は魔術で作られていないという点にある」



「どういうことだ?」



「忘れたのかい? MRBフィールド内では魔術で人を傷つけることはできないんだ」



「……確かに」



「あのゴーレムの身体は、地中から彫り上げた岩石や砂で形成されているんだ。つまり魔術によって錬成された者じゃない。だからあのゴーレムは、平沢さんのことを傷つけることができた。その結果が……」



あの動画のあと。平沢さんは颯のいた病院に搬送されて、治療を受けている。命に別状はないけれど、まだ目覚めてはいない。



「普通こんなことがあれば、クラス対抗戦なんて中止になるはずなんだろうけど……」



「結論から言えば、中止にはならないそうだ」



贄川くんの視線の先、日出先生がその続きを話し始める。



後日開かれた会議で、当然日出先生は中止を主張した。でも、



「それをシュリンムライトの奴が……」



この人が他の先生のことを呼び捨てにするなんて初めて聞いた。内心ものすごく怒っているのだろう。



「『会場を壊したことについては彼に責任があるから厳重注意をする。だが、平沢悠花を傷つけたことについては咎めることはできない。むしろ魔術で錬成したもの以外ではこういう結果をもたらしかねないということに気が付かなかった、このフィールドを作り上げた者たちに責任があるのではないか』と言い放ちやがった」



MRBフィールドの抜け穴とでも言うべき事態。それを作り上げた人たちにも責任の一端があるというシュリンムライト先生の言い分には一理ある。



「それにこうも言われたよ。『そもそもA組だって、相手の意識を刈り取るような危険な魔術を使っている。自分たちのことを棚に上げて、こちらの非だけを責め立てるのはいかがなものかと』な」



「「「……………………」」」



神領さん、土岐さん、釜戸くんが俯く。それが自分たちのこと指摘しているのだと、分かっているから。



「お前たちに責任はない。……むしろ、MRBフィールドを開発した一人の、私の方が責任が大きい」



「先生が、あれを……?」



「私と、あと複数人でな。……だから二重の意味で、私は言い返せなかった」



拳を握り締める日出先生。一番責任を感じているからこそ……。



「それに、何故か今回の試合に関しては中止にするなという、魔法・魔術統治省からの圧力がかかってきているんだ」



「圧力、ですか?」



「理由はその場では説明されなかったよ。命令に従えとの一点張りさ」



こちらに関しては、呆れて何も言えないという態度の日出先生。でも同時に、何かしらの不信感も抱いている様子。



「今まで説明した五人以外にもガロスヴォルド一党はいるけれど、特にこの五人が厄介だね。と、言うわけで、僕らはこのD組と戦わなければいけないんだ」



「こんな奴らを、相手にするのか……?」



「……気持ちは僕も同じだよ。で、どうするかなんだけど……」



贄川くんの視線は、私の隣にいる人物に向く。B組を完封し、C組に対して逆転勝利をするに至らしめる作戦を組み上げた、私たちのブレーンにして切り札。でも……。


「颯……?」



平沢さんがあんな目にあって以降、颯は誰とも会話をしなくなった。常に険しい顔をして、ずっと何かを考え込んでいる。



そう、まるで初めて会った時の颯のような状態に戻ってしまっていた。



「……………………」



そんな颯は無言で立ち上がって、そのまま教室を去って行ってしまう。



「ハルネ、今すぐ颯を追いかけろ」



「えっ?」



「今のあいつは何をしでかすかわからん。必ず目を離すな。必ずそばにいるんだ。……分かったか?」



「……! はい!」



日出先生だって、颯のことが心配に決まっている。そもそも颯だってまだ昏睡状態から回復したばかりだというのに、戻ってきてすぐにこんなことが起こってしまったのだから。颯の精神状態は決していいとは言えない。でも日出先生は今、颯だけを見ていられる状態じゃない。



だから日出先生は、私に託そうとしている。颯のことを、今一番近くで見ていられるのは私なのだから。



「お嬢様、お供します」



「わ、私も!」



後ろからエルと福島さんもついてくる。



「行きましょう」



そのまま三人で、颯のことを追いかけた。

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