孤独な王様は裸になったら孤独じゃなくなる
ヘルザースとルブブシュが大慌てで太極魔導学校にやって来る。
そりゃそうだよな。
さっきから、校長が俺の前で土下座しっぱなしなんですけど?
どうにもこうにも不動の土下座なんですが、どうすれば良いの?
校長室に案内されて、その後はずっと「申し訳ございません。」しか言ってこない。
俺が「いいから、黙ってここに来た俺が悪いんだから、ね?普通にして、ほら、このソファー、座り心地良いじゃない?ね?ここに座んなさいよ?」って言ったら、土下座したまんまズリズリとソファーに這い上がって、「申し訳ございません。」と言いながら土下座のまんまだよ。なんで、こんなに器用なことができるんだよ?なにか?土下座の道場とかあって、この人は土下座の黒帯か?
「いや、別に校長先生は悪いことしてないんだから、そんなに謝ることないじゃない?な?」
「大変!大変に!申し訳ございません!」
なんだ?校長って馬鹿でもなれるのか?
「だ~か~ら~。もう、謝んなくってもいいって。」
「死刑にだけは、何卒!死刑はご勘弁を!!」
なんで、何をもって、校長先生を死刑になんてするんだよ?一応、この国は法治国家だぞ?どんな罪状で死刑にするんだよ?土下座敢行罪か?校長先生存在の罪か?
「なんで、俺が校長先生を死刑にするんだよ?校長先生、何か悪いことした?」
俺の言葉を聞いたカルザンが割って入る。
「校長先生は、不敬罪で死刑になることを恐れていらっしゃるんですよ。」
「はあ?不敬罪って?ええ?校長先生、何も不敬なことしてないじゃないか。」
「いや、でも、‘新神記’には、何でもかんでも不敬罪に該当して、死刑にするって記述されてるじゃないですか。」
なんだ、その暴虐狂暴理不尽な記述は。
「トンナ王妃が、陛下のお名前を呼んだアヌヤ王妃とヒャクヤ王妃を死刑にしかけたり、あの、ズヌーク閣下の奥様、カナデ様でしたっけ?そのカナデ様を半殺しにしたりとか、色々書いてあるじゃないですか。」
この時の俺の顔は結構、歪んでいたと思う。
新神記とは、この神州トガナキノ国を創るに至った経緯を俺の物語としてまとめたものだ。
編冊にはローデルが、監修はトンナ、執筆は祐筆だが、口述はトンナ、アヌヤ、ヒャクヤそしてコルナだった。
確かにカナデは八穢の物の怪だったから酷い目に合わされてたけどさあ、やったのは全部トンナ達だからね?
この新神記、俺は読んでいない。恥ずかしいだろ?自分の自叙伝って。普通、刊行されないよな?
でも、今のカルザンの話で中身は大体わかった。
俺の犯罪記録大全だ。
きっと、あいつらは、あったことを極端に誇張して祐筆に書かせてる。宿場町を消したことも、ローデルの役所を破壊したことも、ヘルザース達の足を動かなくしたことも、カルザンを脅したり、カルザン帝国から金を借りたことも、ぜ~んぶ犯罪に仕立ててるはずだ。
いや、事実だよ?事実なんだけどね?書き方ってのがあるでしょう?
逸話風に書いてくれれば良いよ。でも絶対そんなことしないから。
もう、俺は校長を説得するのを諦めた。
諦めたから、ソファーに踏ん反り返って、ヘルザースの到着を待つことにした。そして、ヘルザース達が到着する。
突然ドアが開いて、「陛下!何をしでかしたのですか?!!」と怒鳴りやがった。
見ろよ。不敬罪の塊が来たぞ?
「しでかしたも何も、トドネに俺だってバレちまったんだよ。ただ、それだけだ。」
ヘルザースがキョトンとドアの前で首を傾げる。
「では、何故この御仁は陛下に対して土下座をしているのです?」
ルブブシュがヘルザースの後ろから問い掛ける。
「さあ。よく、わかんねえんだけど。なんだか、不敬罪で死刑になりたくないらしいぞ。」
「なんと!そこの者が陛下に不敬罪を働きおったのですか?!」
俺は顔の前で手を振る。
「ヘルザースに比べたら、不敬罪なんて、これっぽっちもしてねえよ。」
「なんと!私が陛下に対して不敬ですと?日頃、私が陛下に小言を申し立てるのは、この国!ひいては陛下の御ためと思ってのことでございますぞ!それを何ですか!不敬とは!忠臣ヘルザース!この身、この魂の全てを陛下!神州トガナキノ国のために仕えておるのですぞ!つい先程までもこのルブブシュと共に陛下の勅命を果たすべく!議論を交わしておったというのに!!ええいっ!!今の一言、聞き捨てなりません!!」
「ああ。もう、悪かったよ。今のは、俺が悪かった。な。校長、今のヘルザースの態度でわかったろう?校長先生は全然、不敬なことなんてしてないよ?だから、ほら、普通に座って。」
ヘルザース効果のお陰か、校長が恐る恐るといった体で顔を上げる。
「大丈夫でございますよ。陛下は人死にを極端に嫌うお方です。何かあったとしても足の一、二本で済みますです。」
「ひいいいいいいいいいい。」
ルブブシュの余計な一言で、再び校長が顔を伏せる。
俺は思わず額に手をやり、大きな溜息を漏らしてしまった。その溜息を聞いて、再び、校長が「ひいいいいい。」と叫ぶ。
ダメだ。もう、俺が何を言っても、校長の恐慌状態は治まらない。
「ヘルザース。後は任せる。」
俺がそう言って、力なく立ち上がると「ひいいいい。」と叫ぶ。もう、眩暈がしてきたよ。
「カルザン、とにかく、ここから離れよう。」
「そうですね。その方が良いでしょう。」
俺とカルザンは、ヘルザースとルブブシュに後を任せて、「ひいいいい。」という叫び声を聞きながら校長室を出た。
校長室を出て、再び大きな溜息が漏れる。
「俺って、そんなに悪逆非道な王様に仕立てられてるの?」
「新神記の事ですか?」
カルザンの返答に、俺は、首が折れたように頷く。
「そ、そうですね。かなり、恐ろしい存在として描かれてますね…」
凹むなぁ。
ラーメン屋ではダメ親爺みたいに言われて、学校では恐ろしい魔王みたいに扱われて、俺って国民からどう思われてるんだろ…
『国民は正確にイメージできてるだろ?』
なんで?俺ってそんなに酷いか?
『働かないって布告したし、この国を創るまでは犯罪塗れじゃないか。』
オブラート!
『あ?』
今の俺には、オブラートが必要!!
『包んでも、苦いものは苦いがな。』
それでも!今の俺にはオブラートが必要なの!
「陛下。大丈夫ですよ。陛下は人気があります。」
カルザンが俺を慰めてくれるが、焼け石に水だ。
「そんな訳ねぇよ。俺はもっと愛される陛下になりたかったんだよぉ。愛って大事だよな?大事だろ?俺が王様なんて間違ってるんだよぉ。ヘルザースとか、ズヌークみたいに政治ができる訳でもないのに王様なんかになっちゃってさぁ。ホント、カルザン、お前は凄いよ。尊敬するよ。あんな小っちゃい頃から皇帝なんだもんな。スゲエよ。」
「まったく。何を言ってるんですか。」
項垂れる俺の肩をカルザンが叩く。
「国民は恐れてるかもしれないし、陛下のことを馬鹿にしてるかもしれませんが、陛下の人となりをよく知っている者達は、皆、陛下を愛してますよ。私だって、陛下がいてくださったから、こうして皇帝の玉座に座っていられるんですから。それに…」
俺の肩から手を離して、カルザンが笑う。
「貴方のことを国王だと知らない人々は、皆、貴方のことを好きみたいじゃないですか。」
「誰が?」
「串カツ屋の店主に野菜売りの二人、居酒屋の女性にラーメン屋の店員さん、それに服屋の雇われ店長さんですよ。」
「それって、喜んでいいことなのか?」
「勿論です。陛下はテレビにも出ていない。だから、誰も陛下のことを知らない。つまり、皆、噂でしか陛下のことを知らないんです。でも、貴方のことを陛下だと知らずに接している人々はサラシナ・トガリ・ヤートという人間そのものが好きなんですよ。それって、好かれている国王よりも凄いことだと思います。」
校舎を出て、二人でグラウンドを歩く。
校舎からざわめきが聞こえて、振り返るが、人影は見えない。俺が振り返ったと同時に全員、窓の陰に隠れてしまう。
「上から見下ろすのは不敬にあたりますからね。皆、隠れてしまうのですよ。」
「でも、ちょっと寂しいな…」
「私も陛下も同じ立ち位置に居ます。でも、孤独ではありません。」
カルザンの言葉に俺は頷く。
「うん。孤独じゃないな。」
その言葉を最後に俺達は校門に向かって歩き出す。二、三歩、踏み出したところで後ろから声が聞こえる。
俺を呼ぶ声。聞き慣れた舌っ足らずな発音だ。
振り返って確認する。
「トガ兄イイちゃあああん!」
トドネが走って、俺達に向かって来る。
勢いを殺すことなく、俺の胸にトドネが飛び込んで来る。
顔を上げると同時にニパッと音がするような笑顔。
「凄かったのでしゅ!あの魔法!しゃしゅがわトガ兄ちゃんなのでしゅ!」
「トドネ…」
「あたしはあんまり魔法が上手くないのでしゅ!でも、トガ兄ちゃんが凄い魔法を見しぇてくれたので、嬉しかったのでしゅ!」
「そうか、トドネは魔法が苦手か?」
「はい!!」
元気一杯に苦手だと答えるトドネに影は無い。なんだか、その顔に慰められる自分がいる。
「じゃあ、今度、魔法を教えてやろうか?」
「それは要らないのでしゅ!」
ハッキリ言うなぁ。
「あたしには、しょっちの才能は無いのでしゅ。」
トドネが腕を組んで難しい顔で首を捻る。
「だから、しょっちは、もういいのでしゅ!ほっておくことにしたのでしゅ!」
組んでいた両手を空に向かって広げて、大きく笑う。
「そ、そうか。」
「でも、別のお願いがあるのでしゅ!」
トドネが俺に向かって両手を合わせる。
「お、俺にか?」
「はい!」
良い笑顔で応えるトドネは、後日、国王の執務室で会ってくれと俺に告げ、良い笑顔のまま何度も振り向きながら校舎に戻って行った。
「可愛い従妹さんですね。」
「ああ。ホントの妹みたいだよ。」
最後にトドネに慰められて、少し軽くなった肩を揺する。
まったく、俺の周りには優しい奴ばかりだ。
そう思うと、服屋の店長、クノリとも一度ぐらいデートしてやるか、と、思わぬ考えが過ったりしたのは、トンナ達には内緒だ。
『いいじゃん。一回やっとこうよ。』
うん。クシナハラ。お前は黙っとこうか?
騒がしい奴らを頭の中に、俺はカルザンと二人で安寧城へと帰って行った。
やっと、あらすじに書いていた少女が登場しました。本日の投稿はここまでとさせていただきます。お読み頂きありがとうございました。




