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月トガリ  作者: 吉四六
53/54

馬鹿な国民には馬鹿な王様がピッタリだそうです

 国家元首不在の期間が長いってのは問題なので、選挙はテレビ放送から三日後に行われた。

 対立候補が現れなかったので、実質、信任投票になった。結果は信任されて、三人は目出度く復職。そりゃそうだ。

 絶大な力を持ったヒーローが美味しい所を持って行くより、普通の人間が必死に頑張ってる姿に人々は感動するのだ。

 視聴率九十パーセント越えのテレビ番組で、そんな姿を放送して、俺は徹底的に最低のヒーローを演じたのだ。

 ちょっと泣きそうだったけど。

 生意気で、人が頑張ってる姿を見て馬鹿にする。そして、美味しい所を横から掻っ攫う最低のヒーローだ。

 うん。ホントに泣きそう。

 そして、その最低のヒーローが、頑張った三人に責任を押し付け、罷免するんだから、国民が判官贔屓で信任するわな。

 まあ、三人とも、能力、人柄は適任だから信任されて当然なんだけどね。

 で、初代国王にして、既に史上最低最後の王の呼び声高い俺は街をブラブラとほっつき歩いていた。

 やっと静かになった訳だ。

 もう、満喫。

 意地でもこの退屈な日常を満喫してやる。

『カルザン達のことは良いのか?』

 いいよ。ほっときゃ。ヘルザース達が上手くやるだろうよ。とにかく、カルザン達のために国体母艦を建造するまではこの日常を満喫するんだからな。

『満喫できるかなぁ。』

 できるよ。できない理由がねえだろ?

『そうだ!この日常を満喫しながら特訓しよう!』

 何言ってんだよ?タナハラの脳筋、なんとかしてくれ。

『アヌヤ達との旅行はどうするのさ?』

 …嫌なことを思い出させるなよ。

『街の子たちを誘ってエッチしようヨ。』

 クシナハラ、他に話題がねぇの…か…

『どうした?』

 …

『?』

 うん。そうしよう。

『なに?』

『え?』

『はあ?!』

『ええ?』

『マジで?』

 ああ、マジで街の女の子たちを誘おう。誘ってデートしよう。

『いいね。いいね。じゃあ、あの子!あの子はどう?良いじゃない、あの子の足!』

 俺はクシナハラの言葉を無視してクノリの店に入る。

『…』

 クノリの経営する店は俺の店だ。

 利益は全部クノリに放り投げている。カナデラの創作意欲から来るフラストレーション解消のために開店したアパレル店だ。

 客の姿は見当たらない。人気のある店にしては珍しい。だから、クノリはすぐに俺を見つけた。

「あら、クズデラさん。」

 クノリが小走りに駆け寄ってくる。

「客がいねえな?」

 俺は店内を見回しながらクノリに問い掛ける。

「ええ。今日はね。明日っから最新作の棚卸だから、皆、それを知ってるのよ。」

 成程、明日に備えて買い控えか。なら丁度いい。

「クノリ、丁度良かった。店閉めて、デートに行こうぜ。」

「え?」

 クノリが驚く。

「なんだよ。嫌なのか?」

 クノリが少し俯く。

「昼間よりも夜のデートの方が…」

 いきなり何言ってんスか、この姉ちゃん。

「嫌ならいいよ。じゃあ、帰る。」

 踵を返した俺の腕をクノリが力強く抱きとめる。

「行くわよ!行くに決まってるじゃない!」

 俺はクノリの顔を見降ろしクスリと笑った。


 俺達は散歩がてら市場を通って、各店を冷かして回っていた。そこで、俺に声が掛かる。

「クズデラさん。お店に来てくれるって約束がまだですよぅ。」

 肉屋の前で後ろから声を掛けられた。

 振り返ると、俺の企業の系列店、居酒屋で働く黒人の姉ちゃんだった。残念ながら名前は憶えていない。うん。トォルーポ王国出身ってことしか覚えてない。スマン。

 振り返った途端に黒人の姉ちゃんが空いてるもう片方の腕に抱き付いてくる。

「な!?」

 クノリが素っ頓狂な声を上げる。うん。ホントに素っ頓狂だったから。

「クズデラさん、あたし、この間のクルタス事件で危なかったんですよう。死んだかと思ったんですよう。」

 クノリを無視して話し出す。ツエエなこの姉ちゃんも。

「だからぁ、こんな私を慰めるためにも、ちょっとウチの店で飲んで行ってくださいよぅ。」

「ちょっと!クズデラさんは、あたしとデート中なの!邪魔しないでよ!」

「あらあ?なんだか騒がしいわぁ。クズデラさん。あたしと差しつ差されつ静かに一杯、なんて、良いと思いません?」

「だから!あんたの出る幕は無いの!クズデラさんはあたしとデート中なんですから!」

 煩い。

 やっと静かな日常が戻って来たと思っていたのに煩い。

「よし!じゃあ、三人でデートしよう。」

「えっ?!」

「ええっ?!」

 二人とも気は合いそうじゃないか。声を上げたの同時だったよ?

「いいじゃないか?三人で。」

「そんな!あたしは念願のデートなんですよ?このまま夜まで雪崩れ込もうと思ってたのに!」

 何を公衆の面前で言っとるんじゃ。この姉ちゃんも馬鹿になってるの?

「そんなこと仰らないで、あたしと二人っきりで一杯やりましょうよぅ。」

 しつこいな。

「いいや。三人で楽しくなるか、三人とも楽しくならないかのどっちかだ。ちなみに今日は、偶々、デートしても良いかな?って気分だったからデートしてるけど、次はいつになるか、わからねえからな。そのつもりで考えろよ。」

 クノリがブー垂れた表情を隠さないまま「わかりましたよ。」と応える。

 黒人の姉ちゃんは諦め顔で「しょうがないですねぇ。」と応えた。

 俺は溜息を吐いて、二人の肩を抱き寄せる。

「な?両手に花で俺は役得。俺が喜べば、次もあるかもしれねえだろ?」

 クノリが力なく笑う。

「そうですね。あたしは長期戦のつもりですから、諦めずに頑張ります。」

「仕方ないですねぇ。近々、店の方に来てくださいよぅ。」

 俺は頷く。

「で、名前、教えてくれる?」

 黒人の姉ちゃんが、ちょっと怒った顔で「お、オルフォルって言うんですよ。ちゃんと、シッカリと!その脳味噌に刻んで下さいヨ!!」と最後は怒鳴り気味だったので、悪いことしたかな、と、思ってオデコに「ごめん、ごめん」と言いながらキスしてやったら、頬を赤らめ「ま、まあ、良いですけどね。」と機嫌を直していたので良しとしよう。

 そしたら、クノリが怒り出したので、クノリの額にもキスしてやる。

 うん。役得役得。

「ああああああああああああ~!!」

 女の子の絶叫が聞こえる。

 声のする方を見てみると野菜売りの屋台だった。

 売り子の女の子がこっちを指差しながら震えてる。

 あれ?え~と、なんて名前だったっけ?

「てぃ、ティーナ!!」

 そうだ。ティーナだ。そうだ。ティーナちゃんだったよ。

 スゲエなオルフォル。前に聞いて、名前、憶えてたんだ。

 そのティーナが勢いよく野菜の商品棚を跳び越えようとして、足を引っかけて転ぶ。商品棚の野菜がゴロゴロと転がり、もう一人の売り子の男の子が「ああ!何してるんだよ!」と叫ぶ。

 そんな男の子の声を無視して、ティーナが商品棚から跳び下り、転がった野菜に足を取られて後ろ向きに転ぶ。

 あ~あ。パンツ見えてるぞ。

 転んで、すぐさま起き上がり、こっちに向かって走り出す。今度は何もない所で躓いて転ぶ。

 あれ?どんくさい?それとも足に機能障害を抱えてる?どっち?

 俺は二人から離れて、ティーナに近付き「大丈夫か?」と声を掛けたらティーナはバネ仕掛けのように上体を起こし、「デート!!」と叫ぶので、俺は思わず「はい。」と応えてしまった。

 だって、可愛い顔してんのに鼻血を流しながら言うんだもん。

 で、結局、四人でデートってことになった。

 …デートって言うのか?これ。

 なんか、ただのチャラい野郎じゃねえのか?これって?

「それにしてもさ、新商品の告知って大変じゃない?」

「そうなのよぅ。ウチも新しい料理を出すんだけどね、それが、新規のお客さんに繋がらないのよぅ。」

「そうなんです。新しい野菜を作っても、結局、通りがかった新規のお客さんには、直接、声を掛けるしか方法がないんですよね。だから、声が割れちゃって、全然、女の子っぽい声に戻らないんですよ。」

「ホント、あんたの場合は、可愛いだけに悲惨よね。」

「やだ~可愛いだなんて、美人のお姉さんにホントのこと言われると、照れちゃいます~」

 うん。違った。

 チャラい野郎って言うよりも女子会に無理矢理連れ出された世話係兼財布だ。

「大体、広告の禁止ってのがおかしいのよ。新商品を売りたいのにビラを撒いちゃいけない、ポスターを張っちゃいけないって、どうなのよ?」

「そうなんだよねぇ。ウチも新しい料理を皆に喧伝したいんだけどさぁ。お酒を売るところは余計に規制が厳しいんだよねぇ。」

「らしいですよね。お酒を置いてるところは呼び込みも駄目なんですよね?」

「そうなのさ。じゃあ、一体どうやって新規のお客さんを増やせってんだよ。お上も酷な規制をするよぅ。」

 あれ?お前、俺に一杯やってけって、腕、ひっぱってたじゃん。

『ただ酒は商売に該当しないだろ。』

 あ、そういうことね。手慣れてるから、いつもやってるのかと思った。

『やってたら違反だな。』

「でも、ヘルザース閣下が当選したからさ。ちょっと宣伝できるようになるかもしれないよ。」

「そうなったら楽になるんですけど。ヘルザースさんも結構固いって聞きますよ?」

「そうなのかい?でも、女にはだらしなさそうだけどねぇ。」

 ヘルザースが言われるのは良い。俺の気分も良くなる。

「女癖が悪いって言ったら最低王ね。」

 うぐっ。

「ああ、確かにねぇ。あの最低王は、流石のあたしもゴメンこうむりたいねぇ。」

 帰るぞ、ゴルァ。

「ねえ、ちょっと考えられないですよね。奥さん全部が獣人でしょ?獣人の夜の営みって凄いって言うじゃないですか。」

 人を性獣か精獣みたいに言うな。

『俺、性獣。』

 お前は黙ってろよ。もう。

「ところでクズデラさん。あたし達はどこに向かってるんですか?」

 うっく。この展開でクズデラって呼ばれると屑って呼ばれてるようでキツイな。

「そこだよ。」

 俺は、一軒の店を指差す。

「え?ここ?」

「はあ、初めてのデートなのに此処なんですかぁ?」

「ここだったら、ウチの酒家の方が良いと思うんだけどねぇ。」

 いや、もう、面倒くせぇから、今日でいっぺんに済ましちまおう。と、いうことで俺が食事をするのに選んだ店は俺のお気に入り、‘店外孤独’だ。

 ここの関西弁金髪姉ちゃんも俺のことを揶揄ってた口だからな。ここなら、全員鉢合わせで、いっぺんに済む。

『初デートでラーメンって、流石に引かれるよ?』

 引かれる結構。ドン引きしてくれれば、なお結構。

「しょうがないか。惚れた弱味だ。黙ってラーメンにしよう。」

「そうですね。惚れた弱味ですからね。」

「そうだねぇ。惚れてるからしょうがないねぇ。次に期待できるから、最初はこんなところから始めるのも悪くないさね。」

 めげねぇエエエエエエエエ。なんで、この世界の女達はこんなに一途で強いんだ?

「いらっしゃい!」

「毎度!」

「まっ!…まい、どぉぉぉぉぉ…」

 ダイジョブか?語尾が凄い小さくなってったけど。

 金髪美人のブローニュがあからさまにショボーンだ。本気だったのか?この姉ちゃんも物好きだな。

 客の入りはそこそこ。飯時を避けたのが良かったみたいだ。空いてる四人掛けのテーブル席に座る。

 俺の隣の席を取り合って、三人がジャンケンを始める。こういうところは純真なんだよな。

 意外だったのは居酒屋の姉ちゃんオルフォルが指を組んだ手を捻って、できた隙間を覗き込んでるので吃驚した。クノリは手の甲の皮膚を押し上げ、片目で皺を見極めてる。

 真剣な表情で子供みたいなことをしてるので笑いそうになるが、笑ったら怒られそうなので我慢した。

 大人二人が子供みたいなことをしてるのに一番年下だと思われるティーナが訝し気に二人の行動を見てるのがなんだかシュールだ。

「最初はグー!!」

 おお、でっけえ声だな。

「ジャンケンポンッ!!」

 ほら、店内の視線を一身に集めてるからやめろよ。マジで恥ずかしいから。

「うふふ。やっぱりクズデラさんに誘われたのは、あたしだから、当然の結果よね。」

 クノリが笑いながら俺の隣に座る。次点はティーナだった。

「次は私が隣ですからね!クズデラさん、忘れないでくださいね!」

「うん。シッカリ憶えた。」

 うん。憶えとくけど、次があるかは保証しない。

 ブローニュがショボーンと水を運んでくる。

「…まいど…どうぞ…」

「お、おう。」

「じゃあ、いつもので…」

「…」

「あの、…」

「…エゲツないわ…クズデラさん…」

「え?」

「この人らは、この間みたいな男の人とちゃうやんな。」

「う、うん。みんな、女、女性だけど。」

「三人て…ほな、あたしは四人目?四人目になったらエエの?」

 肩を落としてショボーンだけど、言ってる内容はかなりしぶとい。

「いや、四人目もなにも、こいつら彼女じゃないから。」

「えっ!!」

ブローニュの目が輝きを取り戻す。

「は?!」

「ああ?!」

「ええ?!」

 他の三人は凄い形相で睨んでくる。

「いや、だって、デートしろってクノリが言うからデートしてるだけで、彼女とかそんな関係じゃないだろ?」

 俺の言葉に三人が絶句する。

「考えてもみろよ。三人と同時デートだぞ?こん中の一人が彼女だったら、そんなことするか?する訳ねぇだろ?」

「だって、クズデラさんだから。きっと、他にも彼女がいると思って。」

 うん。彼女はいないが妻はいます。

「そうです!クズデラさんのことだから他にも女の一人や二人や…三人から五人ぐらいは…流石に二桁は無いですよね?」

 ティーナの中じゃ、俺、性獣認定されてるのね。

「そうですよぅ。クズデラさんのことだから他に女がいることなんて承知の上ですよぅ。問題はその中で自分が何番目なのかってことなんですから。」

 一夫多妻制の恐怖。

 現代日本では考えられない思考回路。壊れてない?その回路。

 こんな考え方ならしぶとくもなるわ。吃驚だよ。たしかにトンナ達もそうだった。俺が他所に女を作ってもなんとも思わない節はあった。あったけど、俺が馴染まねぇ。馴染まねぇわ、そういう考え方。

「せやけど、三人とも彼女とちゃうんやったら、あたしも希望が出てきたわ。クズデラさんの一番になって、一番星になる!」

 野球漫画にあったな。なんとかの星ってのが。なんか、俺の周りの女でまともなのってカルザンだけじゃね?

『カルザンは男だろうが。』

 そうだった。

 やっぱり、この世界は間違ってるぞ?

『なんで疑問形?』

 いや、俺が間違ってるような気がしてきたから。

『男も女も食い散らかそうよ。』

 クシナハラ、段々、下品になってるぞ。クズナハラって呼ぶぞ?

『一番強い奴を彼女にしろよ!』

 タナハラは訳わからんこと言うな。

『とにかく、ラーメン頼もうよ。』

 そうだ。そうしよう。

 と、いうことで、元気を取り戻したブローニュにラーメンを注文する。

 逆に三人のテンションはダダ下がりだ。ダダ下がりの割に三人とも大盛りを注文してるところが、なんだかよくわからん。やっぱ、女って謎だわ。

 テーブルに全員のラーメンが並び、ブローニュがそのまま居座る。

 お~い!店長!堂々と営業時間にサボってる店員がいますよ~

「せやけどクズデラさんて、やっぱモテんにゃなぁ。」

 俺は麺をズゾゾゾゾゾゾオオオオっと啜りながら、「モテねえよ。揶揄(からか)いやすいだけだ。」と応える。

「そんなことないわよ。あたしは、家族丸ごと助けてもらったし。」

 と、クノリがハフハフしながら話し出す。

「ホントに、あの時のことを思い出したら今でも涙が出そうになるわよ?」

 そう言ってホントにちょっと涙ぐむ。

「あら、それだったら、あたしもそうですよぅ。あたしも家族ごと、この新神浄土に連れて来て貰ったんですからねぇ。」

 オルフォルが遠い目をして話す。

「もう、あの時は酷かったんですよぅ。仲間内で死んだ人間をってゴメンなさい。食事中だったねぇ。」

「本当ですよ。あの時の事は思い出したくもないです。あたしは村ごと助けてもらいましたから。村代表としてクズデラさんの彼女にならないと。」

 ティーナの理屈はよくわからん。

「へえ。皆、クズデラさんに助けてもろてんにゃ。へえ~」

 ブローニュが俺の方をチラリと見る。

「クズデラさんてどんな仕事してるん?話聞いてると、あっちこっち行ってるみたいやけど、なんのお仕事なん?」

「ゴフッ!」

「キタな!!」

「やだ!」

「あらあら。」

「あ~あ。」

「エウッフ!ゴフッ!ゴフッ!」

 な、突然、何を聞いてきやがるんだコイツは。

 全員が俺に注目する。

「な、内緒だよ。個人情報に関わるからな。オメエらには絶対言わねえ。」

「えええ~。」

 全員がブー垂れる。

 テレビから聞きなれない電子メロディーが流れる。

「なんだ?」

「なんか緊急速報みたいやね。」

 俺達だけじゃない、店内の人間全員がテレビに注目する。

「ヘルザースの緊急会見?なんじゃそりゃ。」

 テロップを見て、なんでも良いやと俺はラーメンへと向き直る。それでも耳は自然とテレビの音声を拾う。

「番組の途中ではありますが、ヘルザース行政院第一席から、緊急のお知らせがあるとのことで、番組を中断してヘルザース行政院第一席の緊急会見をお送りいたします。」

 アナウンサーみたいな奴が出て来て喋っているが関係ない。このモヤシのシャキシャキ感がまた堪らんのだよ。

「行政院第一席のローエル・ヘルザースです。本日は国民の皆さまにお願いしたいことがあって緊急会見を開きました。」

 おうおう。えらく腰が低いじゃないの?俺に対する時とは、まったくの別人ですな。俺以外の店内の人間は、全員、テレビに釘付けだ。

「この度、憲法を改正いたしたく、皆さまにお願いいたします。」

 はあ?憲法改正だと?そんなの無理に決まってるじゃねえか。俺が改正した時に、憲法の改正にあっては国民の三分の二以上の賛成がなくっちゃいけないってことにしたんだぞ。

 カルザン帝国にハルディレン王国、インディガンヌ王国の吸収もあって全部で八百万人以上の賛成が必要なのに、そんなことできる訳ねぇじゃねえか。

 と、いうことで、俺はテレビのヘルザースを無視してラーメンに舌鼓を打つ。

「改正内容は王族の復活。神州トガナキノ国を国王制とし、サラシナ・トガリ・ヤートに復帰して頂きたいと考えております。」

「ブオッホッ!!」

「ヤダッ!」

「キタなっ!」

「ウアッ!」

「ちょっとおお!!」

「ゲフンッ!!ゲフンッ!!オぅガッ!!」

 鼻から麺が出たわ!何をぬかしとるんじゃ!あいつは!

「私の話を聞かれた皆さまは、私がおかしくなったのではないかとお思いでしょう。」

 その通りだよ。誰がこんな最低王をもう一度、国王にしたいって考えるんだよ。馬鹿じゃねえの?

「そりゃそうやわ。あんな最低の王様、かなんわ。」

 ウグッ。他人に言われると堪えるな。かなり効く。

「ホントね。あんな王様、国外的には国辱もんなのにねぇ。」

 オウッ。くるね。結構、くるね。

「そうね。ヘルザース閣下たちが元首になってホッとしたのに。あの最低王が帰ってくるなんて身の毛もよだつわ。」

 グッ。もう俺のヒットポイントは、ほぼほぼゼロだよ。

「最低王は最低王。最低王を国家元首になんて考えられないですよね。あんなのを国家元首にするぐらいなら畑のカボチャを王様として崇めます。」

 カ、カボチャ以下…

「しかし、皆さん、考えて頂きたいのです。思い出していただきたいのです。初代国王にして史上最低と言わしめた国王の力を。」

 おい。

「新神記に記されたサラシナ・トガリ・ヤートとは、恐るべき力を有した個人であるということを。」

 おい、おい。

「たった一人で数十頭の龍を薙ぎ倒し、魔人を屈服させ、魔獣災害から民を救い、疫病災害では死者を復活させ、あまつさえ、一国をただ一人で平らげる力を有した恐るべき個人なのです。」

 お~い、ヘルザース。何を言うつもりだ?

「この恐るべき個人が、国王という枷を外され、自分の、己の欲望の赴くままに野に解き放たれた事実を。」

 店内の全員が唖然とした顔でテレビに見入っている。

「我々にはサラシナ・トガリ・ヤートに抗する術がありません。この国体母艦を始めとして、竜騎士、酒呑童子、八咫烏。全てサラシナ・トガリ・ヤート個人の力によって創造された物です。考えて頂きたい。サラシナ・トガリ・ヤートを味方として、王として足枷を付けるか、野に放ったままサラシナ・トガリ・ヤートの恐怖に慄くのか。それを皆さまに決めて頂きたい。」

 ヘルザースが座ったままお辞儀する。

「以上でヘルザース行政院第一席からの会見は終了いたします。」

 アナウンサーの言葉でテレビが元の番組を放送し始める。

 店内はシーンだ。

 麺を啜る音が消え去った。テレビからの音声だけが虚しく聞こえる。

「ほんまや。あたしら、あの史上最低王が王様やったさかい気付かんかったけど、今度はあの最低王に襲われるかもしれへんにゃ。」

 ブローニュ?そんなことしないよ?

「あり得るわね。あのヘルザース閣下を、頑張って暗黒精霊に逆らってたヘルザース閣下をせせら笑ってたんだから。」

 クノリ?そんなことするのはヘルザースにだけだよ?

「本当です。史上最低王はどこまで行っても最低なんですから。きっと、新神記に書いてあったこと以上に悪辣なことをするんですよ。そうだわ。きっと、自分のしたい放題にするために国王から退位したんですよ。」

 ティーナちゃん?確かにしたい放題したいからですけど、趣旨が全然違うからね?

「もしかしたら、すぐにでも襲ってくるかも。」

 オルフォル?今、君の目の前で麺を啜ってますけど?襲うように見える?

「選挙ね。」

「国民選挙だわ。」

「史上最低の最低王だけど。この国を守るためだもの我慢しなきゃ。」

「絶対に最低王を国王にしなあかんわ。」

 なんなの~もう~ヤダ~この国の国民んん~全員馬鹿なのオオオ?馬鹿ばっかりだよおおお~

次話、極端に短いですが最終回です。

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