最低王たる者、魔獣狩りに勤しむべし!
最終回となります。お読み頂きありがとうございました。
『最低王に、俺はなる!!』
ならねえよ。
なる訳ねぇだろ?
誰がそんな称号を欲しがるんだよ。欲しいって奴、連れて来いよ。
俺はなりたくねえんだよ。なりたくねえのに早かった。
うん。早かったんだよ。
国民選挙だというのに信じられない迅速さだった。
ヘルザースの野郎、きっと事前準備をしてやがったに違いない。自分の対立候補が出てこなかった時点で画策してやがったに違いない。
クソッ!ホントに、もっと酷い目に合えばいいのに!
で、今、目の前にはヘルザース、ズヌーク、ローデルの三人が座ってる。
場所は無縫庵のリビング。
司法院のローデルが武装解除命令とそれに伴う捜索令状を発行して勝手にズカズカと上がり込んできやがった。
捜索令状だけなら突っぱねることができるのだが、武装解除命令は査察権を持っているため突っぱねることができない。建物所有者がいようといまいと関係なしに入って来れるのだ。
三人が三人ともニコニコしてやがる。腹立つなぁ。もう。
「捜索しねえのかよ?」
「王にお戻りいただけるならば捜索は致しません。」
「戻らねえから捜索しろよ。」
「お戻りいただけるので捜索いたしません。」
「戻らねえよ。」
「いえ、お戻りいただけます。」
「絶対に戻らねぇ。」
「ふふ。」
ヘルザースが意味深に笑う。
「私には娘がおりましてな。」
ジロリとヘルザースを睨む。
「それがどうした。」
ヘルザースが首を振りながら「いえ、いえ、ただの世間話でございます。」と笑う。
「その娘というのが我儘でしてな。」
「俺をその娘と同じだって言いたいのか?」
再びヘルザースが首を振り「いえ、いえ、滅相もございません。ただ、娘には公務に勤しめと言っておるのですが、民間で働くと言って聞きませんで、ほとほと困っておるのです。」と、言って、また笑う。
「良いじゃねえか。娘のやりたいようにさせてやれよ。」
ヘルザースが首肯する。
「ええ。今となっては民間で働いていてくれて良かったと思っております。」
「そうか、じゃあ、良かったじゃねえか。」
「はい。我儘なくせに妙に親孝行なところがありましてな。妻に似て、美人の金髪なのです。」
「ほう。そりゃ、行く末が楽しみだな。」
「ええ。胸も大きく、陛下が好みそうな女子に育っております。」
「けっ。間違ってもお前の娘にゃ手を出さねえよ。」
「しかし娘の方はトガリ陛下のことをよく知っておりましてな。」
「はあ?」
「幼き頃に一度だけ、陛下のお姿を拝見する機会に恵まれましてな。」
「へえ。俺は憶えてないけど。」
ヘルザースが頷き話を続ける。
「それ以来、陛下のことを話してくれとせがまれ、陛下のことを話して育てたせいですかな。陛下の嫁になるのだと、カンサーベ、ヤート語の古い言語ですかな?そのカンサーベなるものをヤートの家庭教師から習っておりました。」
背筋に冷たいものが走る。
カンサーベとはヤートの古い言葉として位置付けられている関西弁のことだ。
「娘の申すことによれば、珍しいヤートの古語を話す金髪の白人女性ならば、きっとトガリ陛下の目に留まると。まあ、そう申しておりまして、必死になって勉強しておりました。」
関西弁の白人金髪美人で胸大盛り。
一人知ってる。
てか、一人しかいねえだろ、そんな奴。
俺の喉が音を立てる。
「その娘が申しておったのです。陛下らしき人物が足しげく通うラーメン屋で働くから、公務には就かないと。」
待て。待て待て待て。それ以上言うな!
「その娘がこの間、申したのです。トガリ陛下が三人の女性とデートしているのではないかと。」
「なんですってエエエエエ!!」
「なにゅッ!」
「んにゃッ!」
「ほほう。」
話を聞いていたトンナ達が、俺の後ろで一斉に立ち上がる。吃驚したア。
心臓に悪いよ。
「ヘルザース!その女どもをすぐに此処に連れておいで!トガリの女に相応しいかどうか!このトンナが確かめてやる!!」
ヘルザースが笑う。
「いえいえ。噂でございます。あくまでも噂にすぎません。で、本日は陛下にその噂は真実なのかどうかをお伺いしたいと思っておったのですよ。」
「トガリ!ホントなの?!」
「ホントだったらその女どもと勝負してやんよ!」
「そうなの!獣人の仕来りに則って力を示させるの!」
「仕方あるまいな。旦那様の嫁は獣人ばかりだから、こればかりはなんともしようがない。」
クノリたちが殺される。
もう、卒倒しそうだよ。
勘弁してくれよ。
どうして俺の周りには、こうもおかしな女しかいないんだ?まともなのはカルザンだけだよ。
『カルザンは男だぞ。』
わかってるよ。わかってるけど、脳裏に浮かぶんだよ。あいつがキャッキャッウフフと笑ってる、あいつの姿がよオオ。
『重症だな。』
『だね。』
『流石に可哀想になってきた。』
『じゃあ、ヘルザースをブッ飛ばすか?』
『カルザンともやっとこうよ?良いもんだよ。男の子も。』
お前は黙ってろよ…頭の中がグチャグチャな時にもう。
ヘルザースが前のめりになる。
「さて、陛下、如何なのですか?噂の真実は。」
「はっはははは。そんなモン噂だ。俺がこいつら以外に女を作る訳ねぇだろうが。俺の体がもたんわ。」
俺が力なく応えるとヘルザースが元通りに座り直し、トンナ達の方を振り仰ぐ。
「だ、そうでございます。やはり、ただの噂だったようですな。」
トンナ達が「なんだああ。」とか「つまんないんよ。」とか言いながら座る。
ヘルザースが俺の顔を見ながらニッコリと笑う。
「国民選挙の結果、国民一千二百三十五万人の内、一千二百三十三万人がトガリ陛下の復帰を願っておるのです。国王に復帰して頂けますな?」
俺は力なく頷き「…あい。」と返事した。
土煙を舞い上げ、魔獣の群れが荒野を疾走している。
アギラ以外で群れを形成する魔獣は始めて見る。
数が多い。
十二頭だ。
体格は魔獣としては小さめだが、それでも尻尾を含めれば、全長三メートルはある。
「陛下!どうしますか?!真直ぐこちらに向かってきますよ!」
カルザンが両手剣を携え、叫ぶ。
俺は上を見上げる。
龍がいる。
三頭の翼竜だ。
俺が提案したサバイバル教練。そのサバイバル教練にカルザンを始めとした元王族と側近が参加している。
神州トガナキノ国に吸収されたカルザン帝国、ハルディレン王国、インディガンヌ王国の三国は行政院の指示に従い、教育内容とその方法がトガナキノ国と統一された。
その教育内容の中でも過酷と考察されるサバイバル教練は、酒呑童子等のトガナキノ国個人兵装や魔道具の類を一切使用してはいけない。
食料、寝場所と全て自分で用意し、薬は言うに及ばず、水一滴さえも配給されない。
朝、登校すると、突然バス型のエアロカーに乗せられ、大自然の中に放り出されるのだ。
うん。俺の想像してたのとちょっと違う。
現代日本のテレビの企画物みたい。「採ったど~!」と叫べばいいの?
装備品は簡易錬成器のみという、錬成器使用の熟練度がないと、お前を待ち構えているのは死のみDETHと宣告されているようなもんだ。
これを一週間か~性格って言うか人格が変わるな、三日ぐらいにしとくか?
で、この過酷なサバイバル教練を、まずは、元王族が受けなさいということになったのだ。
王族と言う立場にあった連中は偉そうだ。
まずは、その鼻っ柱を叩き折ろうということで、王族オンリーで受けてもらうことになったのだが。
そのサポート役として俺に依頼が来た。
俺は国王に復帰したが、国王としての仕事はしていない。と、言うか、国王としての仕事がない。完全に国の象徴として、時折、各国との会食に参加したり、条約の承認をしたりと大したことをしていない。
それで、魔狩りとしての依頼をこなしていたのだが、ヘルザースが、いっそのこと魔狩り組合を起ち上げてはどうかと言ってきたのだ。
連邦を解体したため俺が自由に他国に出入りできなくなったため、各国に魔狩り組合を作って自由に出入りできるようにしては如何かとの提案であった。
「そうだな。各国の許可を魔狩り組合として事前に取付けておいて、依頼が来ればその国に自由に出入りできるようになれば魔獣を討伐できるな。」
と応えて、魔狩り組合を起ち上げたのだ。
パーティーは好きなように組めばいいし、装備品は申請すればトガナキノ国の厳しい審査の上で貸与される。
組合長の名義は俺で、実質のマネージメントはスーガが行っている。
このスーガが「初の依頼です。」と、言って持って来たのが、このサバイバル教練のサポート依頼だった訳だ。
で、「陛下は第一級どころか超特級の魔狩りですからな。他のパーティーメンバーは必要ないでしょう。装備品もご自分でお作りになられますからな。このまま、カルザン様たちと一緒に現地に向かってください。」と言われて放り出された。
俺、国王で組合長。
うん。スーガに顎でこき使われてる感が半端ないんだけど、気のせいかなあ?
で、一日目で見たことのない魔獣の群れと龍が三頭空を飛んでる状況な訳よ。
もうカルザン達はアワアワ言ってる。
ハルディレンは必死で穴を掘ろうとしてるし、サラディーンは胡坐を組んで「ここまでか…」と諦めの境地。
元カルザン帝国の王宮魔法使いのアンダルは魔法陣を描くのに必死だし、元摂政のルドフィッシュはおしっこチビッてる。
他の奴らも似たり寄ったりで、元王妃と姫たちは俺の周りに集まって拝んでる。
「と、トガリ陛下!!どうしたらいいんです?!」
こちらに向かって来る魔獣の群れを見詰める。
『始めて見るタイプだな。』
初見か。生態がわかんねえから、何してくるかわからんな。
『イデアからの返信が来たよ』
おう。
『名前はグーシャ。一角の先に毒液の分泌腺があって、跳躍力に秀でてるって。集音機能で周囲三百六十度に死角がないってことだよ。』
確かにあの一角は特徴的だな。
インパラのような体躯に太目で長い尻尾。頭部には前に突き出された一本の角が生えている。
上顎から捻じれた牙が上を向いて飛び出しており、集団戦に対応できるよう死角を失くしている。
イズモリ、タナハラ。分体操作を頼む。
『任せとけ!』
『了解した。』
お前らは上だ。俺は一旦、グーシャの方を纏めて始末する。龍は逃がすなよ。龍を食うのは久しぶりだからな!
『わかっている。』
『おう!!』
俺は空中に分体を再構築、イズモリとタナハラの二人にその分体を任せて、走り出す。
「カルザン!ここから動くな!!」
一歩目から最高速度で走り出す。魔獣の起こす土煙に負けず劣らずの煙が俺の後ろで発生し、通常、人間では考えられないスピードでカルザンの横を走り抜ける。
荒野の乏しい草を跳ね上げながら、俺はジグザグに疾走する。
土煙がその軌跡を描く。
距離にして三百メートル。その距離を数秒で詰める。
群れの直前で左にカーブを描いてグーシャの足を止める。
一瞬、戸惑ったかに見えた魔獣がすぐにその群れの形を変える。数頭のグーシャを盾にして、その後方から俺の進行方向に合わせて二頭のグーシャが跳ぶ。
盾になったグーシャの陰から飛来する魔獣の角が真直ぐに俺を狙う。高速で走りながら、足をクロスさせて。体を回転させながら二頭の角の間をすり抜ける。
角が地面を抉り、転倒するが、直ぐに起き上がって俺を追撃しようと跳ね飛んだ。
俺が回転した隙にグーシャが正面に回り込む。
グーシャの股下をすり抜け、後ろ脚に手刀を打ち込む。
バランスを崩すが転倒しない。
チッ!結構な強度を持ってやがる。
地面を滑走しながら起き上がり、次のグーシャを飛んで躱す。
跳ね飛んできていた二頭のグーシャに蹴りを打ち込み、片目を潰すが、怯んだ様子は見られない。
やっぱり耳か。
この魔獣にとっては、目は飾りのようなものかもしれない。
着地と同時に低い姿勢で走る。
群れの中心に到達。
両腕を広げる。
「喰らえ!!」
柏手を打つ。
空気の振動をマイクロマシンで増幅、伝播させる。
俺を中心に土煙の波紋が幾重にも広がり、その波紋に触れたグーシャが呻き声を上げて首を振る。
傍にいたグーシャ三頭を一気に屠る。
「ていっ!!」
カルビン化した拳と腕の骨。その拳を一本拳に握って額を打ち抜く。
真直ぐに衝撃を受けたグーシャは肛門から血煙を噴き出し、その場に絶命する。
拳を引きながら肘を別のグーシャに打ち込む。
顎を砕かれ、顔を一回転させて、頸骨内の神経が千切れ、その場に頽れる。
肘を打ち出すために捻った体をそのまま左蹴りに乗せる。
俺の蹴りを受けたグーシャの顔が歪み目の玉を飛び出させて、隣のグーシャへと倒れ掛かる。
本能が働いたのか、戦うことしか知らない筈のグーシャが逃げようとして他のグーシャにぶつかり混乱を起こす。
その混乱に乗じて、俺は次々とグーシャを屠っていった。
十三頭のグーシャの死骸の中心で俺は空を見上げる。
イズモリとタナハラに任せた分体が最後の龍を撃ち落としたところだった。
俺が付いて来たのは失敗だったんじゃねえか?
よく考えてみれば、俺は六十四万人分の量子情報体を常に身に纏っている。魔獣は人を殺すために人の多い所に出現する。
俺と一緒にいると、それだけ魔獣に襲われる可能性が高くなる。
「陛下アアア!!」
カルザンを先頭に元王族連中が走って来る。
空を見上げる。
青い空だ。
突き抜けるような青だ。
気持ちの良い風が荒野を渡る。
俺の長い髪が棚引いて、日差しを一瞬遮る。
「トガリ陛下!凄いですね!あんなにいた魔獣を一掃ですよ!うん。正に一掃です!」
カルザンが興奮しながら、俺にキラキラとした目を向ける。
俺は大きく笑う。
「ああ。俺は魔狩りだからな。」
了
最後までお読み頂きありがとうございました。前作に比べてかなり短いお話となってしまいましたが、今作はスピンオフとして構想しておりましたのでこんな物かと思います。
で、ブックマークの登録数ゼロ、感想ゼロ、評価ポイントゼロにもかかわらず、次回作を考えております。作者はマゾなのか?放置プレイが好きなのか?
次作は本作中でトガリに完全に忘れられている禿げ頭の奴隷商人が再登場する予定です。ラーメン屋の金髪関西弁胸大盛り美人とカルザンも引っ張り込んでの魔獣狩り珍遊記を考えております。投稿した折はお読み頂けると嬉しいです。ありがとうございました。
って、この作品、誰も読んでねえのに誰に向かって書いてんだ?




