再起動
『配置に着きました。』
通信機からギュスターの報せがくる。
早い。
俺はサラディーンの寝室を護る衛士五人を昏倒させたところだ。
意識を阻害し、その場に横たえさせただけだ。
無造作にサラディーンの寝室のドアを蹴破る。
ドアの破壊音がサラディーンの意識を一気に覚醒させる。
「な!何事かッ!」
天蓋付きのベッド。紗のカーテン越しにサラディーンが起き上がっているのが見える。
本日寵愛の后は第四王妃だ。隣室から衛士達が飛び出して来る。
ウーサ大陸の国々と違い、鎌のような剣、ショテルを構えている。胸当てと兜だけの簡素な鎧だが、煌びやかに装飾が施されている。
紗のカーテンを開き、サラディーンが顔を覗かせ、その顔を驚愕に染める。
「と、トガリ陛下…?!」
「よう。サラディーン、貴様、クルタスって男を知ってるな?」
わざと野卑な口調でサラディーンに問い掛ける。
「クルタス…」
「そのクルタスが、俺の王妃。トンナを攫った。」
「な、なんと!!」
衛士達が俺とサラディーンの間に立ちはだかる。
アヌヤとヒャクヤが前に出る。
可愛い女の子二人に気圧されて、衛士達の剣先がぶれる。同時に二人が動く。
「父ちゃんに刃を向けるたぁ!!いい度胸してんよ!!」
「パパに剣を向けたら天罰なの!!」
アヌヤが剣先を摘まんで捻ると、柄を握っていた衛士の体が宙を舞い、受け身を取る間も与えられず脳天から床に叩き落とされる。
ヒャクヤが剣を避けるようにして体を捻り、その爪先を衛士の喉仏に食い込ませ、後ろの衛士ごと吹き飛ばす。
「おお!!」
「王を護れ!!」
十数人の衛士が一斉に動き出すが、そのスピードは二人の足元にも及ばない。
アヌヤが掌底で剣の腹を叩き、その軌道を反らしながら衛士の急所を肘で打ち抜き、ヒャクヤは剣を躱しながら体を縦回転させて踵で衛士の脳天を打ち抜く。
二人は軸足を動かすことなく、つまり、移動することなく、その場に留まったまま十数人の衛士を全て叩きのめした。
「サラディーン。クルタスとつるんだ貴様が許せねえ。正式に神州トガナキノ国はインディガンヌ王国に対して宣戦布告するぜ。」
俺の言葉にサラディーンは言葉もないのか口を開けて呆けている。
第四王妃はサラディーンに縋って震えてる。
俺は通信機を使ってギュスターに「開始しろ。」と、命令する。
遠くから物の壊れる音と人々の叫び声が聞こえ始める。
「な、何をしおった!!」
「宣戦布告したんだ。この王宮の占拠に決まってるだろうが。」
「なっ!」
サラディーンがやっとベッドから下りる。
「き、貴様!当初からそのつもりだったのか!最初からこの国を奪うつもりでインフラ援助などと申しておったのか!!」
俺はサラディーンを見下ろす。
「聞いてなかったのか?俺はクルタスとつるんでる貴様が許せねえって言ったんだ。クルタスとつるんでる貴様の身から出た錆だ。」
「くっ!き、貴様…」
サラディーンの項にヒャクヤの踵が叩き落される。
「ぐあっ!!」
その一撃でサラディーンは意識を失った。
ベッドで震える第四王妃に俺は近付く。
年の頃は二十代前半、黒髪の美人だ。で、既にクシナハラのお手付きだったりする。
「先日は俺の腕の中で気持ち良かったろ?」
俺の言葉に第四王妃が安堵の表情を見せる。
「わ、妾は、其方の仰ることに従いまする。この身も心も差し出します故、何卒、お命だけは許してたも。」
俺は口角を軽く上げて、悪い笑顔を作る。
その笑顔を見て、再び第四王妃の顔が青褪める。
「身を差し出しても心までは差し出さない。お前の中にはクルタスがいるからな。」
「えっ?」
第四王妃に俺の言葉は理解できない。俺は第四王妃の首を両手で軽く挟み込み、頸動脈の血流を止めて意識を昏倒させた。
さて、事後処理は、あのオッサンどもに任せるか。
俺は耳のイヤホン型通信機を押さえて、イデアを呼び出す。
『はい。』
「東側城壁に隣接してるスデルートン・スラムに俺が保護してる洗脳された奴隷達がいる。」
『はい。回収いたします。』
「おう。保護してる建物周囲には認識阻害用のマイクロマシンが散布してあるからアクセスワードとパスワードを送る。ズヌークに回収させろ。あと、王都民の避難はヘルザースにやらせろ。ジンライとデンコウの運用許可を与える。」
『了解いたしました。第一航空母艦と第二航空母艦を向かわせます。』
俺はアヌヤとヒャクヤの方を振り返る。
「アヌヤ、ヒャクヤ。」
「あいよ。」
「はいなの。」
アヌヤはサラディーンに馬乗りになって、サラディーンを後ろ手に縛っていた。ヒャクヤは倒れた兵士達を縛ってる。
「後は頼んだぞ。」
「わかってんよ。精々気を付けて行って来るんよ。」
「そうなの。なるべく早く帰って来るの。」
二人の言葉に俺は笑顔になる。
普通に出勤するみたいだな。
『ホントだねぇ。』
『大したもんだ!』
『行く前に二人と一発やっとかない?』
クシナハラ、インディカンヌ王族相手にさんざんやったろう?いい加減にしろよ?
『そうだね。時間ないもんな。』
そう。時間がない。
『日食まで、あと五十八時間ちょっとだねぇ。』
俺は二人の顔を少し見詰め、「じゃあ、行って来る。」と、笑って瞬間移動した。
トドネが薄っすらと瞼を開ける。
「どうだい?」
女の声にトドネが首を傾ける。
「どうだい?目が覚めたかい?」
トドネの視界にトネリが入る。
「義母さん…」
ぼやけていた焦点がしっかりとピントの合ったものに変わり、トドネが口を開く。
「トガ兄ちゃんは?」
トネリが肩を落として、溜息を吐く。顔に浮かぶのは安堵の表情だ。
「トガリは出て行ったよ。」
「何処に?」
「さあ。あの子は何処に行くのか何も言わないからね。」
「そう…」
トドネが首を動かし、再び天井へと視線を向ける。そして、ゆっくりと目を閉じ、目を見開く。
体を起こして、「行かなきゃダメなのです。」と呟く。
「だ、大丈夫なのかい?」
トドネが力強く頷く。
「うん。その為にトガ兄ちゃんに精霊の目を貰ったんだもの。行かなきゃダメなのです。」
「目が覚めたな?」
トドネが声のする方に視線を向ける。
ドアの前にコルナが立っていた。
「丁度良かった。今、ハルディレン王国からの船が帰って来たところだ。ハルタたちが乗ってる。空港に行って、お前が復帰することを直接伝えよう。」
「ハルタ局長がですか?」
トドネがベッドから立ち上がり、獣人拘束用スーツの上から魔導服を再構築し、私服を重ね着する。
「と、トドネ、大丈夫なのかい?」
トネリの声にトドネが振り返る。
「うん。大丈夫。とにかく、仕事に復帰するのです。」
トドネの言葉にコルナが口角を薄く上げる。
「じゃあ、行こうか。」




