マジで後先のことなんか考えてやらねぇ!!
「あれ?父ちゃん?」
「うにゃ?パパなの?」
深更の中、目覚めたアヌヤとヒャクヤに相対する。
「一目でよくわかるな。」
四つん這いになったアヌヤが尻を持ち上げ伸びをする。
「クシナハラとは雰囲気が違うんよ。」
同じく四つん這いのヒャクヤが顎を上に向けて伸びをする。
「そうなの。なんか違うの。」
キャットノイドだけあって二人とも猫のような仕草で目を覚ます。
二人にあてがわれた寝室で俺はベッド横のテーブルセットに座る。籐で編まれた椅子が軋んだ音を立てる。
「二人ともこっちに来てくれ。」
「どうしたんよ。トンナ姉さんと一緒じゃないんかよ?」
アヌヤが俺の左ひざに座り、首に抱き付きながらキスをしてくる。
「そうなの。トンナ姉さんと一緒じゃないとトンナ姉さんに怒られるの。」
ヒャクヤは右ひざに座って、アヌヤと同じようにキスをしてくる。
二人が両サイドから首筋にキスをしてくる。
「いや。真面目な話があるんだ。向こうに座って聞いてくれ。」
「どうしたんよ?」
「そうなの。話ならこのままでも聞けるの。」
二人が膝から下りようとしない。
「わかったよ。」
俺は二人の背中に手を回し、落ちないように支えながら話を始める。
「トンナが攫われた。攫った奴がトンナに使徒の契約をしたんだ。」
俺の言葉に二人の表情が不穏な物を滲ませる。
「ふうん。」
「そう。」
二人とも目を閉じる。眉尻が持ち上がり、薄く目を開く。
うん。殺す気満々の目だ。
「トンナ姉さんを攫った奴の名前はわかってるんかよ?」
「ああ。クルタスって奴だ。」
「そいつの所在はわかってるの?」
「いや。これから探す。」
「パパが探すってことは、目星はついてるってことなんよ。」
「ああ。三十か所ぐらいあるがな。」
「今日中には探せるの。」
「ああ。今日中には見つけるつもりだ。」
アヌヤとヒャクヤが同時に牙を剥く。
「…絶対に殺すんよ。達磨にしてやるんよ。」
「…ケツの穴から串刺しにしてやるの。」
こ、怖えな。思わずケツの穴がキュッとなっちまったぜ。
「い、いや、お前らは、このまま国に帰って欲しいんだがな。」
二人に睨まれる。
「ああっ?!」
「なにふざけたこと言ってるの!!」
「いや、国には子供たちがいるだろ。一応、対策はしといたけど、やっぱ、不安だからさぁ。」
俺の言葉に二人が口をへの字に曲げる。
「対策ってどうやったんよ?」
俺は子供たちを指輪に封印し、イデアに預けたことを説明する。
「だから、お前達は国に戻って、国の守りを固めて欲しいんだよ。多分、奴は俺とまともに戦おうとはしないからさ。」
「ふうううん。」
アヌヤが、俺の膝の上で体をクルリと回す。揃えていた膝を割って、俺の膝を挟み込み、そのまま俺の胸に凭れ掛かって、俺の肩に頭を預ける。
ヒャクヤも俺の胸に凭れ掛かって肘を俺の肩にのせ、頭を預けてくる。
「父ちゃん。」
「パパ。」
二人が同時に話し出す。
「死んでも、そいつの首を持って帰って来るんよ。」
「絶対、死んじゃ駄目なの。絶対に帰って来るの。」
二人が同時に真逆のことを言う。どうしろってんだよ?
「うん?」
「なにゅ?」
アヌヤとヒャクヤが互いの顔を見合わせる。そうだよな。言ってることが違うもんな。
「死んでもいいって言う覚悟でクルタスって奴を殺すんよ。」
アヌヤが俺にじゃなくヒャクヤに言う。
「死んじゃ駄目なの!逃げてもいいからちゃんと帰って来るの!」
ヒャクヤがアヌヤに言う。
「ヒャクヤは相変わらず甘いんよ!」
「アヌヤはずううううううっと前からオタンコ馬鹿チンなの!」
俺の膝上で二人が喧嘩を始める。もう、勘弁してくれよ。
「わかった!わかったから!!」
俺は二人を抱きながら、二人の諍いを止める。
「俺は死なずに帰ってくる!それから!必ず奴をとッ捕まえる!そして…」
俺は二人を見詰める。
「必ず、絶対にトンナを取り返す。」
ヒャクヤが俺に静かにキスをする。
「なら安心なの。」
アヌヤが俺に獰猛なキスをする。
「任せたんよ。国と子供はあたしがキッチリと守るんよ。」
この二人も、やっぱりトンナことは心配しないのな。信頼されてるって、結構、プレッシャーきっついわぁ。
俺は二人を抱き上げ、床に立たせる。
「さあ、それじゃあ時間がない。インディガンヌ王国の件はさっさと済ましちまうか。」
そう言って、俺は二人を従え、寝室を出る。二人の服装を戦闘用の服へと再構築し、この国との戦争を開始する。
さあ、まずは宣戦布告だ。
「ギュスター!!スーガ!!」
インディガンヌ王国の王宮廊下にて、俺は二人を大声で呼ぶ。
マイクロマシンで空気を遮断した空間を作ってあるので、俺の大声はギュスター達、トガナキノの執政官にしか届かない。
すぐに二人が大慌てで廊下へと飛び出してくる。
「へ、陛下?!な、何事です?!」
ギュスターが驚きながら上着を着る。
「おう!戦の用意をしろ!」
「は?」
二人が同時に疑問の声を上げる。
俺は首を鳴らして、肩の筋肉を伸ばしながら、二人の服装を戦闘用の服装へと再構築する。
「インディガンヌ王国を侵略する。」
「はあああっ?」
「鈍いんよ。こいつら。」
「さっさと準備するの!キビキビ動くの!!」
「は、はい!!」
ヒャクヤの剣幕に驚き、スーガが大声を上げながら廊下を走る。
「起床!!起床!!レベル四の兵装にて廊下に集合せよ!」
俺の前に残ったギュスターが俺の前に跪く。
「陛下。その御神意をお教えいただきたく存じます。」
ギュスターの言葉に俺は頷く。
「俺のトンナが攫われた。攫った奴とこの国の国王はグルだ。」
ギュスターが顔を上げる。眦が吊り上がり、覚悟を決めた顔を見せる。
「承知いたしましたアアアアアアアッ!!」
ギュスターの大声に廊下に出てきた執政官達が肩を竦ませる。
「我に従いし精霊よ!コウセル・ギュスターの名の下に命ず!!難敵討ち滅ぼす霊槍なりて!この地にある者、討ち滅ぼさん!」
ギュスターの両手に霊槍が再構築される。
霊子結晶を芯にしたカルビンの槍だ。穂先はP型マイクロマシンとF型マイクロマシンでできている。この世界で言うオリハルコンだ。
槍の口金には幽子を収束させる機能があり、収束した幽子に加速するという指向性を与え、穂先に刻まれた樋から加速した霊子そのものを撃ち出すことができる。神州トガナキノ国軍の個人標準装備だ。
後ろを振り返って、石突を床に突き。石造りの床に皹を走らせる。戦闘服に身を包んだ執政官達にギュスターが咆哮を上げる。
「聞け!!トンナ陛下が攫われた!攫った者とこの国の国王はグルだ!!」
執政官達の表情が一変する。全員が口々に呪言を詠唱し、それぞれの手に霊槍を再構築させる。
「我が国の王妃を攫うなどとは言語道断!万死に値する!!インディガンヌ王国に連なる者共の一切を捕らえ!身の程を弁えさせる必要がある!!」
「応!!」
僅か百八十三人の手勢、その中には子供のような容姿の者もいる。しかし、そんなことは感じさせない気力と迫力がある。
「インディガンヌ王宮を制圧する!!」
「応!!」
俺が前に出る。
「スーガは他の執政官達の元に向かったな?」
俺の問い掛けにギュスターが「はっ。席次下士の執政官は離宮を当てがわれております故。」と答える。
「各執政官に伝達する。」
俺の言葉に全員が跪く。
「この場にいる執政官が‘長’及び‘副長’となり、隊を五名で編成、離宮にいる席次下士の執政官を指揮せよ。ギュスターとスーガが部隊の編成を行い、総指揮に当たり、王宮各所を制圧。捕縛することを是とし、殺すこと、略奪、凌辱は厳禁とする。神州トガナキノ国軍法に従い各捕虜の人権、人格を守るよう厳命する。全員に通達を徹底させよ!!」
「御意!!」
全員が声を上げる。
「ギュスター。俺とアヌヤ、ヒャクヤはサラディーンに宣戦布告をしてくる。いつでも動けるようにしておけ。」
「御意!!」
俺は堂々と歩き出す。
黒い戦闘服に身を包んだ執政官達が立ち上がり、俺のために道を開ける。俺が前に来ると一度は立ち上がっていた執政官達が槍を後ろに回して再び跪く。
黒い魔槍兵が俺の道をつくる。
俺は魔槍兵の真中を通って、サラディーンの寝室へと向かった。




