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月トガリ  作者: 吉四六
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クソッ!こいつら本当にいつか酷い目にあえばいいのに!!

 コルナとテルナド。

 二人と使徒の契約を済ませ、子供たちを粒子化し、霊子結晶に封入した。

 俺は安寧城へと瞬間移動する。

 イデアの報告を聞くためだ。

「地図上に赤くマッピングしたのが、トンナ王妃の所在と推測される地点です。」

「うん。じゃあ、青いのが…」

「はい。クルタスの拠点と思われる地点です。」

 安寧城の総指揮ブリッジ。

 正面のメインモニターに世界地図が広がっている。現代日本で、俺が知る地図とは大幅に違う。とにかく、地表が少ない。

 同一形状の湖や丸く削られた海岸線が目立つ。元アメリカ大陸であるウーサ大陸には赤い地点が見当たらないが、その反対側には十二個の青いマーキングが見て取れる。

『反対側か、やはり、ウーサ大陸を焼くつもりだな。』

 赤いマーキングは世界中に散らばっている。

「イデア。コノエを此処に呼び出してくれ。」

「わかりました。」

 イデアが頷くと同時に緑色の瞳を輝かせた小さな女の子が再構築される。再構築された途端に少女は俺の腕に組付いてくる。

「マスターぁ、嬉しいですぅ。あたしを呼び出してくださるなんてぇ。ご命令は何ですかぁ?」

 俺は笑いながら、「コノエのマイクロマシンは世界中に散布されてるな?」と、確認する。

「はい~。気候調節が私たちの役目ですからぁ海上と言わず陸地と言わずぅ、惑星全体に散布されてますう。」

 尻上がりの甘えた口調で、詳しく説明してくれる。

「よし。じゃあ、しばらく俺と一緒に行動してくれ。サエリの本体の方は本来の仕事を続けられるな?」

 コノエがニッコリと笑う。

「はい~。もっち論ですぅ。なんならぁ、本来のお仕事はぁ、うっちゃっといても良いですぅ。」

 いや。うっちゃっとくのは良くないだろう。俺は、眉尻を下げながら笑う。

「うっちゃっとくのは良くないな。本来の仕事も頑張ってくれ。」

「はい~。マスタ~の仰せのままにぃ。」

 瞬間移動の準備はこれで良い。

 世界中にマイクロマシンを散布しているコノエとリンクすれば、俺は世界中に粒子化光速移動ができる。

 あとはクシナハラだ。既に十二時間以上が経過してる。残りは約六十一時間。それまでに奴を見付けてトンナを取り戻す。

 俺は意識を内側に向ける。分体を操作しているクシナハラと話をするためだ。

 クシナハラ。そろそろ、俺達と合流できそうか?

『良いよぅ。こっちの可愛い子は粗方食べちゃったからねぇ。』

 え?

『いやぁ。こっちの第二王妃がスッゴイ好き者でさぁ。吃驚したよ。それと、第三王子も頂いちゃったぁ。』

 だ、第三王子イイイイイイ?

『うん。十九歳って言ってたかな?色んなことしちゃったぁ。エヘ。』

 お、お前、王族にまで手を出したのか?!

『うん。差別しちゃいけないでしょ?それに、やっぱ情報を持ってるのって王族じゃない?』

 それじゃ、クルタスと発電所関係の情報は手に入れたのか?

『こっちで調べられる分は粗方ね。』

 何がわかった?

『こっちで造る発電所は真っ当な発電所ってことくらいかな。あと、王族の頭の中にはコルナが使ってた洗脳魔法用のマイクロマシンが入ってたねぇ。』

 他のマイクロマシンが接触すると脳を破壊する奴か?

『そうそう。』

 コルナの洗脳魔法はクルタスが出処か…

 クルタスについては何かわかったのか?

『クルタスは此処に塒を構えるみたいだね。』

 拠点じゃなく、塒を?

『そう。多分、事が終わったら、此処に住むつもりなんじゃないかなぁ?』

 人類統治の拠点か…だから、発電所を予め造っておこうってことか。

『多分ね。あっ。』

 どうした?

『忘れてた。サラディーン王なんだけど、近々戦争を起こすつもりみたいだね。』

 戦争を?どこと?

『隣国のコーライタス王国と。捕虜を洗脳して発電所に使うつもりみたい。』

 ちっ。面倒くせぇな。

『隣国にもクルタスの手が伸びてるかもしれんな。』

 イズモリ?

『地図を見ろ。』

 俺はメインモニターに意識をシフトする。

 確かに、インディカンヌ王国と隣国のコーライタス王国にも青いマーキングがある。その周辺国家にもだ。

 地球の半分を焼いた後、自分は残った人類を統治して、人類の王として踏ん反り返るつもりか。準備周到だな。

『準備に余念がないが…』

 俺達に知られたのが運の尽きだ。

『その上、トンナちゃんを攫って虎の尾を踏んだしねぇ。』

 無限牢獄の刑だな。

『だな。』

『そうだねぇ。』

『殺されるより辛いかもねぇ。』

『そうじゃなきゃ。』

『おう!やるぞ!』

 胸に点った灯が徐々に大きくなるのを俺は感じる。やがて火となり、炎となるだろう。そして、紅蓮となるだろう。

 クシナハラ。行動を開始する。今からそっちに行くよ。

『OK。こっちでの仕事は終わったしね。待ってるよ。』

『待て。』

 イズモリ?どうした?

『トガナキノを空っぽにするのか?』

 イデアがいるだろ?

『うむ。確かにそうだが…』

 トドネの方も気になるが、今はクルタスを仕留めることに集中したい。

『その点については俺も同じだ。だが、国体母艦を護ることも視野に入れた方が良い。』

 集中したいが、ヘルザース達にも事態の説明が必要か…

『その方が良いだろう?』

 俺は通信機を取り出し、三人を呼び出す。

 神州トガナキノ国内には、要所要所にゲートが設置されている。広大な面積を有する国体母艦だ。中央コントロールルームを除いて、幾つかの重要拠点に直ぐに移動できなくては、不慮の事故に対応できない。

 俺からの要請を受けて、直ぐにヘルザース、ズヌーク、ローデルの三人が揃う。

「陛下、如何いたしました?」

「トンナ陛下はどうなされたのです?」

「もしや、こちらの陛下は分体でございますか?」

 うん。三人とも臣下っぽくない。勝手気ままに質問攻めだよ。普通、俺が発言を許可してから話し始めるよね?ね?

『そんなことはどうでも良い。さっさと話しを進めろ。』

 わ、わかってるよ。

「今から話すことをよく聞いてくれ。」

 三人が口を閉じて俺を見詰める。そうなんだよな。最近、跪くこともしないんだよな。

『いいから。』

 わかってるって。

「先日、トンナが攫われた。」

「なっ!」

「なんと!」

「なんですと!?」

 うん。三人とも口々に喋ってるんだけど。一人が徐々に吃驚してるみたい。吃驚三段活用だな。

「トンナを攫った奴はトンナと無理矢理、使徒の契約をした。」

 三人ともに顔を顰める。

「一つよろしいでしょうか?」

 ヘルザースだ。

「なんだ?」

「次回の‘トンナ王妃のお料理レシピ’の収録には間に合うのでしょうな?」

「…」

『…』

『…』

『…』

『…』

「はあ?」

 思いっきり気の抜けた声が出たよ。自分でも吃驚するぐらい気の抜けた声だよ。

「お、お前、じょ、状況がわかってる?」

 ヘルザースがムッとした顔をする。いや、お前がムッとするなよ。おかしいだろ。

「トンナ陛下が攫われたのでしょう?ですから、次回の‘トンナ王妃のお料理レシピ’の収録までに戻って来られるのかと心配しておるのです。現在、三回も放送を飛ばしているのですぞ、国民から苦情の嵐で放送局担当の執政官はクタクタなのです。」

 知らねえよ。なんだそれ?え?俺が変なの?こいつ、トンナのこと心配してねぇの?

「お前、トンナのことが心配じゃないの?」

「はああああ?」

 素っ頓狂な声で、わざとらしく驚いて、ヘルザースが俺に迫る。

 え?俺が言ってることっておかしい?おい、イズモリ、おかしいのか?

『い、いや。真っ当だと思うがな…』

 だよな。おかしいのはヘルザースの方だよな?

「陛下、まさかとは思いますが、一応、念のためにお伺いいたします。」

「はあ。」

「トンナ陛下を救出するお心積もりでよろしいのでしょうな?」

「はあ?当たり前だろうが。なに言ってんのお前。」

「では、何故、トンナ陛下のことをご心配する必要があるのですか?」

 え?何これ?

「陛下は死者をも蘇らせる至高の魔法使い。問題はトンナ陛下が収録に間に合うかどうかです。」

 ええええええ?死者をも蘇らせるって、ええ?そんなことしたっけ?

『テルナドの件だな。あれが新神記にでも掲載されてるんだろう。』

 ああ、そう言えば。あん時は確かにテルナドは死んでたわ。でも、テルナドは獣人だから下僕契約で霊子体と精神体を引き止めることができたんだろう?今回のトンナの場合はできないんじゃねえの?

『そうだな。契約者じゃないからな。無理かもしれん。』

 え?可能性としてはできるかもしれないってこと?

『実証実験ができないからな。確証はない。』

 ああ、そういうことねぇ。

「陛下がトンナ陛下を連れ戻すとお決めになっておられるのですから、誰にも邪魔立てすることは叶いませぬ。では、問題はいつまでにということでございます。」

「いや、でも、俺が出し抜かれたんだよ?結構、凄い相手だよ?」

 ズヌークが前に出る。

「出し抜かれたということは、陛下が真正面から戦ってトンナ陛下を攫われた訳ではないのですね?」

 ズヌークの言葉に俺は頷く。

「そ、そうだけど。」

 ズヌークが笑う。

「賢しらな者ならば、一度や二度は陛下を出し抜くでしょう。しかし、陛下は既に対策をお立てになっていると見ておりますが。如何ですかな?」

 おいおい。対策なんて立ててねえよ。いつも通りの行き当たりばったりだよ。

「ズヌーク。陛下が対策など立てておられる訳がなかろう。従前どおりの行き当たりばったりに決まっておるわ。」

 クッ。その通りだから言い返せねえ!クソッ!ヘルザースめ。いつか酷い目に合えばいいのに!

「ヘルザース閣下、それでも陛下は何とかおやりになられます。我らが事後処理に追われる労苦を考えますと今から疲れますが。」

 ろ、ローデル…お前まで、そんなこと言うのか。

「左様だな。きっと陛下のことだ後先のこともお考えになられず、勝手気ままに行動されて、問題を山積みになされることであろう。今からどのようなことにも対応できるようにシッカリと気を張らねばならぬな。」

 まあ、ヘルザースならそれぐらいのことを言うわな。

「しかり。陛下は後顧の憂いを気になさるどころか後顧のことなど御頭(みがしら)から抜け落ちておられますからな。今回は事前にお教え頂けただけでも僥倖と言わねばなりますまい。」

 ず、ズヌーク…

「しかり、しかり。では陛下。」

 ヘルザースを筆頭に三人が俺に向き直る。

「お、おう。」

 ヘルザースがニッコリと笑う。

「いつも通り、後先のことをお考えにならずに好きなだけ暴れらるのが宜しかろうと存じます。事後処理と、この神州トガナキノ国のことはシッカリとお守り致しますのでご心配には至りませぬ。」

 お、お前ら、謙譲語で貶すとか、器用なことするじゃねえか。クソッ。

「そ、そうか。じゃあ、頼んだぞ。」

「御意。」

 三人が異口同音に応えるが、なんかスッキリしねえな。クソ。

 俺はイデアに向き直り、イデアを傍に呼びつける。

 俺の量子情報体が少しばかり輝き、全員が俺の顔を見詰める。

「イデア、これを。」

 五つの指輪を差し出す。

「これは?」

「俺の子供たちを封印してる。」

 一瞬、イデアが俺の目を見詰め、伏せる。無言で指輪用のケースを再構築する。

 イデアが一つづつ、大事そうにケースに仕舞う。

 横長のケース。そのケースに五つの指輪が並んで立てられる。

「ほほう。成程。この五つの指輪の中に殿下たちが封印されてられるのですな?」

 ヘルザース達が横から指輪を覗き込んでくる。

「そうだ。」

 俺の応えにヘルザース達が頷く。

「では、イデアが殿下たちを御守りすると。ならば、殿下たちの身の安全は保障されますな。」

 イデアがヘルザースの言葉に頷き、音を立てて指輪用のケースが閉じられる。

 手にケースを持ったままイデアが頭を下げる。

「国体母艦の中央コントロール室に保管いたします。」

 イデアの言葉に俺は頷く。

 目を閉じる。

 目を閉じたまま俺は上を向く。

 首をぐるりと回して、乾いた枝が折れるような音を立てる。

 目を開く。

「マスター…」

 二体の魔人が眉根を寄せて口々に俺を呼ぶ。

 俺は笑っていた。今までに見せたことのないような獰猛な笑みを浮かべていたと思う。

「クシナハラと合流次第動く。イデア、いつでもリンクできるようにしておけ。日本列島の波状量子コンピューターもだ。コノエ、リンクを結ぶぞ。」

「はい。」

「はいィ。」

 俺は歯を剥いて笑っていた。いつでも噛み付けるように。噛砕けるように。

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