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勇者と魔王の息子は一般人です  作者: イマノキ・スギロウ
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2.買い物

2017年クリスマスプレゼント第2弾

 いつものように学校に行き、授業を受け終わると、仲の良い友達が帰りにどこかに遊びに行かないかと誘ってきた。


「正人~、今日カラオケ行かね?」


「ごめん、今日約束があるんだ」


「なに? 彼女でも出来た?」


「あ~、違う違う、家族で買い物に行く約束」


「はぁ? 高校生にもなって家族とお買い物って、一人で行けるだろ?」


「ほっとけ」


 俺だって約束をすっぽかして一人で行けるならそうしたい。だが、我が家でそれをするとあとあと面倒なことになる。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「遅いぞ! まーく、…正人よ! 約束の時間を過ぎているぞ!」


「んなこと言っても授業終了時間を待ち合わせ時間にするとか無茶だって」


「何を言う、飛行魔法を使えばすぐではないか!」


「できるか! 俺はただの一般人だっての!」


「そう自分を卑下するな、お前は我が血を受け継いでいるのだ。そのうち我が魔導の全てを使いこなせる日が、」


「来て堪るか!!」


「むぅ、これが『はんこうき』という奴なのか? 少し前までは我の乳房を夢中で吸う程好いておったのに、」


「赤ん坊の頃の話だろそれは! つーか駅前でそんな話すんな! 誤解されるだろ!!」


「まあよい、とりあえず行くぞ」


「……今日はなに買いに行くつもり?」


「ふむ、まだ寒いのだが、そろそろ暖かくなってきた時の準備として春物の服を出そうと思ってな。そうしたら何着か虫食いや汚れが目立つのがあったから、買い足すにあたって試着もしておこうと考えたのだ。正人も大きいものよりサイズの合う服の方がよかろう?」


 普段、自分の事を魔王だなんだと言うくせにこういうところだけは母親らしい。できればずっとその状態で居てほしいのだが……、


「おーい、遅くなってごめんごめん。ママが指定する時間に終業するのちょっと厳しかったから半休取ってきたよ」


「ちぃ、我と正人の二人でこっそり買い物に行くためにこの時間にしたのに、間に合ったか勇者よ、さすがだな。いいだろう、ここで貴様との決着をつけ…」


「る前にさっさと春服買いに行こうよ。夕飯の買い出しもするんでしょ?母さん」


「ぬぅ、仕方ない、ではひとまず買いに行くか」



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 そうしてなんやかんやで春服と夕飯の買い出しを済ませた一行は無事に家への帰路に着き、話をしながら歩いていた。


「そういえば、前に正人が買い物の約束をした日にうっかり忘れて家に帰っちゃった時は大変だったなぁ、」


「思い出したくないからやめて」


「だってママが「まーくんが誘拐された!」とか思い込んで町中のハイエースを片っぱしから輪切りにして探し始めたりしたもんだから誤魔化すのに苦労したよ」


 そう、俺が中学生の時、家の近所を中心に大型のワゴン車が切り裂かれると言う俄かには信じられないような事件があったのだ。そして今日に至るまでその原因は明らかになっていない、世間の間では。

 しかしてその真相は、俺の身を案じた母が暴走し、魔王の力を解放して誘拐に使われそうな車両を破壊して回ったというのが真実である。


「だっ、だまれ、あの時はこれまで約束を破ったことが無かった正人が時間になっても来なかったからどこぞのごろつきに絡まれて足止めを受けているのではと考え、動いただけだ」


「その結果が車両十数台切断と言うのがまたなんというか」


「うるさい! ハイエースなんぞあの広い車体でいかがわしい事をするのが目的に作られたような車であろう! あの時ただ「中を見せろ」というのに見せなかったやつらの方が悪い」


 いかがわしい事って、俺は街中で尻の心配をしなきゃいけないのか? というか普通、いきなり車の中を見せろと言われて見せる人の方が珍しいと思う。一般人なら断られたらそれでおしまいだ。しかし、母の中身は魔王である。「見せないのなら見えるようにするまで」という思考と行動が出来てしまう人なのだ。お分かりいただけるだろうか? つまりこの人との約束を違えると何が起こるか予想できないのである。一般人の俺に出来ることはただ一つ、

 

「さて、実は明日もちょっと出掛ける用事があるのだが、正人、一緒に来てくれぬか?」


「ごめん、明日はもう別の約束があるんだ」


「むぅ、仕方ないのう。では一緒に行くのはまた次の機会とするか」


 出来る限り交わした約束を守り、出来ない事は約束しない。これだけだ。


「今夜はコロッケを作るぞ。かつて我が率いていたゴーレム軍団並みのがっちりとした衣でサクサクに揚げたイモを堪能するが良い!」


「お、やった。コロッケだ」


「ママのコロッケはうまいから楽しみだね」


「勇者、貴様の分だけはゴーレムの硬い装甲まで再現したコロッケを作ってくれるわ! 入れ歯の覚悟をするがいい!!」


 父と母のいつものやり取りも含めて今日も一日平和だった。 

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