14.決着
お待たせしました。魔王と集合思念、勝つのはどっちか?
魔法が一切使えない空間で魔王は猫型魔物と一対一の戦いを繰り広げ、戦いが始まってから魔王は猫型魔物の爪によって無数の傷を負い、大きく切り裂かれ、反対側の手によって抑えられた肩からは鮮血が滴っていた。
「はぁー、はぁー、はぁー、……さすがにきついな」
日頃、勇者とちょくちょくバトっているとはいえ、それは魔法による身体強化に助けられている部分が多い魔王にとって、魔物との純粋な筋力のみによる肉弾戦は人間の身体である彼女に圧倒的不利と言えた。
「あまり時間を掛けて勇者が来ても困る、下僕よそろそろとどめを刺せ!」
正人(集合思念)に指示され、猫型魔物は両手の爪を構えると、一足飛びに飛びかかって来た。
――――ここまでか!
ドン! ドン!
迫りくる猫型魔物に半ば死を覚悟した魔王だったが、その危機を破ったのは一筋の弾丸だった。
「フギャア!!」
顔面に弾丸が命中した猫型魔物は大きくのけぞり、後退する。
「な、今のは?」
自分の背後から飛んできた弾丸に驚き、魔王も正面の魔物へ警戒を続けつつ、後ろを確認する。するとそこに居たのは紺のジャンパーに白シャツと迷彩柄のズボンをはいたショートヘアの女性だった。
「邪魔をしますよ、魔王」
「誰じゃお主は?」
「おや? セブリナ達から聞いていませんか? 自分はセブリナ達とともに勇者様のお供をさせていただいた者の一人で、向こうでの名前はアミスと申します」
「そういえば、もう一人狩人が居るとか言っとったのう」
「今は自衛官ですがね」
「弓から銃に持ち替えたという訳か」
「ええ、猟師でも良かったのですが、現実的に生活が安定しているのはこちらだったので」
「は、それはいいが勝手に銃を持ち出したらニュースになるんじゃないのかの?」
「それはご安心を、これは隊の備品ではなく自分が個人的に免許を得て所持している私物とゴム弾ですので」
「……ゴム弾程度で破れる我が結界ではないのだがのぅ?」
「……最初の一発なんてなかった。弾も薬きょうも回収済みですので要はそういう事でお願いします」
「ハハ、たいした自衛官様じゃのう!」
「魔王に言われたくありません」
「くぅ、下僕よ、余が逃げるまでの時間を稼げ!」
「シャアアアア!!」
二対一となった事で猫型魔物は迂闊に飛び込むことが出来なくなり、それを理解している正人(集合思念)は結界が破られた事で逃げの選択を選んだ。
「待て!」
「問題ありません。そっちに行きましたよ」
正人(集合思念)の逃走に魔王が慌てる中、アミスが冷静に言い放つと、正人(集合思念)の逃走する先の家陰からセブリナとヴァネルが姿を現した。
「だめじゃ、逃げ道を塞いでも攪乱陣の外に出てしまっては意味が、」
「ですから問題はありません。あと5秒、4、3…」
アミスがなにやら秒読みをする間にも正人(集合思念)は攪乱陣の影響範囲から抜け出そうと走り、あと一歩でそこから出るというところでカウントが0になった。
「や、お待たせ」
「!!」
正人(集合思念)が攪乱陣の範囲ぎりぎりのところで彼の前に立ち塞がったのは皆がよく知っている顔の勇者 勇介その人だった。
「……貴様、また貴様か!!」
「いけないなぁ、人の息子を使って世界を支配しようとしちゃあ」
「黙れ! そもそも貴様が居なければあの出来損ないの魔王もどきでもあちらの世界を魔族が支配することは可能だったはずなのだ! それを貴様が!」
「……今なんて言った?」
「な、なに?」
「てめぇー今何て言いやがった!? ああ!! 人の妻捕まえて出来損ないだと!!?」
「な、で、出来損ないだから出来損ないと言ったまでだ! あのようなくだらん考え方で魔族を支配しようなど……」
「大昔からのカビが生えたような支配欲しか残ってねぇ出涸らしの寄せ集めごときが吠えるんじゃねぇ!! 今を必死に生きる魂に何かを言う資格があるのは同じ今を生きる魂だけだ!!」
普段温厚な勇者が怒りの感情全開で魔法を発動させると、正人の身体からズルズルと人魂のような物が引きずり出され、それに抵抗するために正人の身体を集合思念が動かそうとしたが、左右の手足は魔王と勇者の仲間3人によってがっちりと拘束されていた。
「ぬぉぉぉ、や、やめろぉ! 余はこんなところで終わるわけには、やめろおぉぉぉぉぉ!!」
正人の身体から人魂が完全に抜けると、怒りが収まらない勇者は真っ黒な空間へとつながる魔法陣を開き、力任せにその魂を投げ込んで閉じた。
「何も存在しない別次元の虚無の空間で永遠に反省してろボケが!!」
「「「「…………」」」」
「…………あれ? みんな黙っちゃってどうしたの? もう大丈夫だよ。集合思念は今度こそこっちには戻ってこれないから。 安心して」
「……え、えぇ、そうですね」
「あ~なんだ、そうだな勇者様がそういうなら安心だ」
「ぶ、無事に片付いてなによりです」
「……まぁ今は正人を安静にさせるとしようかの」
この時魔王と勇者の仲間3人は自分達の知るそれとはかけ離れた顔を見せた勇者に対してある共通の思いが生まれていた。
今後、勇者は怒らせないようにしよう……と。
こうしてようやく魔王と勇者達が正人を集合思念から取り戻した時、空は朝日で明るくなり始めており、彼らの長い一日はようやく終わりを迎えた。
次回で最終回となります。更新は遅くとも明日の夜までには何とか。




