03 エラリーちゃん(19)は悪気があったわけじゃないんだ
結果的に言うと飛び掛かってきた二人はそれぞれ25%ほどタタキみたいになった。
まあ、つまり、上半身の半分がぐちゃぐちゃってことだ。うわショットガン威力強い。
なのに私がよく考えてなかったせいか重さもあんまり無いし、何より反動が殆ど無い。こんな威力のショットガン撃ったら脱臼した上で後ろにひっくり返るくらいはしそうなんだけどな。うわぁ魔法製ショットガンマジで強い、チートかよ。
「……えっ?クレイン?ロバート?」
ぐしゃっと地面に倒れ込んだ二人に、後ろに控えていた三人がぽかんと呆ける。ウンウン、目の前であまりにも想定外の事態が起こると何が起こったか信じられなくて混乱するよね、その気持ち今の私にはよーく分かるよ。だって私もそうだもの。
アッサリ人間殺しちゃったやべぇどうしよ。私の馬鹿!何でよりによって出したのがショットガンなんだ。明らかに殺る気まんまんの装備じゃないか。
ごめんね、悪気があったわけじゃないんだよ。でもショットガンってやっぱりゲームでも映画でも存在感あるしさ……。それにここってあの魔法使いが作ったゲームの中じゃん?という事は君達ってただのデータ上の存在って事でしょ……。
よし、取り敢えず次は威嚇射撃が出来る奴にしよう。つまり──サブマシンガンの出番かな。
ショットガンを手放して、未だ放心したままの残る三人に新たに魔法で出したサブマシンガンを構える。やっぱり軽い。片手で扱えるんじゃないかってくらいに軽い。
私が武器を構えた事に相手のうちの一人がたじろぎ、残る二人は警戒を顕わにした。
「何だよ、あの魔法っ……?何なんだよあの杖はっ!?」
「落ち着け。よく見えなかったが、魔法であることは確かだろう。魔力障壁をかけて一斉に掛かるぞ」
掛かってこられたら困るので、私は引鉄を引く。
ぱぱぱぱぱぱぱ、と軽快な発砲音が響き、三人の足元すれすれの地面に幾つも穴が開く。へ……へへ……これがサブマシンガンの打ち心地か……癖になりそう……。
もう一度言っておこう。悪気があったわけじゃないんだよ。
ただちょっと私に考えが足りなかったというか、彼等に考えが足りなかったというか。お互いの常識の悲しいすれ違いに気付けなかったのが不幸だったよね。
三人はそのまま銃弾の雨の中に突っ込んで来て、蜂の巣になって死んだ。
ちょ、何してんの。威嚇射撃したじゃん私。何で突っ込んで来たの?そして不意打ちでもないのに何でそんなアッサリ死んだの?
いやだってホラ、君達ゲームの中の人間じゃん。
アクションゲームとかだと体力削り切るのに何発か撃ち込まなきゃならなかったりするじゃん。それにめっちゃ自信満々に魔力障壁がどうとか言ってたじゃん。そんなあっという間に蜂の巣死体になるなんて思わないでしょ!?
後から思い返してみると、この剣と魔法の世界にはそもそも銃がないので、威嚇射撃の意図と危険性を彼等が理解出来ないのも当たり前の話だった。
恐らく彼等は魔力障壁とやらで銃弾を防げると考えていただろうし、そもそも地面に穴を開けているのが銃口から飛んだ銃弾の仕業である事も良く分かってなかったのかもしれない。
それはともかく、この一件のせいでそれから私は暫くお肉の調理が出来なくなった。
これがこの世界にやって来た時の話である。
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やあ画面の向こうの君。チュートリアルは済んだかい?
魔法で銃を出して装填したりしなかったりしながら銃を構えて引鉄を引くだけのとっても簡単なお仕事だったでしょう?
実はあの出来事からもう四ヶ月も経ってるんだ──え、なに。たったの四ヶ月しか経ってないのかって?
四ヶ月もあれば随分人間変わるものなんだよ。元から運動神経は良い方だったんだけど、今では木登りもお手のものだし、その辺の野生のウサギちゃんや小鳥ちゃんだって自力で捕まえて捌いてむしゃむしゃ出来るようになったしね。
それで、今の私が何をしてるかって事なんだけど。
ミランダ団長にケツ蹴っ飛ばされて敵の偵察兵小隊を急襲して崩壊させた後、既に撤退した所です。
現在位置は木の枝の上。向こうの魔道士がなけなしのMP使ってこっちの位置をサーチし、生き残りの三人で手を取り合って一安心してる様子をスナイプスコープ越しに観察中。
それなりに私もこの戦場では有名な存在になったと思ったんだけどな。半径1km以内に私が存在する間はマラソンしないとならないってルール、知らない?
あ、ちょっと画面の向こうのプレイヤー君ほらこれ多分スナイパーライフルのチュートリアルだよ。
頑張れ的は動いてないよ、ヘッドショットを格好良く決めてね。一人目を華麗に撃ち抜いたら素早く二人目と三人目の動きを止めてトドメを刺すんだよ。
「エラリー、どうなの?」
「今からドタマブチ抜くとこでーす」
「そうか、早くしろ」
厚化粧おばさんはせっかちでいけないね。
よっしゃーそれじゃあ楽しいスナイプの時間はーじめーるよー。