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仔犬な王妃の日常  作者: 朝野りょう
ローデルからの使者
3/3

三話

「さて、ローデルの使者方。すぐに王都の外までお連れします」


 重臣の一人が騎士に指示を与える。


「お待ちください。陛下にもう一度、話を聞いて下さるようお伝え願えませんか。我々もここまで来て、黙って帰るわけには参りません」


 必死の形相でローデルの使者は重臣に訴えた。

 だが、重臣は渋い顔のまま首を横に振る。


「早く領地に帰ることです。モア妃がもう一度ローデルに対して不満を抱けば、陛下はローデルを消すでしょう」

「何故ですか。一人が毒を隠し持っていただけではありませんか!」


 騎士達に囲まれたまま、ローデルの使者はこんな状態でおめおめ帰されるわけにはいかないと重臣達へ訴えかけた。

 その訴えに答えるものはなく重臣達は彼等を一瞥した後、散り散りに部屋を出て行く。

 そして、一人残ったのは側近と思われる歳若い男性だった。彼は飄々と話しはじめた。


「そうですねぇ。一人が隠し事をしていただけなのですよね。しかし申告を無視した者を王宮に連れて来た。その点で、毒を隠し持っていた男とあなた方は共犯です。その上、あなた方はローデルを代表する使者だ。陛下を毒殺するためにローデルが送ってきた刺客であり、それがローデルの考え。となれば、我が陛下のお命を狙おうとしたローデルを、攻撃しようとの結論に至るのは当然のこと。私ども臣下は陛下の下した決断に何の疑問もありませんよ」

「そ、いや、お待ち下さい。我々が仲間を甘くみておりましたことは、重々反省いたしますので。何卒、もう一度、陛下におとりなしを」

「それは無理ですな。あなた方は間違えたのです。あの場で、モア妃に申し開きをしていれば違ったかも知れないのに。陛下のことを感情的になった少女の機嫌をとろうとする腑抜けた王だと思ったのでしょう。わかりますとも、実際そうですからな。しかし、モア妃は陛下をお護りする人ならぬ存在。あの方が陛下のそばにある限り、陛下は、我が国は負けませんよ。絶対にね」


 ローデルの使者達は接見後すぐに騎士達に囲まれ王都の外へと連れ出された。まるで使者達が罪人であるかのように警護で固められた状態だった。

 その後、ローデルへの帰路についた。

 あの毒を所持していた男もともに。

 使者達はその男を騎士達に引き渡そうとしたが、騎士達は拒んだ。

 ローデルの責任はローデルが取るべきだと。



 王宮の中では。


「マラッテス! あの毒は特に嫌いだと言っておいたでしょう! うっかり嗅いだりしたら、鼻がひん曲がるほど気持ち悪くなるんだからねっ」


 嗅いだら死に至るかもしれず、鼻が曲がるどころではありませんよ。

 と、マラッテスと呼ばれた男は少女の前で首を垂れ、彼女に不満をぶつけられていた。


「誠に申し訳ございません」

「さっさとあの毒を見つけ出す方法を見つけなさい! ケロケロにだって見つけられるのに、全く何をしてるのよっ」

「はっ。誠に申し訳ございません」

「ケロケロの手下を使っていいわ」

「はい、モア妃」

「マラッテス、我の前でモアの名を呼ぶでない。いつまでモアと話しておるのだ。さっさと行け」


 王の不機嫌な声が響いた。

 王は少女を膝に座らせてはいたが、ただの椅子と化していた。ちっとも少女が王の相手をしないのだ。


「ルンルン、マラッテスが私の名を呼ぶのは仕方ないでしょ」

「お前の友ではなかろう?」

「名だけじゃなくて、妃を付けて呼んでるから、ルンルンが呼ぶのとは違うわよ」

「だが、我は気に入らぬ」

「じゃあ他の呼び方をさせようかしら。マラッテス、これから私のことを、可愛い子って呼びなさいよ」

「それも、ならぬっ!」

「なーによ、ルンルン。私は可愛いんだから似合ってるでしょ? 何嫌そうな顔してるの? 可愛くないわよ」

「……可愛くない我は、嫌いか?」

「うーん。ま、時々可愛いから、許す」

「そうか」


 王は小さな妃を腕に抱き、穏やかな表情で少女の頭を撫でていた。

 交わされている会話はいつもの事ながら意味不明だった。

 マラッテスは、結局、私はモア妃のことをどう呼べばいいんでしょうね?と思っていたが、言葉にはしない。

 モア妃との時間を邪魔すると、陛下がモア妃を連れてどこかへ逃げる可能性が高いのだ。

 モア妃さえいればいい陛下が執務にはげむのは、モア妃がのんびり暮らせる国を維持するためなのだから。

 マラッテスは王の前を辞した。

 その彼に、王は投げやりに手で合図を返した。

 振り返ったマラッテスの足元には数匹の犬が並んで待っている。

 モア妃のいう黒犬ランケロスの手下であった。

 黒犬ランケロスは王の足元を陣取り、こちらを眺めている。黒犬がマラッテスを手下と同列に見ているのは明らかだった。

 彼は手下犬を引き連れてその場を後にした。

 とある王宮の日常だった。

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