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だいななわ いずれねずみかおうじさま ぜんぺん

 はるか昔、もう滅びてしまった文明がありました。

 とてもすごい技術を持っていたと言うその文明は、どういうわけか滅びてしまっています。

 ですが、その文明の遺産は今も残っており、作る事はできなくても、使う事ぐらいならできました。

 実も蓋もない言い方をしてしまえば、「ご都合古代文明」なのです。

 そんな古代文明の遺産に支えられている国が、砂漠にありました。

 水も無く、土地に栄養もほとんどないその国では、人々は古代文明の遺産に縋って生きています。

 遺産が作り出す潤沢な水と、夜を照らす光。

 遺産から生産される栄養価の高い肥料を使った農耕に、その遺産から排出される大きな人型魔道人形を使った農業。

 ぶっちゃけ、ほかの国より全然いい暮らしをしていました。

 それを支えるのが、「キングダムパレス」という厨二臭い名前の古代文明の遺産なのです。

 この遺産の機能は、ただ一つでした。

 それは「王国を維持運営する事」です。

 この遺産にとって王国とは、「王が治める場所とその民」でした。

 メインはあくまで王なのです。

 そのため、この遺産は王不在の場合は機能を停止するという厄介な特徴を持っていました。

 たとえば王様がどんなにクソヤロウでも、「ちょっと革命しようぜっ!」と言うわけには行かないのです。

 王様がいなくなってしまえば、たちまち遺産は停止してしまいます。

 そうなれば、その遺産におんぶに抱っこである国は、一瞬で蒸発してしまうのです。

 幸いな事に遺産にはある程度人間を見るきのうもついているらしく、今のところ革命されそうになった王様はいませんでした。

 一見非常に優秀に見える遺産ですが、一つだけまったく融通の利かない、厄介な点がありました。

 それは、「王位継承序列を守る」と言うものです。

 当然のことでは?

 と、思われるかもしれません。

 ですが、世の中序列が上の奴が優秀だとは限らないのです。

 ぎりぎり王様として及第点を取れる長男と、王様になったら国が良くなる確定の次男がいた場合、なんやかんやあって長男がどうにかされて、次男が王様になるのが世の常です。

 ですが、遺産はその「なんやかんや」な大人の事情を絶対に許さないのです。

 うっかり次男が長男を暗殺しようものならば、「謀反が起きたために機能を緊急停止」とか言い出して、自閉モードになってしまうのです。

 次男なんだからいいジャンと思わなくも無いですが、遺産には遺産なりの理屈があるようでした。

 そんな遺産の「王位継承序列」には、ここ数百年ずっと一位を保っている人物がいました。

 元々は「第四王子」だった人物なのですが、長い年月の中で兄弟達は皆死んでしまったのです。

 一番古い代の男子を優先すると言うのが遺跡の「王位継承序列」でしたので、その人物はずっと序列一位な訳です。

 ですが、その人物はどういう訳か国から離れた森の中に引きこもり、隠匿生活をしていました。

 本来であれば遺跡が自閉モードになってしまうところですが、年に一度、あることをする事により、それを免れていたのです。

 一年の間、序列一位の権限を、下位のものに肩代わりをさせる。

 遺跡にはそんな機能があったのです。 

 ちなみにその機能の名前は「オレダッテナツヤスミガホシインダヨ・システム」といいました。

 今では失われた言語であるせいか、その意味は現在ではわかっていないのです。

 わかっていないと言ったらわかっていないのです。

 とにかく、この遺産によって支えられている国の現王は、一年に一度森へと赴かなければなりませんでした。

 序列一位であり、本当の王である人物から、一年間の王位を認めてもらわなければならないからです。

 厄介ごとに見えたこの作業でしたが、実はとてもいい効果ももたらしていました。

 序列一位の人物はそれなりに良識のあり、情報に強い人物でした。

 王の評判を聞き、王をいさめたり、アドバイスをしたりしたのです。

 的確で民の事を思ったそれらの言葉を、現王は無視する事ができません。

 そんな事をすれば、王としての権限を許されなかったり、ほかのものに権限を肩代わりさせられたりするかもしれないのです。

 必然的に現王は、民のため、国のために、必死に働かなくてはいけなくなりました。

 序列一位の人物が森に引きこもってからというもの、国はずっとずっと住みよい国になっていったのです。

 いつしか王族や側近など限られたものしか知らない「本当の王様」は、「深い森の賢者」と呼ばれるようになりました。

 なぜ「深い森の賢者」が未だに森の中で暮らしているのかは、国の者達にはわかりませんでした。

 ですがこの慈悲深く知慮に富んだ賢者は、ずっと国のために王を選び、言葉を授けてくれているのです。

 数百年も生きていると言う事から、「深い森の賢者は、あの大魔法使いのでしである」と、王族は考えていました。

 山を一瞬で盆地にするほどの力を持つ魔法使いの弟子。

 そんな人物が、国の事を想ってくれている。

 それは、大変の心強いことでした。

 同時に、そんな人物の期待に応えるためにも、国を守って行かなければならないと言う想いにも繋がる事だったのです。

 砂漠にある遺産に守られた国は、良き王の下、平和に治められているのでした。




「では、賢者様。今年はこれにて……」


「ああ。今年もご苦労だった」


 馬に乗った騎士はそういって頭を下げると、森の外へと走り去っていきました。

 騎士が挨拶をしたのは、ゆったりとしたローブを着た男の人です。

 浅黒い肌に、絹のような白い髪。

 それらは、遺跡に守られた国の王族に見られる特徴でした。

 そう。

 この男の人は、「深い森の賢者」なのです。

 今年の更新を終えた「深い森の賢者」は、丁度王様を見送ったところでした。

 たくさんの護衛を引き連れた王様の馬車は、それなりの速さでかけていきます。

 重要人物を乗せているので、ゆっくりはしていられません。

 安全のためにも、スピーディーに動く必要があります。

 もっとも、この森の中で限って言えば、襲われたりする心配は皆無でした。

 普段は「魔の森」などと呼ばれる森ですが、この時期、この晩だけ、王様とそれを守るものたちに限り道を開くのです。

 それは、「深い森の賢者」がそうさせているためでした。

 森の動植物達に話をつけ、手を出させないようにしているのです。

 ほかの人間の襲撃者などは、森に入った瞬間ぼっこぼこにされてしまいます。

 ですからこのときに限って言えば、王様たちにとって森はもっとも安全な場所なのです。

 とはいえ、普段は即死確定の超危険地帯ですから、人間の心理として長居はしたくありません。

 馬車が少し急ぎ気味で出て行ったのも、無理からぬ事なのです。

 そんな馬車と護衛の騎士達を見送った「深い森の賢者」は、ほっとため息をつきました。

 一仕事終えて、疲れたようです。


「まったく。厄介な仕掛けを残してくれたもんだよなぁ……」


 つぶやきながら、「深い森の賢者」は地面に落ちていた木の実を拾い上げます。

 その硬そうな木の実をジッと見つめ、「深い森の賢者」はぱちりと指を鳴らしました。

 すると、なんと言う事でしょう!

 「深い森の賢者」の体はきらきらと輝き始め、みるみるうちに縮んでいったのです。

 あっという間に「深き森の賢者」の姿は消えてなくなってしまいました。

 かわりに現れたのは、小さなホシネズミだったのです。


「ほんとに、お姫預かってからのここ4~5年、権限の委託だけでも気をつかわにゃらなねぇからなぁ」


 ぶつくさとそんな事をつぶやきながら、ホシネズミは木の実にかじりつきました。

 そのときです。

 何の気なしに首を横にめぐらせると、小さな男の子と目がありました。

 あほっぽい顔で棒付きキャンディーを頬張っているのは、インフェルノドラゴンのバーニカでした。

 ちなみに、ホシネズミのほうは言わずもがな。

 魔女の家に住むホシネズミです。

 ふたりは、しばしの間見つめあいました。

 空は満天の星空です。

 大きな三日月が強く光を放ち、幻想的な空間を作り上げています。

 真顔で木の実をかじるホシネズミに、真顔で棒付きキャンディーを頬張るバーニカ。

 二人の間には、不思議な空気が流れています。

 最初にその沈黙を破ったのは、バーニカでした。


「なー、ねーちゃーん。ホシネズミ先生にみつかっちゃったよー?」

「おばかっ! なんで呼ぶのよっ!」


 横から突然現れてバーニカを殴り倒したのは、お姫様でした。

 その瞬間、ホシネズミのこめかみに「ビキィイッ!!」と血管が浮かび上がります。

 荒野とかをモヒカンで走り抜けていそうなぐらいに表情を劇画調にして、ホシネズミはお姫様とバーニカをねめつけました。


「二人とも……ここでなにやってんだ? ああん? もう寝る時間だろうがゴラ」


 その圧倒的な迫力に、お姫様もバーニカも思わず顔を劇画調にしてしまいます。

 そんな様子を見たホシネズミは、脱力したようにため息を吐きました。


「お姫なら、さっきので予測は付いてるだろ?」

「深い森の賢者様ねぇ。あの国の年寄り連中がもうろくしてるのかと思ってたわ。まさか本当にいて、しかもホシネズミだったなんてね」

「相変わらず情報通だな……」


 あきれた様子で、ホシネズミはもう一度ため息を吐きました。

 くしくしと顔をかくと、改めて木の実をかじり、中身を取り出します。


「口止めの条件は?」

「昔話が聞きたいわ。賢者様の誕生秘話なんてどうかしら」


 お姫様はきらきらとした笑顔でそういいます。

 これまでお姫様は、ホシネズミが人間だったなんて話は聞いた事がありませんでした。

 魔女の様子を思い出してみても、ホシネズミはずっとただのしゃべるネズミとして扱われてきています。

 これは、魔女はホシネズミの正体を知らないと言う事でしょう。

 と言う事は、ホシネズミはそれを秘密にしていたと言う事に違いありません。

 おそらくそれは、魔女に聞かれたくない事なのでしょう。

 お姫様はホシネズミが実は人間だった事を人質にとって、話を聞きだそうとしているのです。


「なー、ねーちゃーん。どーゆーことー?」

「アンタにはあとでわかりやすく説明してあげるから、アメ食べてなさい」

「わかったー」


 バーニカは良くわかっていない様子でしたが、お姫様が黙らせました。

 ねーちゃん権限に対して、弟は抗う術を持たないのです。


「ああ、念のために言っておきますけど。くわぁーしく内容を聞けたほうが、秘密をきちんと守れそうな気がしますわ」


 ようするに、はぐらさずに全部きちんと話せと言う脅しです。

 ホシネズミは観念したと言うように、首を振りました。

 そして、ゆっくりと、昔の事を話し始めたのでした。

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