蛇足
文字通り「蛇足」です。若干説明不足を補ったつもりですが……微妙ですね。
「知っていたな」
来るなり、そう言った相手に『彼』は綺麗な――とても胡散臭い――笑い顔をしてみせる。
「当たり前じゃないか。ボクが何の為に『あの世界』に行ったと思っていたんだい?」
ふ、と相手は、その笑顔を消すと剣呑な光をその瞳に宿した。
「あの魂をあそこにまで戻すのに、一体何回生まれ変わらせたと?カークの事がなかったらキミに出さえ会わせるつもりはなかったんだ」
相手のその言葉に、アルフォードは重い溜息を吐いた。
「姫さんとの契約がなければ…俺すらそう思った。『あいつら』に固執するなと言うほうが無理だな」
「そういうことさ。あの二人の魂は稀有なものだった。だからリアは…サリアードは殺されたんだ」
遠い昔、この二人の寵愛を受けた二人の人物。あまりに強大な力を有する彼らの固執は、その眷属ともいえる部下達の妬みを買い、命をも狙われた。…いや、命ばかりではない、魂の存在すらも抹消しかねない勢いだったのだ。
「命を助けることが出来たのは、ホークだけだった。リアは存在そのものを消されたと思っていた」
「確かにね。ボクが駆けつけたとき全ては終わっていた…だが、彼女の魂は思った以上に強かったんだよ」
自嘲気味に「彼」は笑い、言葉を続ける。
「あの強い魂ゆえに、ボクらは彼女に惹かれた。そして、その強さはある意味諸刃の剣だったんだ」
何度生まれ変わらせても、前世の魂の記憶が強すぎて、その精神を蝕んでいく。
もうやめようと…このまま、彼女の魂を永遠の常闇で眠らせてしまおうと、何度思ったか知れない。
「でも言うんだよ、彼女は…『大丈夫だよ、ラル』って」
自らその名を唱えたことで、彼の存在が形作られていく。彼の少女が与えた名前とその姿に。
「キミが、王家の血筋に彼女の魂と似た『もの』を見つけ契約を結んだ時、正直僕は羨ましかったよ。執着を持ちながらも、新しい魂とやり直そうとしているキミを、ね」
囚われたまま、身動きできないボクとは違う。
「俺にはお前のほうが羨ましいが、な」
いずれ、ミリアは自分の下を離れて、かの青年の手を取ることだろう。その時自分はどうするのか。
確かに彼女に対して恋愛感情は無い。しかし、一度契約を結んだ相手は魂との繋がりを持つ。
心優しい彼女は、自ら手を離すことはしないだろう。しかし、それをあの男が黙ってみているとは思えない。
血筋だけであの男がミリアを妻に選ぶなどとありえない。お互いに気付いては居ないようだが――いや、男のほうは、少しずつではあるが、その感情に気付き始めているようだ。
「運命なんて、未来なんて、数多の選択肢から成り立っているんだ。見える力を持っているのなら、多少自分の都合のいい方向を選んだって罰は当たらないと思うよ」
「…お前なぁ」
「解らないものに手は出せないしね…ところでキミ、彼らに恩を売りたくない?」
「彼ら?」
「そう、サリアの…美冴の友人達に」
不思議そうな眼差しを向ける古い友人に、ラルは爆弾を一つ投げかける。
「って…お前っ」
にこり、と男に笑いかけると、彼は瞬く間に姿を消した。
「一体、俺にどうしろというんだ…いや、それよりも」
どれだけの世界を知っているんだ。
呟きは音にはならず、大きな溜息と共にアルフォードもまた、その空間から姿を消した。
彼が、渡辺の血筋の消息を伝えたのは、これより二年後の事であった。
これで、この話は一旦終了です。お気に入り登録をしてくださった皆様、ここまでお付き合いくださった方々に深く感謝を捧げます。
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