3.過去の罪
「……ノワール様……その、貴方……男性、ですの……?」
リュミリアが問いかけた瞬間、ノワールの身体がぴたりと止まった。その黒い瞳が隠しきれない驚きを浮かべてリュミリアを見つめていた。その反応だけで、答えは十分だった。
「……よく分かりましたね」
ノワールの声は、先ほどまでの令嬢らしい柔らかさを失っていた。少女というには低く、落ち着いた声だった。その眼差しは真っ直ぐリュミリアを捕らえていた。
「なぜ分かったのですか?」
「……目が良いもので」
「……見ただけで、ということですか?」
確かにこの闇の中、リュミリアの灯す魔法の明かりだけでは、難しいかもしれない。けれどリュミリアは全てを明かす光属性の持ち主だ。それも、おそらく当代一の。遠くから見ただけで属性を見通す彼女の双眸が、この距離で知ろうとした真実を見逃すことはない。
「……私は光属性を持っていて、魔法は得意分野なのです。私の目は、望めば真実を見通します」
リュミリアは少し苦く微笑んだ。こんな能力さえなければ前世の彼女はノクティラに執着しないまま、幸せになったのかもしれないと、ふと思った。
苦い思いに蓋をしてリュミリアはノワールの傷をもう一度、確認した。幸いにして傷は深くないし毒も感じない。光魔法を使えば、すぐに癒せるだろう傷だった。
(……けれど、ノワール様は闇属性持ち)
リュミリアの光属性で癒せないことはないだろう。けれど他属性の人と違って、それには痛みが伴うはずだ。
「光魔法で傷を癒してもよろしいですか?……属性の反発で、おそらく苦痛が伴うでしょうけれど」
「……私の属性のことまで、ご存知なのですね。……お願いします」
ノワールが頷くのを見て、リュミリアは彼の胸元に手を添えると、光魔法をゆっくりと流す。傷は瞬く間に消えた。ノワールの表情が静かなまま、変わらなかったことに、彼女は少し安堵した。
と同時に、疑問が湧いてくる。
(病弱な令嬢と隠すように育てられた方が、あれほど見事に短刀を扱うものかしら?)
そしてリュミリアは、嫌な推測に行き着いてしまった。
「……ノワール様は、少しも慌てていらっしゃいませんね。もしかして……ノワール様にとって暗殺未遂は日常的な事なのですか?」
「関わらない方が、貴女の為だと思いますが?」
肯定ではない言葉にリュミリアは唇を噛んだ。関わらない方がいい、それはそうだろう。ノワールはライラではなかった。ならば、これ以上関わる必要もない。自ら危険に飛び込む必要もない。
(でも、これは……過去の私の罪だわ)
一度目の人生で闇属性の姉を疎んじたルミアは、闇属性を忌避する属性へと仕立て上げた。その罪が今、巡り巡ってノワールの命を危機に晒しているのだ。
(見て見ぬ振りなんて、できない)
「いいえ、ノワール様。私は知らなくては、ならないのです」
リュミリアの青い瞳が真っ直ぐとノワールを見つめた。その様子に圧倒されるようにノワールは視線を逸らす。
「……親しくもない相手に話すことでは、ないでしょう」
「そうですわね。それでは、私たちお友達になりましょう?」
「……なぜそうなるのです?」
リュミリアはニッコリと笑って人差し指を立てた。
「私、これでも歴史あるフォルテリア家の娘ですの。光属性持ちの。私と仲良くすればソレイユ家はノワール様を少しは尊重するでしょう」
「……なるほど」
頷いたノワールに、ピッとリュミリアは、2本目の指を立てて見せる。
「ご覧いただいた通り、魔法の嗜みもありますので、ノワール様を守ることもできますわ」
「……そうですね」
リュミリアは笑みを深めて3つ目の指を立てる。
「そして、お友達となれば、親しい相手! ノワール様も真実を相談してくださるはず」
「……それを正直に告げて、私が拒否するとは思わなかったのですか?」
呆れたような口調のノワールに、リュミリアは少し目を逸らす。
(それはそうね……最後のは黙っていた方が良かったかしら? でも、初めてのお友達に隠し事なんて……)
「……お友達には、きちんと真実をお伝えすべきと思いましたの」
小さな声で呟くように言ったリュミリアに ノワールが微かに苦笑した。
「……分かりました。貴女と友誼を結びましょう、リュミリア様」
「よろしくお願いいたしますわ!」




