スキル【鍛冶】のススメ(25日目)
土曜日の朝、日の出前の時間にアラームで目を覚ます。正直眠い。でも昨日見た刀鍛冶動画を思い出し、俺は一気に身を起こす。11月も半ばとなると空気もひんやりしていて目も覚めた。
朝食はフルグラと牛乳で済ませ、リュックに鉱石と金槌を詰め込んでダンジョンへと向かう。
徒歩5分ほどの距離を少し急ぎながらダンジョンへと向かうと、入口にはまだ警備員が立っていた。あまり緊張感のない様子で談笑している。早く去れと念じても動く気配はない。
あの警戒感なら間を通れるか?
いや【隠密】使ってても身体に触れたりしたら流石にバレそうだ。わたりの影響で侵入者はスルーしろとかになってないだろうか。
色々と脳内でシミュレートしたものの堂々と入る勇気が出ずにマゴマゴしていると、警備員の方が詰め所の方へと移動し始めた。
俺はすかさずダンジョンへと突入する。
約1週間ぶりのダンジョン。更衣室ができて以降の変化はなかったようだ。俺は更衣室に寄って鉄パイプを取り出し……また収める。1週間で課金だったはずなので、1回出せばまた新たな1週間の開始になるはず。
100UBCくらい獣一匹なので気にするほどでもないのだが貧乏性だな。
俺は警棒を取り出して、シールドグローブをはめる。近場の部屋に獣は湧かないはずだが警戒していない時こそイレギュラーが起こるもの。俺は早く鍛冶を試したいと思いつつ、慎重に扉を開けた。
地下一階の部屋は会議室というか、休憩所というか長テーブルと椅子があるだけのシンプルな部屋だ。獣と戦闘となると狭さを感じるが、過ごすだけなら問題はない。
俺は早速、テーブルにリュックを降ろし、金槌と鉱石を取り出す。まずは最初に出た銅鉱石だ。
「机だと流石にまずいか?」
長テーブルの天板は木製ではないがプラスチックの様な材質で、ハンマーで叩くと傷ついたり下手すると割れたりしそうに感じた。
なので床に鉱石を置いて、金槌を構える。
本来は炉で熱して金属を溶かすんだろうが、そういった施設は見つかっていない。
破滅アプリの鑑定機能で銅鉱石だとは分かっているが、純粋な銅の塊ではないだろう。青緑のそれは、錆が出ているのだと思う。錆取りとかした方がいいのかもしれないが、道具を用意していなかった。
取り敢えず金槌で叩いてどうなるか見てみよう。問題があれば、その都度試せばいいのだ。別に急ぐ訳でもないからな。
カコン。
床に置いた鉱石へと金槌を振り下ろす。石が割れると予想していた俺は首を傾げた。叩いた箇所がへこんだのだ。油粘土を叩いた時の様に金槌の形がそのまま穴となった。
自宅で試した時は割れるでもなく、へこむでもなく単に堅いものを叩いた感触だけだったのだが、ダンジョン内では変形した。
「ふむむ」
へこんだ箇所を触ってみたが、熱くなった訳でもない。続けて叩いていくと大して力を入れていないのに、鉱石は粘土を広げるように薄くなりつつ面積を増やしていく。手で触ったら固いのに金槌で叩くと柔らかく変形した。
叩く度に金属的な光沢が増していくようにも感じる。青緑だった表面が、新品の十円玉の様な色へと。
昨日見た動画の熱した鉄の様に、カンカンと叩けば形を変えていく。俺は向きを変えながら叩いて棒状を目指す。
握り拳より少し大きいくらいの石が、長さ15cm、直径3cmほどの棒状になった。
「これじゃ武器にはならないな」
俺は鉱石を2つ足して叩いていく。長さ30cm、太さ5cmほどになった。そこから先端部分を板状に潰して平たくし、握りの部分は少しおうとつを付けて握った時に引っかかり易く整える。
鍔となる箇所を少し作って短剣もどきの形となった。
「形としてはそれっぽいけど、刃がないよな」
平たく伸ばしただけでは紙も切れそうにない。定規で破るみたいにはできるだろうが。砥石で磨いたらいいのかな。
「砥石がないな」
早く試したいという気持ちが逸って準備不足を否めない。といって砥石なんてどこで買えるんだ?
ホームセンターとかならありそうだが、どの道昨日の時点で買いに行く気はなかったし、今朝は日の出前に家を出たから買う暇はなかった。
「ひとまずこれは置いておくとして、次の実験に移ろう」
俺は新たな鉱石を取り出すと、平たく伸ばして少し歪だが板にした。そこに釘を取り出し、その柄を例の金槌で叩く。
「おおっ、削れた」
釘だけだと表面を擦って薄く筋が付く程度だったが、金槌で叩くと溝と呼べるほどに削る事ができた。釘を通しても金槌の効果が伝搬するらしい。削れた部分を押し当てながら金槌で叩くと、継ぎ目もなく繋がる。
「思った以上に加工しやすいな」
金型とかあれば、鉱石を押し当てながら叩くだけで鋳造したみたいに形を作れたりしそうだ。金型の方を叩くと簡単に変形しそうだから鉱石だけを叩くのは難しいか。
鉄パイプの先端を叩いてみたらあっさりと変形したしな。先端を尖らせてみようかと思ったが、すぐに折れそうなのでやめといた。
ある程度機能を把握したので、俺は破滅アプリの鑑定機能で金槌の再度鑑定を行った。
名前:鍛冶師の金槌
効果:金属を加工できる
すると詳しい鑑定結果に変わっている。未知のアイテムも用途を実証できれば詳細が分かる様になるみたいだ。
この情報は俺だけなのか、他で鑑定した人にも伝わるのかが気になるところだ。俺だけで完結するなら、鑑定する意味もないしな。
ちなみに短剣っぽいものを鑑定してみると。
名前:短剣のようなもの
効果:刃もなく紙も切れない
などと表示された。俺が思った感想がそのまま表示されているように思う。破滅アプリは俺の心を読んでいるのか?
少し怖くなるが破滅アプリを使わないという選択肢もない。ステータスの確認やUBCを使えなくなるからな。
「さて次は……」
俺は釘の実験で作った板に亜鉛鉱を混ぜて叩く。すると黄銅という合金ができた。いわゆる真鍮だ。この辺はゲーム知識の応用。MMOの鍛冶師で亜鉛と銅を使って加工していたのを覚えていた。銅だけよりも品質が上がるはずだ。
その合金を使って鍔と柄を作り、刃の部分に2階の獣人が落とした爪を使って短剣を作った。
名前:獣の短剣
効果:武器として使える
細かい数値は分からないが、ちゃんと武器として使えるようだ。早速、近くの獣出現エリアへと移動して試すことにした。
既に1階の獣は動きも覚えているし、倒すのに苦労はない。鉄パイプでも警棒でも戦える。ただ獣の短剣は刃渡りが15cmほどで警棒よりもかなり短い。武器で戦うというよりは握って殴るイメージになるだろう。
俺を見つけて駆け寄ってくる獣の噛みつきをやり過ごし、その首筋へと握った短剣を叩きつける。すると思った以上にすんなりと入っていき、その一撃で獣は霧散した。
くびをはねられた! か急所への一撃みたいな扱いだろうか。それとも本当に致命的な一撃だったか。
「一撃で倒せるなら捗るな」
俺はそのまま5匹ほどと戦闘を行った。肩や胴体に当てた場合は一撃ではなく、首や頭部に当てたら一撃だった。表皮や頭蓋を易々と貫く鋭さがあるらしい。
投げてみたがそれでは刺さらなかった。ある程度押し付ける力がいるようだ。
ちなみにステータスを確認しても【鍛冶】スキルは生えていなかった。まだ試行回数が少ないのか、あの金槌を使うのは普通の工程ではないからかは分からない。
とりあえず鉱石の使い道ができたのはありがたかった。




