悪女はソッと微笑んだ
最終話になります
一部表現を変えております。内容には変更御座いません。
国王陛下一派は今、炙り出しの最中だ。クーデター後のワーゼシュオン神聖国は特に混乱はないようだ。元々宰相だった叔父様が首謀者なのだ。無血開城と言ってもよいくらいの政権交代だった。
ケイ殿下はそのクーデターの裏方の手伝いで忙しいのだが、私は私で忙しい。実は医術医院の患者が急激に増えているのだ。所謂口コミだった。初期の頃に通院していた患者さんが完治して元気に日常生活を送っているのを見て、我も我もになっているらしいのだ。
あまりに殺到しすぎるので、診察の前に医術医院の医師達で診察し、私の患者に回すか他の医師に回すかに分けるようになった。
そしてワーゼシュオン神聖国はもっと激動期を迎えていた。
とうとうワーゼシュオン神聖国の国王陛下と国王妃の実家の公爵家が「うちが元祖ワーゼシュオン神聖国だ!」と言い出したのだ。おまけに国王妃の甥御とファシアリンテを婚姻させて、ファシアリンテを王太女にし、尚且つすぐに女王に据えて「うちが正式な王族だ!」と更に言い出したのだ。
その発表を受けてカルント宰相は新しく「リバイセント国」という国の建国をあっさりと発表した。そして王制を廃止して民主主義政治に移行したのだ。
この制度を提案したのは勿論私だ。今現存する各地方の地方領主の任を解き、立候補制にしてその地方の代表を決めて、全ての議案を皆で多数決で決めて行けばいいと進言した。
まさかカルント宰相がそういう政治制度を布いて来るとは想像もしていなかったのだろう。旧態と同じく王に従え!と声高に威圧したワーゼシュオン神聖国側は最初は勢いが良かったものの…徐々に求心力を失くして行った。
★ ~ ☆ ~ ★ ~ ☆
あれから随分と時間が経った。
一応旧ワーゼシュオン神聖国はまだ国を名乗ってはいる。今はリバイセント国に隣接する小さな一国になっている。元々、国王妃の実家なので所有する領地も広大で領地の収入も潤沢で、現状困りはしないだろう。
ただ…ワーゼシュオン神聖国としての歴史はそう長くは続かないはずだ。女王に就いたファシアリンテに政治力も人望も無く、何とか公爵家が支えているというのが現状だ。いずれは瓦解の道を辿る…とケイ殿下は予測している。
ワーゼシュオン神聖国の国王陛下と国王妃は今頃になって、私に対して親書を送りつけてくる。取り敢えず内容は読んではみるがすぐに燃やしている。
今更、どの面下げて私とケイ殿下と和解して私に直接謝罪したい?何を謝るつもりなのだろう…。あなた達が謝るのは頭を下げるのは私じゃない。それに気が付かない限りはワーゼシュオン神聖国は消えていくだけだ。
そしてもう一つ私にも変化があった。
私はケイ殿下との間に女の子を産んだのだ。そして今も第二子、お腹に赤ちゃんがいる。
「おじいちゃま~」
カルント宰相、現カルント首相に向かって娘が走り寄って行った。目尻を下げて娘を抱きあげている叔父様。今日、ケイ殿下は合同軍事演習の打ち合わせがあるとリバイセント国の軍部の方へ行っている。
私はカルント首相と娘にゆっくりと近付いて行った。2人共魔質がそっくりだ…。もう聞いてもいいよね?
「お父様」
「!」
カルント首相は私がそう呼びかけると固まった。目を見開いて、僅かに震えておられた。
「や…はり…そうなのか?いつ…いつ、分かったんだ?」
思わずおかしくなって声に出して笑ってしまった。
「そんなの…私が物心つく頃には。私が魔質を視えることをご存じでしょう?親子ってほぼ同じ魔質になるんですよ。私が視れば誰が誰と親子なんてすぐ分かります。当時私なりに、カルント叔父様は私の父と名乗っちゃいけないのだと思って黙ってたのですよ?まあすぐ理由は分かりましたけど…」
カルントお父様は、はあぁぁ…と大きく息を吐いた。
「バレてたのか…」
「はい。お父様…」
「ん?」
「1つだけ…1つだけお聞きしたいことがあります」
キョトンとしたカルントお父様と娘、マジョリアンテはキョトンとした顔が同じ顔だった…!吹き出しそうになりながら、ずっと聞いてみたかったことを聞いてみた。
「お父様はお母様を愛しておられましたか?」
一瞬、驚いた顔をしたカルントお父様はすぐに即答した。
「勿論愛していた」
「良かった…」
そう…それだけでいい。私は愛ある2人の間に生まれた子供だったんだ。その幸せな事実だけでいい。
「リシュリー、ファニアニスとの出会いを話してもいいか?」
そう言って私を見たカルントお父様の魔質を視て、またおかしくなる。
「それ、惚気?」
「アタリだ」
父と母の出会いは、母がワーゼシュオン神聖国の学校に入学する前に事前見学に来ていた時だそうだ。その時にベコルイーダのご両親(祖父母)も一緒に来訪されていて、当時学校の生徒会長をしていたクレミルート第二王子殿下(父)が学校の案内をしたそうだ。
お互いに一目惚れだった。
そこに都合よく向こうのご両親もいたし、結婚を前提にしたお付き合いをしたいと求婚と交際を申し込んだそうだ。向こうのご両親も大喜びだった…ところが、学校の新入生歓迎会で悲劇が起こった。
第一王子殿下…兄が同じくファニアニス(母)に一目惚れをしてしまったのだ。
第一王子は、もう知ってはいるがかなりの強硬な手段でベコルイーダに脅しをかけたらしい。クレミルート第二王子(父)は当時の国王陛下に直訴したり、第一王子殿下に直訴したりしたが、当の第一王子殿下は父が言い募るたびに益々ファニアニスに固執していったそうだ。
クレミルート第二王子(父)はベコルイーダのご両親と話し合い、妄執といえるような執着を見せる第一王子殿下のせいでベコルイーダを危険な目に遭わせられないと…身を引いたという。
「でもファニアニスはそうじゃなかった。彼女は私の所に押しかけてきて、自分の初めては私に貰って欲しいと言ったのだ」
そして、クレミルート第二王子(父)は受け入れた。そして、その後無理矢理第一王子殿下の元に連れて行かれ婚姻させられた。
「私は酷い男だよ。人のものになってもまだ、ファニアニスの近くに居たいと彼女を離すことが出来なかったのだ。第一王子のファニアニスに対する妄執が薄れて、ベコルイーダ国に逃がしてやれる機会はいくらでもあった。でもファニアニスと離れたくなかった。最後の最後まで彼女を縛り付けてしまった。」
「お母様は縛り付けられた…と仰ってましたの?」
カルントお父様は弱々しく笑われて首を横に振った。
「お前のお産の後に、何度も何度もね…熱にうなされながら『私があなたと離れたくないから…子供を盾にしてあなたの元に居座り続ける私を許して欲しい』と言うんだよ。私はなんと愛されているんだと痛感した」
そうか…例え私が本当に第一王子殿下の子供でもカルントお父様は変わらず私を慈しんでくれたに違いない。
だってファニアニスの娘だから…。私は泣きながら本当に心から笑った。
「ああ~最大級の惚気話だったぁ!」
あはは…とカルントお父様と娘のマジョリアンテの笑い声が聞こえた。私も一緒に笑った。
その日の別れ際、カルントお父様が耳打ちしてきて
「ベコルイーダ国の王族の皆様がお前と子供達に会いたいと言っているよ。お爺様に会いに行ってあげなさい」
と言われた。ああ…そうか、よーし!家族で田舎(ベコルイーダ国)にお泊り旅行の計画を立てるわよー!
その夜、その話を夫のケイハーヴァンに話すと、何故だがニヤニヤしながら夫はこう言った。
「ああ、少し前にカルント首相から聞かされていた。旅行も早くに準備しようか。しかし宰相に聞かされるよりも前にリシュリーの出自は私は調べていたがな」
「あら?前にお調べに?」
「リシュリーお前~恋する男を舐めるなよ?自分と想いの通じ合っている女性をみすみす他の男にやる訳ないだろう?しかも婚姻した後に第一王子殿下から捨て置かれてしまったというじゃないか…益々愛しくなるに決まっている!そして命と引き換えに産まれたリシュリーを可愛がっている。どう見てもカルント首相が実の父親だと思うだろう」
「はぁなるほど…」
そうだ、ケイハーヴァン殿下も死という別れを経験されているんだった。やっぱり忘れられないのかな…。流石にこれは聞けないわ…。
「第一王子…ワーゼシュオン神聖国の国王も自分が想い合う2人の間に割り込んだことは分かっていたと思うがな。それでファニアニス様が妊娠したと知った時…あの国王妃に囁かれて、やはり弟の子じゃないか…と疑う気持ちは確かに分かるがな…」
ワーゼシュオン神聖国の国王…元父はやっぱり自分の子供じゃない…と分かっていたのかもしれない。だから私への扱いがあんなだったのかな。だからと言ってもなぁ~まあ今は全方位から嫌われているから、ざまあみろ!だけどついでに禿げてしまえ!と、元祖癒しの女神の私からお祝い(呪い)を送っておこうかしらね。
「ふぅ…」
私がソファから立ち上がろうとしたら、ケイ殿下が慌てて近づいて来た。
「どうした疲れたのか?少し横になるか?」
ああ、この人も今は私に愛してますの魔質をずっとくれているな~。思わず夫を見て笑顔になる。私の体を横抱きにしてベッドに寝かせてくれるスパダリ+今は子煩悩な殿下。
ね、言った通りでしょう?ケイ殿下はまだ若いのだから、これからだって…。ねえ、あなたの人生はまだこれからで、人生の幅を狭める必要はなかったでしょう?
柔らかくケイ殿下に口付けられて、嬉しくなる。どうやら私も母みたいに愛して愛される人になれたみたい。
お読み頂いてありがとうございました。