第十話 消えるべき影
世界が、歪んでいた。
空は裂け、大地は沈み、すべてが崩れかけている。
その中心に立つのは――
影丸。
だが、もはやその姿は、人のものではなかった。
青白い炎が身体を覆い、輪郭すら曖昧になっている。
「……全て、終わる」
その声が、空間そのものを震わせる。
「……させぬ」
ゆっくりと歩み出る影。
服部半蔵。
満身創痍。
だが、その足取りに迷いはない。
「止まれ、影丸」
「……対象、確認」
ゆっくりと、視線が向く。
「排除する」
ヒュン――
消えた。
次の瞬間。
ドォォォン!!!
衝撃が爆ぜる。
半蔵のいた場所が、跡形もなく消し飛ぶ。
だが――
「……そこか」
声は、背後。
半蔵が、影丸の背後に立っていた。
刃を振るう。
だが。
止まる。
「……斬らぬのか」
影丸の声が、無機質に響く。
「斬れば――終わる」
半蔵は言う。
「だが、お前も消える」
沈黙。
「……それでいい」
その一言に。
わずかな“悲しみ”。
「俺は……もう……」
炎が、さらに強くなる。
「俺ではない」
「違う」
半蔵は即座に否定する。
「お前は、まだいる」
「……証明、できるか」
「できる」
その瞬間。
半蔵は、刀を捨てた。
「半蔵様!?」
遠くで見ていたお凛が叫ぶ。
だが、止まらない。
半蔵は、ゆっくりと歩み寄る。
「何をしている……」
「終わらせる」
「……愚かだ」
影丸の手が上がる。
ボォォォッ!!!
炎が集まる。
「……消えろ」
その瞬間――
半蔵は、抱きしめた。
「な……!」
炎の中心に。
自ら飛び込み。
影丸を、抱きしめる。
「やめろ……!」
影丸の声が、初めて“人”に戻る。
「離せ!!焼ける!!」
「構わん」
半蔵は言う。
「お前が戻るなら――」
炎が、半蔵を焼く。
皮膚が裂け、血が滲む。
「半蔵様ぁぁ!!」
お凛の叫びが響く。
「……なぜだ……」
影丸の声が震える。
「なぜ……そこまで……」
「決まっている」
半蔵は、静かに言う。
「お前は、仲間だからだ」
その言葉が。
深く、突き刺さる。
「……仲間……」
炎が、揺れる。
激しく。
苦しむように。
「……やめろ……」
「戻れ、影丸」
「……やめろぉぉぉ!!」
ドォォォォン!!!
爆発。
光が、すべてを包み込む。
そして――
静寂。
煙が、ゆっくりと晴れていく。
そこに立っていたのは――
ひとり。
膝をつき、息を荒げる男。
「……はぁ……はぁ……」
炎は、消えていた。
そこにいたのは――
影丸だった。
「……戻った……?」
お凛が呟く。
だが。
「……半蔵……様……?」
影丸の目が、見開かれる。
その腕の中には――
動かない半蔵の姿。
「……嘘だろ……」
血に染まり、動かない。
「……起きてくれ……」
震える手。
「……俺は……戻ったんだ……」
声が、崩れる。
「だから……」
沈黙。
風が、静かに吹く。
その時。
「……まだ、終わっていない」
低い声。
振り向く。
そこには――
立ち上がる影。
猿飛佐助。
「……佐助……!」
「見事だ……半蔵……」
血を吐きながら、笑う。
「だが……」
その目が、影丸を捉える。
「最後は……俺が決める」
闇が、再び動き出す。




