59 不老不死
○【野外会場の壇上】
黄の目出し帽をかぶる司会者
「―――― では、新たな ❝ルージュ・パルフェ〈完璧な赤〉❞ の御入来です。」
満席の野外会場、
怪奇なる異型の像の前へ置かれた、円卓に5つ設けられる席の、
青の椅子に、青のフードとペストマスクそして2眼ゴーグルの ❝ドラッヘンフッター大使❞。
黄の椅子に、黄色の法服に法帽そして眼帯と口髭の ❝ピサンザプラ判事❞。
白の椅子に、白のシルクハットにスーツそしてマントに長身の ❝ポロンクセマ博士❞。
黒の椅子に、黒の兜と鎧そして腰には軍刀の ❝ルフトメンチュ将軍❞。
そして空いていた、赤の椅子の前へ進み出る1人の少女、❝赤衣に葡萄果汁の赤き髪をながく房々と垂らすダユー・マルグヴェン女主人❞。
ピサンザプラ判事
「やっと我らが ❝Rouge parfait❞ の帰還が本日、叶った。」
ドラッヘンフッター大使
「めでたきこと。」
ポロンクセマ博士
「めでたきこと。」
ルフトメンチュ将軍
「めでたきこと。」
会場より拍手と共に言葉が飛ぶ。
「以前は70歳まで生きる者はほとんどいなかった、でも今は70歳でもまだ子供だ!」
「バイオテクノロジーの発展で、人類は『臓器移植』を何度でも出来るようになった。我々はますます若く生きられるようになる、『不老不死』さえも実現できるようになった!」
「ゥオオオオオ〜〜〜〜〜」
この言葉に会場はさらなる盛り上がりを見せ、ダユー・マルグヴェンが口を開き、
ダユー・マルグヴェン女主人
「今世紀には、150歳まで生きる可能性もあると予測されています。
ココに居られる皆さまとそのご家族の、❝臓器の適合者❞ を世界中で調べ、登録させるシステム構築を、ただいま国際機関で行わせております。
今後は母『赤の女王』に成り代わりまして、皆さまのお世話を、私『赤の女主人』がさせて頂きたく存じます。若輩者では御座いますが、今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。」
「ゥウオオオオオオオオ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
うねる会場、鳴り止まぬ拍手、拍手、拍手、
満座が最高潮へ達した時、ダユー・マルグヴェンの眼力は妖美にキラキラと輝いて、その頭より赤紫の湾曲する2本の臭角が突如飛び出す、耽美なる香りはパアッと拡散し、
そこにいた人々1人1人の眼の焦点は合わず、陶然となって、天国とも地獄とも判らぬ、奇怪と快感に酔いしれ、いよいよ歓楽は有頂天となる。
○【野外会場、壇下の地面に描かれる✪魔法陣❂の前】
ダユー・マルグヴェンは壇から下りて、地面に描かれる✪魔法陣❂の前面へ歩みより、
ダユー・マルグヴェン女主人
「❝赤の塔(世界衛生ウイルス研究所)❞ は崩れ落ち、
燃え上がる赤壁より黒煙は立ち昇る。
かつて蒼天までとどきし塔は、白塵の山へ化す。
この瞳に写るは涙のみに非ず、
底しれぬ憎悪と怒り、
お母さま……
今、『赤の女王』の御名をここに贈ると共に、地の彼方より来たりし『赤の女王』ベラ・マルグヴェンの眠りを破ります。」
ダユーの言葉は風へ溶け、
✪魔法陣❂が描かれる中央の生贄へ膝を付きナイフを下ろし、血に濡れる手の平を地表へ押し当てた。
大地は揺れ、空気が振動し、天は鉛色の雲に覆われる。
✪魔法陣❂が光り、地は割れ裂け目から白き霧は溢れ、
その中心に、1人の女性の影がゆるりと姿を現した。
長く真っ赤な鮮血の髪は廻風に漂い、髑髏サイケな毒蛾の翼と触角を持ち、血塗られし大鎌を携え、真紅の衣装を纏いて、瞳孔は海の底の如く深く緋に沈む。
亡霊でありながら、その威厳は女王そのものだ。
ベラ・マルグヴェンの怨霊『赤の女王』
「我こそは『赤の女王』が怨霊ォォォ…
汝がなぜ我を呼び起こす、我が生命を奪いしは汝であろう。」
マルグヴェンが怨霊の声は雷音となり、三界へ鳴り渡った。
壇上に残される円卓の4名は抱き合い、恐ろしくも『赤の女王』の美しさに魅了され崩れ落ち、
会場の響動めきは起こりし事象に強張り、惑いて拝み涙を流す。
我が咎を他者へ擦り付け、責任転嫁を目論むダユーの唇は震え、それでもなお思考を巡らせた。
ダユー・マルグヴェン女主人
「あゝ、我が愛おしき母『赤の女王』よ!
貴女を今もなお苦しめる怨敵は、❝赤の塔❞ を破壊し、私たちの誇りを踏みにじった者です。
どうか、かの者へお怨みをお晴らしください。」
ベラ・マルグヴェンの怨霊『赤の女王』
「うぅぅぅぅ…
この時より、かの者の歩む先に安息は無し。眼を閉じれば悪夢に、開ければ亡霊に蝕まれ。
死者の手が剣を鈍らせ、勝利の喜びは灰となり、愛する者に災いは降りかかる。
この怨み尽きぬ限り、復讐は終わりにあらず。我が呪いは生き続け、孫子の代まで祟ってやるゥゥゥゥ〜〜」
怨霊の声は呪怨となり天地へと拡大し、目に見えざる鎖となってギヨティーヌへ絡みついていく。
ダユー・マルグヴェン女主人
「お母さま、ありがとう存じます。」
ベラ・マルグヴェンの怨霊『赤の女王』
「この怨み晴らさでおくべきかァァ……」
そう言い残すと『赤の女王』の姿は霧へと変わり、闇深き大地へグツグツ溶解し消えていった。
こうしてその日より、人々は噂するようになる。
「ギヨティーヌ・タタンの足元には、常に真紅の女王の影が立つ。」と――――




