アードモアの転生者たち 2
「でもあれだね、アードモアの人たちの雰囲気は変わったね」
まだ料理を口に運びながら、教皇がずいぶんと砕けた口調と表情でウォルトに話しかけた。
「以前は互いに目を合わせないようにして、ほとんど話をしていなかっただろう?」
「うん、そうなんだ。僕は前世で仕事以外に女の子との接点がなくてどうすればいいかわからなかったし、平民のユーインにあまり近づくと彼の迷惑になりそうで、困ったことがあったら知らせてくれと伝えただけで何もしていなかったんだ。でもフューリアは教皇を中心にまとまっているし、バルナモアもレオンを中心に助け合って仲良く暮らしているってクロフから聞いて、うちもこのままではいけないなって考えていた時に、さっきホリーが話していた宿屋の問題を相談されてね」
ウォルトもリンジーも共通の話題や対処しなくてはいけない問題が出てきたおかげで、ホリーやユーインと会話が続くようになって、徐々に親しくなれたんだそうだ。
「会社の後輩の相談に乗る気分で話したらうまくいったんだよ。その時にヘンリエッタにも声をかけたんだけど、私は大変なんだ。他人のことまで気にしていられるほど暇じゃないって文句を言われて、彼女を仲間と思うのはやめたよ」
「私も。さっきも私がさわったらすごく怒っていたでしょ。王女の私に平民風情がさわるんじゃないって言われたことあるのよ。そのくせユーインには優しくするんだから、無理無理。あそこまで言われて仲良くしようなんて思えない」
初対面の私でもヘンリエッタと会話をするのに気を使って疲れたんだから、何度もそんな態度を取られている彼らが、もうすっかり嫌になってしまう気持ちはよくわかる。
彼女がいなくなったら急に部屋の雰囲気がよくなったのも、彼女の反応がこわくてあまり話せなかったせいなのね。
「みんなのおかげで宿屋は無事で、私は踊り子にならないで済みそうだし、ユーインも冒険者をやめるのよね」
「ああ。夢から覚めたんだよ。ヒーローに生まれてこの世界では主人公なんだって調子に乗っていたんだよな」
ようやく食欲が満たされたのか、ユーインは近くにあった椅子に腰を下ろした。
「ウォルトさんに会って、ヒロインもこの世界に転生してるって聞いて、今の自分なら付き合えるんじゃないかって思ったんだ。ゲームではヒロインが一番好きだったから会って話がしたかったしさ。でも中の人はずっと年上だって聞いて……」
戦時中生まれって聞いて、一気に冷めたのね。
でもありえない話じゃないでしょ。
平均寿命が八十を過ぎていたんだから、その年代の人が何人かいたって不思議じゃないはずなのよ。
それに申し訳なさそうに私を見るのはやめてほしいわ。
アードモアの人達はそんなに前世の年齢を気にしているの?
繊細な人が多いのかしら。
「いいわよ、遠慮しなくて。ジェネレーションギャップがありすぎて、どんな態度で何を話せばいいか迷うわよね。でもそれは前世の話で今は十一歳の女の子だから」
「……うんまあ、話さなければ女の子に見える」
「どういうことかしら?」
「いや、なんか、先生と話している気分になるというか……」
おろおろしているユーインと近くで会話してみて気付いたんだけど、私たち顔が似てない?
「ゲームをしていないから教えてほしいんだけど、主人公のふたりって親戚? 似てない?」
思わず仲間に聞いてみたら、しばらく記憶を探るように考えた後、全員が首を横に振った。
「ゲームではまず男の主人公で遊ぶか女の主人公にするか選ぶだろう? それで主人公は性別が違うだけで似た雰囲気の見た目だということはよくあるんだ。性別を選んで、その後に顔をいくつかの中から選べたはずだけど、目や髪型が違うだけだった」
殿下が今まで座っていた端のほうの席から立ち上がり、部屋の中央にいた私たちのほうに近付いてきた。
「確かに似ているな。姉弟でも通じそうだ」
顔を近付けてまじまじとユーインの顔を眺めるのはやめてあげましょうよ。
こわがっていますよ。
圧倒的にオーラというか美形度がやばい顔を近付けられたら、誰でも腰が引けますって。
私とユーインはプレイヤーキャラだからか、どちらかというと万人受けする親しみやすい可愛い系の顔なのよ。
ラスボスと悪役令嬢は、それに比べると圧倒的に美人タイプの顔なの。
「夢から覚めたのが早くてよかったな。今ならまだ両親の死を防げるんじゃないのか?」
殿下はそのまま私の隣に立ち、ユーインを見下ろして言った。
え? 男主人公にはそんな設定があるの?
「そうなんすよ。実は助けられたのは俺のほうなのかもしれないんです。七か月前、親父のパーティーで事故があってメンバーがひとり亡くなったんです。赤ん坊の頃から世話になった人だったんでショックがでかくて……。ああ、ゲームと違って死んだら終わりなんだなって実感したというか。それまでは主人公だから死なないんじゃないかなんて、なんの根拠もないのに無意識に甘く考えてた」
ユーインの両親も仲間の死に衝撃を受けて、子供がいるのに冒険者を続けるのはどうなんだろうと悩んでいたんだそうだ。
でも家が貧しくて教育を受けられなかった彼らは、冒険者以外の職業なんて何ができるかわからなくて、どうしようかと悩んでいる時にホリーの宿屋の話が舞い込んできた。
宿屋を営むことについては知識があって、でも善良すぎてすぐに騙されそうなホリーの両親を助けるうちに、知識はないけど体力があって強い自分たちが力を合わせれば、もっと宿屋を大きく出来るんじゃないかって話になったんですって。
「リンジーとウォルトも手を貸してくれたおかげで、古かった建物を修繕して綺麗に出来て売り上げもよくなったんだよ」
「元S級冒険者が営む宿舎と聞いて泊まりに来てくれる人も増えたの」
「これで両親も死なないで済むかもしれない」
そうして転生者仲間も親しくなって、町に隠れ家を作って連絡を取り合うようになって、今では仲間というより兄妹みたいな関係なんだそうだ。
特にリンジーは、ゲームでは剣の腕は確かだけど苦労知らずのお坊ちゃん設定のキャラなので、自分は何も問題がなくやれている分、みんなの手助けをしたいと何かとユーインとホリーの相談に乗っていたんだそうだ。
それで余計にヘンリエッタの自分勝手な振る舞いが許せなくて、今日も彼女に会いたくなくて来なかったのね。
「彼の分も料理を渡しても大丈夫ですか?」
「この後、隠れ家で会う約束をしているので大丈夫です」
すっかりアードモアのリーダーはウォルトなのね。
レイフ様に答えてリンジーの分の料理を受け取っていた。
殿下や教皇のように先頭に立って引っ張っていくタイプではなくて、バランサータイプなんだろうな。
二番手のリンジーははっきりした性格をしているみたいだから、フォローに回ることでうまくいっているのかもしれないわ。
「悪いが、もう俺としてはヘンリエッタに仲間をいっさい関わらせる気がない。記憶を消してもらいたいと思っている」
「レオン、それは僕も同じですよ。誓約を破るようなことまでしているなんて。特に平民のふたりはそんなことが知れ渡ったら大変なことになる。彼女も大変なのかもしれませんが、もう同情できる状況ではありません」
「仲間を守ることのほうが大事だよ」
教皇もふたりに同意して、ヘンリエッタは今後いっさい仲間と接触させないことになった。
リーダーたちにとっては、仲間を守ることのほうが優先されるのは当たり前の話だ。
私としては……アラサーで会社員をしていた彼女が、なぜあんなに感情的で自分勝手なふるまいばかりをしたのかが気になるわ。




